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プロフェッショナル・ゼミ

落ちこぼれ実習生にだってちゃんと意味はあるのだから《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保明日香(プロフェッショナルコース)

「フィードバックはちょっとビビると思います。おそろしい言葉が待ってると思いますので……」

脅しがすごかった。
プロフェッショナルコース第1回目の講義のことである。
もちろん、今までとは違ってかなり厳しくなりますよ、と受講前から聞いていた。
しかし、冒頭の数分で「厳しいです」を繰り返し聞けば聞くほどこわくなってくる。

参加しているメンバーもまた、私をひるませた。
参加メンバーには記事の掲載率が高い“常連さん”の名前がずらりと並び、字面だけで何とまぁ贅沢なものだった。

8月からライティング・ゼミを受講しはじめた私。提出率は100%だったものの、掲載率はそれほど高くなかった。特にバズることも無かった私の記事は多くの中に埋もれ、私の事を知っている人はあまりいない気がする。入試を何とか突破したとはいえ、やはり不安でいっぱいである。

だが実はこのようにレベルの高いところにポンッと入ったことは実は初めてではない。私は数年前に同じような経験をしている。

どこで? 

それは、母校での教育実習現場で、だ。

「資格の1つとして、教員免許、取ろっか」
大学に入り、友人と話をしていた。私は大きく分けると英文科に属するので単位を取れば英語科の免許を取得となる。単位のために現場での実習が必須となるため高校に戻ることは最初からわかっていたが、たかが2週間だしまぁ何とかなるだろうと思っていた。
だがそれが甘かった。

私が通っていた中学校は教室の窓ガラスが常に1枚は割れているような荒れた学校だった。大人しくしていれば内申が取れるそういう環境下にあった。そのおかげでラッキーなことに進学校に進めたのだが入ってからおそろしい毎日が待ち受けていた。

まず、基礎学力が違う。
抜き打ちテストで「全然できなかった~」と言っていた友人のテストを見ると86点! 私は……62点。このような状況は卒業するまで日常茶飯事だった。彼らとはスタートラインが違ったのだ。私は3年間で赤点を何度も取りながら補修をこなし、何とか卒業をしたのだが、その後、母校は更なる進化を遂げていた。

なんと、私が高校を卒業してから、学区制が撤廃され、よりレベルの高い進学校に成長していたのだ! 私が高校生だったらきっと入ることができないという程にまでレベルが上がっていた。聞くと、数学オリンピックに出て優秀な成績を収めただとか、TOEIC900点がごろごろいるとか、トリリンガルがいるとか。

生徒を含めても私の学力は一番低い自信があった。そんな中で60分、授業をするなんて拷問だと思った。授業を聞いてもらえないかもしれないという不安もあった。しかしそれをこなさなければ教員免許は獲得できない。私には立ち向かうしか選択肢は無かった。

「はじめまして。久保明日香です。1年2組の皆さん、これから2週間よろしくお願いします!」
元気よく挨拶をしたのだが
「……」
まさかの無反応! こういう時は何人かが質問してきたり隣の席の子とひそひそ話をしたるするものではないのだろうか? 生徒の学力が上がると学校の雰囲気も変わるのか? どうしようと焦っていたが、クラス担任の先生の
「はい、拍手!」
の言葉に救われた。

その後職員室で先ほどの2組担任兼私の担当の英語科、坂本先生から実習の流れの説明を受けた。
「みんな緊張してるのよ、反応が薄くてごめんなさいね。久保先生は1週間、まず英語科の先生の授業を見学してもらいます。そして残りの1週間にクラスの授業をやってもらいます。最終日は2組の授業が締めね。それには英語科主任の先生も見に来て、細かいフィードバックももらえるのでしっかり学んでくださいね。あとは……放課後の掃除の監督と毎日の日誌のチェックかな。日誌のチェックは生徒の素が出るから入念にチェックするようにしてください」

なるほど。
1週間準備期間がある。作戦を練ればなんとかなるかもしれない。知識では太刀打ちできない可能性が高いなら……私にしかできない授業をすれば良いのではないか? 

まずは生徒との距離を縮めようと思った。

私は積極的に2組へ足を運び、生徒と話をすることにした。ホームルーム、放課後、掃除。一緒にこなしていくと
「あ、こいつ、ただの元気なだけな奴じゃないかも」と思われたのだろうか。
次第に生徒から声をかけてくれるようになった。ただ、呼び名は“先生”ではなくて“あすかちゃん”だったが。それでもよかった。これは、教育実習生という私だけがもらえる“ちゃん”付けの特権だ。

通い続けた結果、数日の間に私はすっかり2組の生徒の中に溶け込んでいた。
「あすかちゃん、ばいばーい」
「はーい、気を付けてねー!!」
放課後はそんな会話が飛び交う。

そんな中、担当の先生から呼び出された。
「久保さん、ちょっといいかな」
あーもしかして怒られる? 生徒と距離が近すぎたかな。一応実習の“先生”なのだから先生らしく振舞わねばならなかったか……そうドキドキしながら職員室へ向かうと
「久保さんにお願いがあるの。クラスに木村さんって子がいるでしょ? あの子、なんかちょっとクラスになじめていない……というかいつも1人でいることが多くて。ちょっと見ておいてほしいの。もうすぐ文化祭だし、クラス全員で何かを成し遂げてほしいから」

確かに木村さんは1人でいることが多かった。友人と話をしているのはほとんど見かけたことがない。その話を聞いてから私は掃除の時や放課後に文化祭の準備をする時など木村さんを意識するようになった。

「はーい、2組は文化祭でダンスをしまーす。練習、するよー」
文化委員が声をかけてみんなで輪になって練習をしているとき、木村さんはひとりでぽつんと後ろの方に立ったままだった。私は木村さんにそっと近づき
「どした? みんなと一緒に練習しなくていいの?」
と声をかけた。
「ここ、つまんないもん」
なるほど。つまんないか。じゃあどうしたら興味を持ってくれるのかな。そう思いながら私なりの経験談を彼女に語った。

「確かに、みんなといるのは面倒な時もある。私も高校の時そうだった。でも、今になって、あぁ、もうちょっと高校の時、みんなに心開いておけばよかったな、って思うよ。大学に行ったらさ、授業も基本的にバラバラだし、こうやってみんなでわいわいするのって多分、今しかないんよね」
「でも……」
「んー? ダンス嫌い?」
少しの沈黙の後、木村さんが小さい声でこう言った。
「違う。私の方が踊れるのに、あの子が出しゃばってるのが嫌」

おお! みんなの和に入らなかった理由はそれか!

「まぁまぁ委員だし? 仕方ない時もあるよね? とりあえず、気が向いたらさ、踊ろ? そして私にも教えてよ。文化祭当日は実習終わっちゃってるけど……せっかくだしマスターしたいな、NMB」

あまり声をかけすぎると木村さんが目立ってしまうと思ったのでそう言い残して一旦その場を離れた。

その後も練習の機会のたびに私はそっと木村さんに近づき、そっと木村さんから離れ、まんべんなく生徒に話しかけて一緒にダンスの練習をした。その過程でダンスリーダーの子にそれとなく
「木村さん、NMB完璧に踊れるらしいよ」
と情報を流したりもした。

数日後、木村さんは上手く踊れない子の専属の先生になっていた。

「よしっ」
私は心の中でガッツポーズをした。突然やってきた教育実習生だった私からみても、クラス全体であぶれている人はおらず、団結しているように見えた。また、私もこの期間に生徒との距離を縮めることができている実感があった。

あとは……英語の授業をどう展開するかである。
結論から言うとこれがどうにもならなかった。

「untilとtillの違いは~……」
「ここのtheとその後のtheの違いは~……」
など接続詞や冠詞の細かい箇所まで教えている他の先生方。圧倒的な知識量の差。

私は今まで英語は雰囲気だ! 音で覚えたら問題は解ける! という独特な勉強法を続けていたため文法がさっぱりだめだった。
しかし、高校の授業で教えるといえばまず文法である。とにかく1週間、耐えるのだ。範囲は限られている。そう言い聞かせてそのページの文法に関してはちゃんと答えられるように必死に1単元、約10ページを猛勉強した。細かい接続しや冠詞についても自分なりに考えをまとめた。あんなに寝なかったこと、英文法を勉強したのは後にも先にもない。受験期以上に勉強をした。

そして、授業の実践日。
正直、あまり覚えていない。ただ、授業後、2組の生徒が
「あすかちゃん、発音よかったよ」
「やたらと途中で“いける?” って聞いてくるのが面白かった」
「何でずっと笑ってたの?」
など様々な感想を報告してくれた。覚えていることといえば寝ている生徒は1人もいなかったことと、私らしい授業進行ができたような和やかな雰囲気を終始、保てたことである。少なくとも生徒はみんな、初めて見る教育実習生の授業に興味津々だった。

「久保さん、今日放課後、フィードバックするから職員室に来てくれますか」
と英語科主任の先生に呼ばれた。

「厳しめのフィードバックと優しめのフィードバック、どっちがいい?」
そう聞かれると答えづらい。しかし、このフィードバックは一度きりだ。
「……厳しめでお願いします」
「わかった。まず……あの授業、何を教えたかったのかがわからない」
思ったよりバッサリ正面から切りつけれらた。
「一つ一つの冠詞の意味なんて、彼らに、受験に必要かな? 大事なのは単元の文法構文でいらないところに時間をとられすぎ。そもそも……」
以下ズバズバと切られていった。

情けないことに私は気付いたら泣いていた。泣くつもりは無かったし、泣くのは卑怯だと思った。厳しいフィードバックを求めたのは自分だし、泣いてどうにかなるものでもなかった。それでも涙は止まらなかった。

先生は黙々とフィードバックを続け、一息ついた時に私が泣いていることに気付いた。
その時のぎょっとした顔を今でも覚えている。
「どうしたの! 何も泣くこと無いのに。別に悪い授業だったって言ってるわけじゃないのよ。ただ、仮に先生になったら、高校生の彼らに教えるのは何かベストかっていうのを説明してだけなのよ」
「すみません、すみません、違うんです」
何が違うのかよくわからなかったが泣いていることに対して私はひたすら謝った。

「……落ち着いた?」
「はい、大変失礼いたしました」
「いいえ。じゃあ最後にもう1つだけ。他の実習生の授業も私は見たけれど、久保さんの授業は生徒との距離感、コミュニケーションの取り方が、一丁前だったわよ。毎日、頑張ってたのね」
そう言ってくれた。私らしい授業をするという目標は達成できていたようだった。

そして最後の日の放課後、挨拶に2組を訪れた。

「2週間という短い間でしたが、貴重な体験ができました。本当にありがとうございました」
そう立ち去ろうとしたとき、クラス全員が立ち上がった。

「せーのっ。あすか先生、今までありがとうございました」
初めての“先生”呼び。込み上げてくるものがあったがみんなの前で泣くのは恥ずかしかったので目を精一杯細くして、笑顔でごまかし、
「こちらこそありがとう~!」
そう言って教室を出た。危なかった。

実習生の待機部屋を片付け、帰るとき、2組の生徒数人が
「あすかちゃーん!!!」
と私めがけて走ってきた。
「ごめん、これさっき、完成してなくて。全員かけたのがまさに今! だからこれ、みんなから!」
そう言って全員のメッセージが入った色紙をもらった。
「も~なんでこういうことするかなぁ~。私さっき泣くの我慢したのに、意味ないじゃんか~……」
そう言いながら生徒を見渡すと既に泣いている生徒や目が潤んでいる生徒もいた。

嬉しかったのはあの、ひとりぼっちでずっといた木村さんがそこにいたことだった。
「あすかちゃん、色紙に私が書いたこと、それが2週間で教えてもらったことだと思うから……後で探してちゃんと読んでよ!」
木村さんから言われた最後の言葉がそれだった。

“あすかちゃんに会って、初めて、私がクラスにいる意味がわかった気がする。上手く言えないけど。だからあすかちゃんに出会えてよかったです”

木村さんは自分なりに漠然とした答えを見つけることができたようだ。
私も、見つけられるだろうか。このプロフェッショナルゼミに私がいる意味を。
正直今はまだわからない。
でも、レベルの高い人に囲まれて記事を書いていく中で、私がここに所属している意味を見つけたい。みんなに無い、私にしか書けない何かがきっとあると信じている。

だから私は最後まであきらめずに書こうと思う。毎回提出していても掲載されない事の方が多いだろう。そしてこのクラスには“厳しいフィードバック”が待っているのだから。
でも私には私なりのペース、やり方がある。“自分らしさ”で乗り切った経験だってある。

上手く言えなくてもいい。
「ここに私がいる理由」に3カ月後辿り着けるように今、スタートを切るのだ。

***

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