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メディアグランプリ

勉強会は「ダンケルク」のように


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:こっき(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「もう……頭がおかしくなりそうだ……」
 
手元の「レジュメ」の余白に書かれた、僕自身の走り書きだ。
この数ヶ月間、自分がどれだけ追い詰められてきたのかがよくわかる。まさか、この歳になってこんな思いを味わうことになるなんて、想像もしていなかった。
 
僕は41歳のサラリーマン。IT企業の人事部門で人材開発を担当している。
人事といっても仕事の内容は様々で、主だったところでは採用・部門編成・人員配置・評価・労務・組織開発・人材開発といった領域があるが、その一翼を担当していることになる。
 
僕の勤める会社の人事関係者には勉強好きが多い。
人事部門のトップ(大ボスと呼ぶことにする)が、大学院の修士課程を複数修了しているなどして、学術的な理論やアプローチを大切にしていることとも無縁ではない。
 
大ボスは自ら「塾」と銘打った社内勉強会をいくつか主催している。
僕が参加しているのも、そのうちの1つで、今年の5月から開始されたものだ。1年をかけて1冊の本を輪読していく、いわゆる「読書会」のスタイルを取っている。
 
勉強会の課題図書が、僕の担当する人材開発に関するものだったこともあり、僕は案内を受けるなり参加することにしたのだが、後に激しく後悔することになった。この勉強会の内容がとっても「ヤバいもの」だったからだ。
 
ヤパいポイントその1は「頻度」だった。
勉強会は週1回、毎週金曜日の朝8時から10時に行われる。大ボス以外のメンバーが課題図書を読み込み議論する「読書会」と、大ボス含めて討議をする「セッション」を隔週ごとに行う。それを1年間続けるという、なかなか過酷なメニューになっている。
 
ヤバいポイントその2は「課題図書」だ。
この勉強会の課題図書は「人材開発研究大全」という実に870ページもあるシロモノだった。厚さにしてなんと6cm。重さもなかなかのもので、気軽に持ち歩くことはほぼ不可能に近い。通勤用のリュックサックに入れると形が歪むだけでなく、背負った時の重量感から、二宮金次郎にでもなった気持ちになる。
 
そして、ヤバいポイントその3は冒頭にも書いた「レジュメ」だ。
レジュメとは「要約」を意味するフランス語で、大学のゼミ形式の授業などで事前に配布されるサマリ資料のことだ。参加者は1章ずつ持ち回りでこのレジュメ作成し、議論していく。いかに適切に要約するか。そこから、いかに本質的な問いを立てるか。レジュメこそがその後の議論の質を決めるので、まったく気を抜くことができない。順番が回ってきた時は発表の1週間前から少しずつ仕上げていく必要がある。
 
そして、この勉強会の最大のヤバいポイントは「大ボスとのセッションの激しさ」だ。
隔週で行われる「セッション」の回は、いわば「大ボスとの対決」の時間だ。とにかく「ちゃんと頭を使って考えているのか」を、問われ続ける過酷な2時間になるのだ。
 
大ボスは、
「この章で研究者が言いたかったことは何だ?」
「この章のヒドゥンアジェンダ(隠された思惑)は何だ?」
「得られた『示唆』は何か?」
「議論すべき『問い』は何か?」
を問うてくる。
 
スマートに答えることが求められるわけではない。いかに悶え苦しんで考えたかが重要になってくる。だから、安易に答えるわけにはいかない。本当に頭使って考えたのかも、同時に問われることになるからだ。
 
そもそも、毎回の議論のポイントになる「問い」のほとんどは、明快に答えが出せないものばかりだ。むしろ、すぐに答えが出ないもの、考え方によっては答えが変わるものほど、良い「問い」として、その場に投げかけられる。
 
「採用で測るべき『優秀さ』とは何か?」
「人材開発の『ビジネス的な成果』を測ることは可能か?」
「リーダーシップは『学習』できるのか?」
 
とはいえ即座に答えを出せない問いに、いつまでも苦悩していればいいというわけでもない。考え抜いた上で答えを出す勇気も必要になる。「答えがない」という答えは、頭を使っていないだけだと一蹴される。
 
一人の人事パーソンとして。
その前に、一人のビジネスパーソンとして。
いやそもそも、一人の人間として。
自分はその問いにどう答えるべきなのか。
 
悩んでいても大ボスの問いかけが止むことはない。
「お前は本当に考えて抜いているのか?」
「曖昧な答えではダメだ。きちんとポジションを取れ(自分の主張を込めろ、の意味)」
 
いわば知性の神との対決。ただの人間ごときが叶う相手ではない。
飛び交う「言葉の銃弾」の雨の中、逃げ惑いながら、ときどき撃ち返しながら、戦場を駆け抜けるようにして、セッションの2時間が終わる頃にはグッタリとしている。
 
そういえば、最近こんな映画を観たことを思い出した。
秋に公開された「ダンケルク」という戦争映画だ。第二次世界大戦下のフランス・ダンケルク海岸で、ドイツ軍に包囲された連合軍兵士たちが降り注ぐ銃撃・砲撃の中、決死の撤退に挑み続ける物語だった。
 
この勉強会の現場は「ダンケルク」そのものだった。
銃弾が飛び交い、逃げる場所もない。戦場に放り込まれたあとは、休む間もない絶望感が最後まで続く。終了後にグッタリと疲れ果ててしまうところまでソックリだ。
 
そして疲れ果てて思わず書いたのが、冒頭の走り書きだった。
「もう……頭がおかしくなりそうだ……」
 
よほど追い詰められていたんだろう。
41歳のおじさんになっても、こんなに追い詰められることになるとは思わなかった。でも、大人の学びとは、そもそも、こういうものなのかもしれないとも思い始めている。
 
大人の学びの7割は経験から学ぶという。実戦と実践から学ぶということだ。
残り3割のうち2割は「尊敬できる人からのアドバイス」、そして残り1割が「研修」だということだ。
 
これは実感値とも近い。
仕事や家庭というのは、自分から汗をかいて、恥をかいて、ベソをかいた経験からしか学べることはないと、よく思うことがある。
 
この勉強会による最大の学びは、こうした過酷な時間こそが、知的な経験値を増やし、自分の脳みそをUPDATEしてくれるということかも知れない。40代に入ってからも知的タフネスを鍛えるためには、あと数ヶ月間続くこの「ダンケルク」を、喜んで戦い抜くしかない!
 
……正直、やだけど。
 
 
***

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2017-12-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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