プロフェッショナル・ゼミ

「くりぼっち」もイイんじゃない?《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:オールイン関谷(プロフェッショナル・ゼミ)

今日、池袋の街で、ボクはとっても可愛らしい語感の言葉に出会ってしまった。

「くりぼっち」。

12月のある土曜日のことだった。
あちらこちらの店から、節操なくクリスマンスソングが鳴り響く池袋東口・サンシャイン通り。
歩道は、若い世代のグループや買い物客、そして外国人観光客でごった返していた。
ボクは、仲良く歩いている女子高生の3人組とすれ違ったときに、その言葉を聞いたのだ。
コロコロとした口調で、大きな声で歩きながら話す彼女たち。とっても楽しそうで、きっと今なんにも怖いものなんてないだろうなぁ、って感じだった。今の時代の、幸せの象徴かもしれない。

その真ん中の子が、大きな声でこう話し出したのだ。
「あーもう、このままじゃくりぼっちになっちゃうかも。来週どうしよう~」
「○○ちゃん大丈夫だよ、キミはぜったいくりぼっちにならないです!」
左側の女の子がフォローを入れると、右側の子も合いの手を入れた。
「そうそう、大丈夫。まあ、最悪そうなりそうだったら、アタシらがいるじゃん」
その言葉に、まん中の子も笑顔を取り戻して、
「そうだね。ま、△△ちゃんと□□ちゃんがいればきっと平気かー」
と2人の手をとると、楽しそうに通りの喧噪のなかに消えていった。

「くりぼっち」、かぁ。
なんかころころっとした可愛らしさが耳に残る言葉だね。それを聞いてボクは思わず笑みを浮かべてしまった。
栗の妖精がイガイガの服を着て、ころころ落ち葉のうえを転がってるみたい。
いいなぁ。くりぼっち。

というわけで、ボクは喧噪のなかをくりぼっち~、くりぼっち~♫とちょっと節をつけて口ずさんでみたら、なんか不思議に楽しい気分になってスキップしながら仕事先に向かったのだった。

その夜。
「へ? 高野さん。『くりぼっち』の意味を知らないの。マジですか? さすが世代だわ」 マキちゃんは、まるで珍しい動物を見るような目でボクを一瞥してそう言うと、ため息をついて、鉄板のたこ焼きを転がしはじめた。
マキちゃんは西武池袋線・江古田駅前でたこ焼き屋兼立ち飲みバーを1人で切り盛りしているちょっと気っぷの良い女性だ。この店はカウンターしかなくて6人も入れば満員の小さな店だが、スッキリとしたマキちゃんの人柄と、その場で焼いてくれるたこ焼きの美味しさに惹かれてちょいちょい通っているウチになじみになってしまった。

ボクの左隣でチーズたこ焼きをつまみながらハイボールをのどに流し込んでいた源さんもマキちゃんの言葉にかぶせるように、この話題に乗っかってきた。

「高野さーん、若ぶってるけど案外世間に疎いんじゃないですかぁ。あたしゃ、その意味知ってますよ~ん」というと、「はい、マキちゃん!」とおもむろに右手を高く掲げた。

「わたしも、知ってまーす。いまさら、こんな話題を振るなんて、高野さん、物知りだと思ってたけど案外そうでもないのね~」
右隣でチーズカリカリという料理を肴に赤ワインを飲んでいた、こちらも常連のリョウコさんも話題に首を突っ込んできた。リョウコさんの目の下はほんのり赤くなっていてちょっと普段より色っぽい。

「へ、そうなの。知らないのボクだけ?? どういう意味なの??? 」

ボクは、訳も分からず首を振って左右の二人を見ると、たこ焼きを焼いているマキちゃんに
助けを求めるように最初の質問を繰り返した。

「まあ、今日街を歩いていたら女子高生がくりぼっちっていうのを聞・い・た・の! でね、くりぼっちって、なんか可愛い言葉だなぁって、そう思ったわけ。だから、なんか流行語なのかなって、マキちゃんに聞いただけですぅ」
ボクがちょっと強い口調でそういうと、3人とも一瞬の沈黙の後、腹を抱えて笑い出した。

「いや、あのね、高野さん。もう、マジで言ってる? それヤバいわ。ちょっと、リョウコさん、説明してやってくれる。私、もうおかしくて。たこ焼きひっくり返せないわ」
マキちゃんがそういうと、リョウコさんが諭すようにボクの目を見ながらこう言った。
「あのですねー、説明してあげよう。くりぼっちとは、クリスマスにひとりぼっち、ってことなの。で、クリスマスにひとりぼっち、クリスマスにぼっち、で、くりぼっち。というわけ。だから、可愛いわけでもなくて、けっこう彼女たちには切実な心の叫びだったのかもよ」
「そうそう。だから、高野君が『なんか栗の妖精みたい』って言ってるのが超おかしくってさ。ほよよよーんて、その辺飛んでそうじゃない、妖精ちゃんが」といって源さんは力任せにボクの背中をバンバンたたく。
「源さん、痛いじゃないですかー。でもね、今、とんでもない間違いに気づいた心のほうが痛いですわー」とボクが叫ぶと、また狭い店内に爆笑がこだました。

「まあ、最近の言葉だからねー。でも、4、5年前から使われてるみたいだから、高野さん、まあちょっと気づくのがちょっと遅かったねぇー」
マキちゃんがフォローとも、突っ込みとも付かない言葉を重ねる。
「たしかに私も、聞いたのは去年くらいからかなあ。でも、最近の子たちはおもしろい言葉を作るよね」と、リョウコさん。
源さんも「まあ、そうだね。俺も知ったのはおととしかそこいら、だな。誰が言い出したんだろうねぇ。あ、たこ焼き6個焼いてくれる?」と言いつつ、ハイボールをまた1口、グビリ。
ボクが笑いのネタを提供した形でその場を和ませ、くりぼっちの話はいつのまにか別の話題へと変わっていったのだった。

ところが20分後、源さんが突然また、こんな話をつぶやいたのである。
「さっき、くりぼっちの話になったけどさぁ。クリスマスにひとりぼっちってことあった?
マキちゃんとか、リョウコさんは?」
「そうだねぇ、結構あるよ。私は。学生の頃とかクリスマスは1人だったなぁ。ウチ、美大だったから絵ばっか描いてた気がする」
焼きそばを焼いていたマキちゃんはふと手を止めて、少し上目遣いで昔を思い出しているようだ。
「私は、そんなに一人だった記憶は無いかな。いまの旦那ともけっこう長く付き合ってたしね」とリョウコさんもつぶやく。
「でも、昔は今とクリスマスのプレッシャーが全然違わなくない?」とマキちゃん。
「プレッシャーって?」と思わずボクはマキちゃんに質問する。
「あのね、わたしの学生の頃はバブルのまっただ中って感じだったんだけど、なんかクリスマスって1人で居ちゃいけない雰囲気ってなかった? もう、なんか大学の同期とかは、血眼になって彼氏探してたような、そんな気がする」
「そうよねー。あの頃はすごくなかった? なんかみんなティファニーの3連リングとかもらっちゃって。で、赤坂プリンスに泊まるのが当たり前みたいな感じで。もう、翌朝のフロントとか行列できてたって、いう」
「リョウコさん、泊まってたの、赤プリ?」
マキちゃんが突っ込むと、リョウコさんは「いやぁ、聞いた話よ。もちろん。でも、あの頃、ウチの旦那も結構頑張ってくれてたんじゃないかと思うの」
と微笑む。
「だって、もう一生懸命バイトして稼いで、冬はスキーとかよく連れてってくれて。旦那、若い頃は結構スキーが上手かったから、声かけてくる女の子も多くて、やきもきしたわね」
「おー、ゲレンデでリョウコちゃんのハートを奪っていたわけだ」
源さんが、合いの手を入れる。
「もう、何言ってんのよ、源さん。まあ、その他にもいろいろ良いところがあったから一緒になったんだけどねー。まあ、クリスマスの話題だったからちょっと昔を思い出しちゃった」
「たしかにあの頃は、分かりやすかったかもなぁ。男は、好きな女の子をゲットするために頑張って。プレゼント用意して。で、クリスマス一晩のために勝負をかける。なんか時代がそんな感じだったよねぇ」
と源さんもつぶやく。
「俺は結婚してたから、まあ、そのレースからは卒業してたけど、あの頃はもう、そんな感じだから、夜の街もすんごくギラギラしててさ。でもって、タクシー捕まえるのが大変でさぁ。もう、赤坂見附の駅の近くでは争奪戦だったね。みんな、もう1万円札の札束掲げてひらひらさせてタクシー止めようとしてさぁ。それでも、全然タクシー止まんないの。もう、阿鼻叫喚。あのときはアレが当たり前と思ってたけど、今思うとやっぱり異常な時代だったなぁ」
「そうだねぇ、私はその頃は大阪にいたから東京のことは分からへんかったけど、大阪も近鉄難波のあたりはけっこうそんな感じだったかも」とマキちゃん。
ボクも酔いが回ったせいか、思わず昔話を披露してしまう。
「そうだねぇ、ほんとあの頃はそんな感じだったよねぇ。大学の2コ上の先輩たちは、まだバブルのまっただ中だったから、景気の良いことばっかり言ってたなぁ。なんか、商社の内定もらったら、『ほかの会社に行かないでね』って言われて内定研修でハワイに連れて行かれてどんちゃん騒ぎしてたとか、ビンゴ大会の景品が車1台だったとか、もうそんな話ばっかりで。でもって、そんな時代絶対続かないな、って思ってたら、なんとボクの就職する年にバブルがはじけたって、いう」
「あー、そうなの。それはご愁傷様~。でも、まあ、あの狂乱に巻き込まれなくって良かったんじゃない。人生やっぱり苦労しないと駄目だめ」と源さんが俺の肩をがっちりと抱く。
マキちゃんとリョウコさんも「そうよそうよ。まあ、あのときが異常だったの」と口を揃える。そんなこんなでバブルの話題でひとしきり盛り上がり、江古田の夜は更けていくのであった。

でも、不思議なものだ。
明るくは振る舞っていても、ボクはこのお店でくりぼっちという言葉の意味を知り、なんとなくその言葉の持つ寂しさと陰を知ってしまった。するとどうだろう。心とは不思議なもので、言葉の意味を勝手に探り出す。
お酒の力もあるのだろうか。ボクは、くりぼっちだったのかなって思わず過去を振り返ってしまう。気の抜けたビールグラスを傾けながら。
そういえば、20代の頃のボクは、間違いなく「ぼっち」だった。
バブルがはじけた年、僕ら大学4年生を襲ったのは史上空前の就職氷河期だった。
みんな、仕事をつかもうと、内定を得ようと必死だった。
やりたい仕事を見付けよう、なんて言葉は甘い。有名大学でなかったボクは、必死で企業説明会へ応募するはがきを書き、エントリーシートに何十枚も長文の自己アピールを書き続けた。
先輩がハワイに連れて行ってもらったという商社から帰ってきた手紙には、「貴殿の今後の活躍をお祈りします」という言葉がさも当然のように書かれていて、ボクはその手紙を封筒もろとも高田馬場駅のホームにたたきつけて、足でぐしゃぐしゃに踏みつけた、なんてこともあった。
「ふざけるな、なんなんだよ。お前ら会社の連中がバブルで失敗したんじゃねーか。なんで普通に勉強してきた俺たちにそのツケが回るんだよ」
悪いことに、ボクはその頃高校の頃から付き合っていた彼女から別れを切り出されていた。きっと、就職活動に悪戦苦闘しているウチに、彼女への気配りや愛情を注ぐことができなくなっていたのだろう。彼女から拒絶され、就職も連戦連敗、自分はこの世に必要とされていないんじゃないか、って思い悩んでいた。
会社訪問を終えた夕方、ヨレヨレのスーツを着て、赤坂見附の駅からビル街を見上げた。数年前にはまったく想像もできなかったくらい、ビルの窓から光が消え、街からは活気がなくなっていた。
この国はどうなっちゃうんだろうって、不安になったものだ。

その後、ボクはなんとかテレビの制作会社に潜り込んだが、案の定激務で、泊まり込みなんてざらだったし、毎日朝から晩まで穴の開いたジーンズを履き替える暇も無く、ボロボロになるまで駆けずり回っていた気がする。
もちろん、そんな感じだったから、出会いなんてまったくなくて、新しい彼女なんて作る暇はなかった。
でも、それが普通だと思っていたし、給料は安かったけど仕事をしているっていう実感があって、決して気分は悪くなかった。俺たちの時代はこんなもんだろう、って思っていたんだ。

でも……、でもね。
くりぼっちかぁ。確かにボクの若い頃って、ほぼ、くりぼっちだったなぁ。
ああ、可愛い感じの言葉なんかじゃなくてとっても寂しくなってきちゃったよ。
あれ、なんか、もう1杯お酒飲みたくなってきた。
それもビールなんかじゃなくて、アルコール強めの。
マキちゃん、ウィスキー、シングルでもらえる? ロックでいいや。
なんか、脳内BGMにくりぼっち、くりぼっちー♬って流れてきた。今度は、バラード調の曲調ね。

「でもね、くりぼっちって、決して悪い意味で使われている訳じゃないみたいよ」
と、マキちゃん。彼女の声が右耳にカットインしてきて、ボクはハッと我に返る。
いつのまにか、源さんもリョウコさんもお店からいなくなっていた。次のお店へと河岸を変えたらしい。

「なんかね、今の若い子たちはくりぼっちって口ではいいながら、一人で過ごすことも謳歌しているみたい。SNSとかで仲間募って連絡し合ったり、なんかイベントもあるみたいよ。あえて、彼氏と過ごさずにクリぼっちを楽しむ女子もいるみたいやね」
マキちゃんは「くりぼっち」という言葉を検索したらしく、スマートフォンの画面をみながらつぶやく。
「そやねー。私もぜんぜんクリスマス1人でも気にならへんかったしなー。まあ、ぼっちでもええやん。そんな言葉に振り回されるより、一生懸命自分が頑張ったことの方が価値あるで。私もそうやったで」といってにっこり微笑んだ。

「あれ、なんで?」
と思わずつぶやくと、マキちゃんは
「そら、顔見たら分かるわ。そうそう考え込まんと、ま、たこ焼き食ってパワー付けてーな。少なくとも、今年のクリスマスは高野さん、絶対くりぼっちにはさせへんからな。この店で私が待ってるから、な」
と、とびっきりの笑顔を見せる。

「そうだね。今年はそうしますか」
と言ってボクはマキちゃんに向けてグラスを掲げてから、歌い始めた。

「くりぼっちー、くりぼっちー♬ 今年はおさらば、くりぼっち~♪ たこ焼き食って、くりぼっちー♫」
「高野さん! 最後、なんかちゃうやろ(笑)」
「あ、間違えた(笑)」

笑い声が江古田の夜にこだまする。

江古田の街はこんな風に優しいのんべぇたちばかり。くりぼっちさん、いらっしゃい。

***

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