プロフェッショナル・ゼミ

ジェットコースターに乗る恐怖《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田あゆみ(プロフェッショナル・ゼミ)

「何で乗るって言ってしまったんだろう」

ジェットコースターを前に、かつてないほど緊張していた。
まず、その高低差を目の前で実感して、鳥肌が立つ。
思った以上に下に落ちる。どんどん落ちる。
しかも物凄いスピードである。
激しい。激しすぎる。
先に乗っている人たちの叫び声が聞こえる。
その声が束になって、襲ってくる。

「きゃー!うぎゃー!あー!」
助けを求めているようにしか聞こえない。

心配になるくらい甲高い声の集合体。

あんな高さから落ちるなんて。
死んでしまうかもしれない。

ちゃんとしたテーマパークのジェットコースターである。
しっかりメンテナンスもしてあるはずだ。
当たり前だが、死ぬわけがない。
それは理性でわかっているはずなのに、私の恐怖心は過剰に作用していた。。
この怖さは、もう、理性で制御出来る域を超えていた。

「どうして乗るって言ってしまったんだろう」

一緒にここへ来た友達の手前、逃げ出すわけにはいかなかった。
旅行の前に、どのアトラクションに乗るか、時間をかけて話し合っていた。

折角だし、一番人気のこのジェットコースターに乗ろうと言い出したのは、私だった。
みんなが3時間も待つくらい人気のアトラクションである。
面白いはずだと思った。
パンフレットに載っていたイメージ図が、綺麗で楽しそうだったのもいけない。
添えられた一文に心惹かれたのもある。
まるで空を飛んでいるような気分になれますとのこと。
ロマンティックじゃないか。
わくわくするじゃないか。

だから絶叫マシーンが苦手にも関らず、乗ると言ってしまった。
もう本当に自分が信じられない。

「何で乗ろうなんて言ってしまったんだろう」

怖い。

長かった列は次第に、短くなっていく。
段々とジェットコースターが大きく迫ってくる。

警告が何度も繰り返し、パネルに表示される。

妊娠中の方はご遠慮下さい。閉所恐怖症の方もお辞め下さい。高所恐怖症の方も、気分の優れない方もお辞め下さい。

そんな表示を目にすればするほど、増々、怖さが増す。

こんなにも怖い。実際のところちょっと震えるほど怖い。
もう、これは気分が優れない人に、私は該当してしまうのではないか。

アトラクションを終えてきた人々の顔を、思わずじっと見つめてしまう。
涙目の人が半分くらい。
唖然としている人が3割くらい。

怖いんだろうな。
表情が怖さを物語っている。

乗り込み口が徐々に近づいてくる。

とにかく乗らなくてはいけない。もう逃げられない。
どうにかこうにか自分を励まし、何とか座席に腰かける。

発車。

がたんごとんと、上へ上へジェットコースターは昇っていく。

まだ上るんだ、まだ行くんだ?
待って、どこまで行くの。

もう5分は上昇し続けたのではないか、と思った。
たぶん本当は時間にして、数十秒であるはずなのだけれど。

早く一番上までたどりついて欲しいという気持ちと、たどり着いたら下るだけなので、まだ着かないで欲しいという気持ちが交差する。

もう何も考えられない。
心臓の音がばくばく聞こえてくる。
ここで落ちたら心臓が壊れるのではないかと思う。
いや、もう壊れているのではないかと不安になる。
これまで聞いたことのないくらい激しく、心臓がばくばくと音を立てている。
力強く鼓動を刻み過ぎて、割れてしまいそうだ。

ごとんと音を立てて、コースターはてっぺんにたどり着いた。

あーもう、落ちるなら早くして。
これ以上焦らされたら、耐えられない。

そう思った瞬間、ゴーっと落ちた。頭から落ちる。落ちる。落ちる。
地面が見える。高い。高い。高い。
まだ、落ちる。
ものすごいスピードで落ち続ける。
心臓が飛び出しそうだ。
血が全身を駆け巡っているのを感じる。
恐ろしすぎて、声さえ出ない。

目をつむろうかと思った。
けれど、前が見えないと、もっとさらに怖い気がして、結局目を見開いた。

地面が迫ってくる。
このままだと、もうだめだ。
心臓は、速すぎるメトロノームのようにドキドキと鳴っている。
もう一度、バーをぎゅっと掴む。
今、握力検査をしたら史上最高記録を更新するかもしれないほどの強さで。
足が震える。
歯を食いしばる。

大きな落下の後、ジェットコースターは、勢いを落とすことなく、また少し上った。

やっと声を上げられるようになり、全力で叫んだ。
「うおー」

下へ、上へ、ジェットコースターは動き続ける。
ぐるっと回って、もう地面がどちらにあるのかさえわからない。
私は私なのに、私の支配下に身体がない異常な状態である。
とにかく叫ぶ。
スリルが楽しい。
気付いたら、楽しくなっていた。
何だか心が軽い。

何度も上へ下へと動いた挙句、ジェットコースターは元の位置へと帰ってきた。
終わったのだ。
ふーっと息を吐いた。

遊園地やテーマパークに行く機会はそれほど多くない。
けれど、私は普段の生活の中で、たまにジェットコースターに乗ることがある。

今、私はまさに新しいジェットコースターに乗り込んだところだ。
プロフェッショナル・ゼミという名の。
がたんごとんと、コースターがレールの上をゆっくりと上がっていく音が聞こえる。
つい先日、走り出したばかりのジェットコースターである。

先月末に4か月間のライティング・ゼミを終えた。
正直なところ、大変だった。
課題を毎週出すというのが、かなりきつかった。
どこで書く時間を作ったらいいのかと、追い込まれた気持ちになったことが何度もあった。
当然のことながら、仕事をしながら、課題の為に書く時間をつくらなくてはならない。
締め切りの日が、ちょうど出張と重なった時もあった。
ボランティアでリーダーとして関わっている大きなプロジェクトが大詰めの時期もあった。
それでも、どうにか書いて、どうにか課題を提出するのは、自分との闘いだった。
書くネタが全く浮かばずに、頭を抱えたことも多かった。
自分の生活を、人生を、考え方を振り返り、なんて足りない人間なんだと落ち込みながら、何とか書いてきた。

それが、これから挑戦するのは、プロフェッショナル・ゼミである。
字数も2000字から5000字になる。
これまで苦しんできた分の倍以上の字数である。
そんな長編の書きものを毎週1本課題として提出しなくてはいけない。

プロフェッショナル・ゼミの存在を知った時は、純粋に楽しそうだと思った。
もっと書ける自分になりたい。
ただただ、強いあこがれで受講を決めた。
プロを目指せるゼミなんてかっこいい。
もっと学びたい。

私の前にはきらびやかな未来のイメージがどんどんと浮かんだ。
プロフェッショナル・ゼミで活躍する私の姿である。
すらすらと、面白いものを書き上げ、良い記事を量産する私。
いくつかの記事がバズを起こして、あっという間にプロになって、いつの間にやら本を出版する私。
さらには、その本はどんどん売れて、重版を繰り返し、有名作家への道を進み行く私。
希望と喜びに満ち溢れた今後の私の人生が、どんどんと脳内にイメージされていく。
なんて楽しいんだろう。
なんて素敵なんだろう。

しかし、開講日が迫ってくると共に、わくわくとした気持ちよりも、恐怖心の方が強くなってきた。

そんなとても厳しい場所で、実力ある優秀な方たちと一緒にやっていくことなんて出来るのだろうか。
毎週2000字でもこんなに苦労して、心を消耗しながら書いてきた。
そして、フィードバックの度に、どきどきしてきた。
書くことはものすごく楽しい。
でも、続けるのは本当に大変である。
仕事だってある。
時間管理をしながら、書く時間を、これまでよりもさらに、いっぱい確保しなくてはならない。
書き続けていたら、きっともっともっとインプットもしたくなるだろう。
既に読みたい本だらけになっているし、見たい海外ドラマだって山のようにある。
授業についていきながら、書いて、インプットもして、そして普通の生活もしなくてはいけないのだ。
ネタだって、5000字も書けるものというと、2000字よりもさらに刺激的で、重厚なものが必要になりそうだ。
そんなもの私の中に蓄積されている気がしない。
そして、また、自分と向き合わないといけない。
時に、見たくない自分も意識せざるを得なくなる。
結構きつい。
考え出すと、なんと大変なことか。

あー、なんでプロフェッショナル・ゼミなんて始めちゃったんだろう。

でも、もう列に並んでしまった。
手続きしてしまった。
ここで逃げるわけにはいかない。

意を決して、一度目の授業を受けた。

「厳しいからね」
三浦さんが画面の向こうから、真顔で話しかけてくる。
怖い。

なんで好き好んでこんな厳しい講座を受講することに決めてしまったんだろう。
私は、私なりに毎日生きていくだけでも一苦労なのに。

私には、わかる。
小心者で、その癖に変なプライドは高くて、すぐに傷つく私だ。
きっと、厳しさに辛くなって、こんなレベルの高いところでやっていけるか、と課題の提出を諦めそうになることが、これから何度もあるだろう。
そして、きっと何度もその度に思ってしまうだろう。

あー、なんでプロフェッショナル・ゼミなんて始めちゃったんだろう。

ただ、ジェットコースターの良いところは、乗ってしまえば、後はもうどこにも逃げようがないところだ。

椅子に座る。
座ってしまえば、自分の意志と関係なく、コースターは上へ上へと昇っていく。
どんなに怖がって見せても、叫び声をあげても、震えていても、おかまいなしに、レールの上をゆっくりと。

プロフェッショナル・ゼミも同じだ。
もう、乗ってしまった。
後は、ただただこのコースターに振り落とされないように、手すりをしっかりつかんでいくだけだ。

ジェットコースターは、並んでいる間、そして最初の大きな下降の前までにコースターが上昇していく時間が実は一番怖いものだ。
どんどんと怖いことを想像して、もう耐えられないくらい恐ろしい気持ちになる。
前にジェットコースターに乗った人の様子を伺っては、余計に怖くなる。

一度目の授業を受ける前に、私は過去にプロフェッショナル・ゼミの先輩方が書かれている文章を読んだ。
素晴らしい作品が並んでいる。

こんなすごいものが、私なんかに書けるのか。
増々不安になる。
でも、コースターに乗る前に感じる恐怖の度合いが大きければ大きいほど、降りた時の達成感、爽快感も大きい。

この間乗った遊園地の本物のジェットコースターだってそうだった。

茫然自失の状態でアトラクションを降りた。
足は痺れ、何だかふらふらした。
でも、心も頭もすっきりしていた。

私は自分が無敵になった気がしていた。
ものすごい達成感を感じたのだ。
そして、心の奥からパワーがみなぎり始めたのを感じた。
きっと今の私なら、何だって出来ると思った。

恐怖を乗り越えて、手に入れたのは自分への信頼感だった。
打ち勝てた、やるじゃないか自分! という大きな自己肯定感。

人のことを勝手にジャッジしてはいけないと思いながらも、ついついこの人はこんな傾向があるなと観察してしまう。

そして、一番の観察対象は、いつも自分なのだった。

知らず知らずのうちに、自分の行動を、心の動きを頭が追っている。
そして、意識しないうちに、自分を貶していることが多いことに気付く。

また、朝起きるのがぎりぎり。
何やってるんだ、自分。

また、ミスした。
もう、頭悪いな、自分。

自分で自分への信頼を失うことの多い日々である。

そんな人生の中で、時折、乗ることになるジェットコースターは、実は自分を自分で認めるための大きなチャンスになり得る。

大きな挑戦をする前は、いつも恐怖心に負けそうになる。
どうしようと気づくと頭の中で何度も同じフレーズを吐くことになる。

でも、怖さを感じるのはちゃんと自分が、これまでよりも難しいことに挑戦しているという証である。

先日、1年ぶりに同じテーマパークへ行き、同じジェットコースターに再び乗ってきた。
あの心臓が飛び出るような恐ろしさを感じることは、もうなかった。
ただただ、楽しかった。

乗り越えたものに対しては恐怖心は感じないものなのだ。

何かをやってみようとするとき、それをするのが怖かったら怖いほど、ちゃんと新しい挑戦をしているということになる。

プロフェッショナル・ゼミの受講を終える3か月後、このジェットコースターに対して、私はどんな感想を抱くだろう。

あー、怖い。
とても怖い。

でもどうせなら、怖くてたまらないからこそ、覚悟を決めてまっすぐにこの恐怖を楽しもうじゃないか。
挑戦することを選んだ自分に少しばかりの誇りを持って。

スリル満点のアトラクションは始まったばかりだ。

***

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