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星空の仕事術


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記事:猪瀬祥希(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「今夜、流れ星がいっぱい見れるらしいよ」
その日の朝に約束をして、仕事が終わってから友人と流れ星を見に行った。
今年の12月の流星群は、月明かりの影響が少なくて空が暗いため、出現予想数は1時間に40個程度。
つまり、1分半に1個のペースで流れ星が夜空に輝く計算だ。
そんな事前情報にワクワクしながら、ネットで調べた観測場所まで一時間ほどドライブ。
到着したのは、真っ暗な小高い山の上だった。
車を降りてパンとコーヒーを頬張りながら、その時を待った。
 
私が会社に就職したのは、30年以上前のこと。当時の元号は、平成ではなく昭和だった。
昭和時代における会社の中は、現代とはまったく違う文化だ。
オフィスは煙草の煙が充満していて、女子社員にはお茶汲み当番があったし、メールも携帯電話もないから会社の電話がいつも鳴り響いていた。
そして、社内のコミュニケーションは、まったく洗練されていなかった。
 
「何回言ったら、わかるんだ!」
入社した直後は、見るもの聞くものすべてが新鮮だったし、好きな仕事だったから無我夢中で毎日楽しく働いた。
仕事にも会社にも慣れて、少しだけ余裕が生まれ始めた頃、ふと思った。
そういえば、なんでこんなによく叱られるのだろうか、と。
例えば、上司から私への仕事の指示は、基本的に無茶な内容が多かった。
すいません。これはさすがにできません。などと言えば、やってもいないのになぜできないとわかるのか、と叱られる。
具体的に何をどうすればいいのか、よくわかりません。と言えば、それくらい自分で考えろ、と叱られる。
考えてばかりいると、時間がかかりすぎる、と叱られる。
途中段階で仕方なく見せると、求めていたものと違うし完成していないじゃないか、と叱られる。
あまりに叱られるのでふてくされると、ふてくされるな、と叱られる。
よく考えてみたら、自分は何一つ悪いことはしていないではないか。
なんだ、この理不尽な叱られ方は。
仕事自体は楽しかったが、毎日毎日こんな調子で叱られるのが嫌になってきた。
どうすれば叱られずに済むのか。
そんなことを考え始めていた。
 
「流れ星、全然見えないね」と、友人がつぶやいた。
流れ星の正体は、宇宙に浮遊している小さなチリだ。
そのチリが地球を包んでいる大気の中で燃え尽きるときに、一筋の光となって見える仕組みだ。
だから、流れ星がいつどこで発生するのか、予測することは難しいと言われている。
しかし、流星群の時期はチリが多く浮遊している場所を地球が通過するため、流れ星が現れる確率が一気に上がる。
流れ星を見るには、絶好の機会なのである。
 
当たり前だが、そんな絶好の機会であっても、空を見上げなければ流れ星を見ることはできない。
仕事も同じだ。
お客様が目の前にいるのがわかっていても、仕事をしなければその人たちの喜ぶ顔を見ることはできない。
 
もちろん、いつも思い通りの結果が得られるとは限らない。
流れ星は、雲が空に広がったり、月明かりが邪魔したり、そうしたちょっとした環境の違いで見ることはできない。
仕事の場合は、予算や時間が不足していたり、想定外のトラブルに見舞われたり、あるいは準備不足などで、予定通りに進まないことのほうが多いものだ。
思い通りに進まないことも含めて、それが仕事なのだ。
 
昔はわからなかったが、今ならわかる。
思い通りに進まない出来事や失敗は、成功の妨げではない。
それらを解決することで、成功に一歩近づくことができるからだ。
だから、失敗しなければ、いつまでも成功に近づくことはできない。
つまり、成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと。
なぜなら、何もしなければ成功はおろか、失敗を手に入れることすらできないからだ。
失敗には、成功のヒントが隠されているのに、だ。
そんな風に考えることができれば、成功までの過程を楽しむことができる。
 
「最近、言われたことだけやってるだろ」
どうしたら叱られずに済むのかを考えた私は、あるときから積極的に行動することをやめていたのだ。
まさか、叱られないように行動していたことを叱られるとは、思ってもみなかった。
あの上司は、私の仕事の失敗を叱っていたわけではなかったのだ。
失敗を手に入れようとしない姿勢を、叱っていたのだ。
それはきっと、昭和とか平成とか、時代は関係ない本質的なことなのだ。
 
彼が星になってから、10年が経つ。
夜空を見上げて流れ星を待つ間、久しぶりに彼のことを思い出していた。
結局、流れ星を見ることはできなかったが、晴れた夜空に輝くたくさんの星をたっぷり眺めることができた。
 
これからもずっと、星を見るように上を向いて仕事をしよう。
 
そんなことを、静かに決意した夜だった。
 
 
 
***

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2017-12-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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