メディアグランプリ

スパイス中毒


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
記事:川村文(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「キーマカレーの5辛でお願いします」
 
外壁を通り越して漂ってくる何種類かの香りが、絶妙なバランスで混じり合い、
いかにも、いや、間違いなく美味しいだろうその味のイメージを膨らませている。
 
扉を開けるとその濃度はより一層増し、脳内のどこかのポイントを強く刺激して、
私のカラダの中の奥深くにある一本の琴線の様な、
触れるとさらに感度が増すものに急速に到達する。
 
この瞬間がたまらなく好きなのである。
 
 
「お待たせしました」
 
「ありがとうございます」と、差し出された器を受け取りながら、
さらに深い場所へと引き込まれていく。
 
あぁ、たまらない。
 
今日は朝からカレーが食べたかった。
もはや食べると決めていて、定時に仕事を終え、自転車を走らせて来たのだ。
 
カレー激戦区にあるこのインドカレー屋は、カウンター6席だけという小さな店だ。
しかし、一週間のうちの定休日を除いては、昼も夜も連日列をなす人気店である。
食べることに関して、待つという感覚を持たない私だが、
カレーの為であれば、あっさりと時間を費やしてしまうのだ。
一度思い出すとたまらなく欲して、
食べなくてはいけないという使命感さえも感じてしまうほど。
 
そして、その使命を果たす瞬間が、目の前に広がっている。
店内にまんべんなく漂っている異国感溢れる香りが、
少し冷えたカラダを包み込み、食欲を全開にする。
明るめの黄色い壁に、木目のテーブルと少し高めの椅子、
静かに流れるBGMと全ての要素がピタッと収まるところに収まった感じで、
まさに至福の時間だ。
 
カレーは、好きな食べ物の中でもこの上ない幸福感と満足感をもたらし、
求めていた欲の大部分を満たしてくれる、とても中毒性が高いものだ。
 
「いただきます」から「ごちそうさまでした」までの時間は、
温もりある心地良い刺激と同時に、貪欲で本能的な刺激がカラダを駆け巡る。
これは、きっと一生やめられない楽しみのひとつなのだろう。
 
 
そして、並んでまでカレーを食べることと同じ感覚で、
私の欲を満たしてくれるものが、もうひとつある。
 
海を渡るバックパッカーなひとり旅だ。
 
 
まず、地図を眺めながら行きたい国をピックアップし、
予算や休みの日数により何カ国かを辿るルートを考え、航空券と宿を予約する。
あとはフィーリングとタイミングに身を委ねて、体感することを楽しむのだ。
 
今年一番と言っていいほど、その欲が満たされたのは、
ずっと夢見ていた念願の町を訪れたことだった。
ベトナム中部にある、旧市街地の町並み全体が世界遺産に指定されているホイアンだ。
 
この町では薄暗くなり始めた頃、
軒先や木々にぶら下がった大小様々な形のランタンが一斉に灯り、
赤や黄、緑やピンクと、数百年の歴史ある建物たちを鮮やかに染めていく。
 
この風景を知ったのは、4年前に九州国立博物館で開催された「大ベトナム展」だった。
そこでかつてはベトナムの貿易港として栄えた、ホイアンという古都についての紹介と、
日本人が架けたと言われている、通称「日本橋」などの風景が展示されているのを観た。
トゥボン川の水面に写るホイアンの色とりどりの光たちが、
ゆらゆらと腰を揺らしながらダンスをしている女性の様な美しさと色気を醸し出し、
それだけでその町の魅力を物語っている。
一枚の写真を目の前にし、日本との縁があるというその異国の地に、
私はすっかりと魅了されてしまったのだ。
 
それからというもの、旅の話題になると、ホイアンに行きたいという想いを語り続け、
ついに叶う日がやってきたのは、今年のゴールデンウィークの9連休だった。
 
脳裏に焼き付いた情景が、まさに、現実としてすぐ目の前にあって、
その一部に私というひとりの人間が存在しているのだ。
 
そこにはまるでセッティングされたかの様な情景だった。
 
口数の少ないボート漕ぎのおばちゃんや、やせ細った灯篭売りの老婆、
川沿いのベンチで新聞を広げ読み耽る西洋人と、その足元を歩き回るアヒル。
さらには夕暮れ時という最高の舞台があり、
そのひとつひとつにストーリーを付け加えたくなるほど、
これまでに感じたことのない、なんとも言えない高揚感があった。
 
ひとり旅は過去に経験したことのある感覚にプラスして、未知の新しい感覚を植え付けられ、
それを積み重ねてゲームみたいにレベルアップしていくような感じだ。
これもまた、一生やめられない楽しみのひとつとなった。
 
 
しかし、なぜ私の深い欲を満たしてくれるものが、
カレーと旅なのだろうと、ある日ふと考えた。
 
きっと、いろんな国でその土地ならではの魅力を体感し刺激されるように、
カレーもお店それぞれの個性ある味が楽しめて、
味わえば味わうほど、終わりなき探究心が芽生えてくるからではないかと思う。
 
私にとっての旅とカレーはイコールなのである。
日常の中にある、スパイスという要素で繋がっている。
 
どちらも、欲した時から満たされる瞬間の幸福感や快感を想像し、
定期的に刺激を求めてしまう麻薬的な要素があるのだ。
 
だから、やめられない。
もう完全なるスパイス中毒だ。
 
 
カレーも旅も、大げさに言えば人生さえも、
何種類もあるスパイスの調合や環境次第で、可能性は無限に広がっていく。
だからこそ自分にとってよりピッタリとくる、バランスの良い配合があるとすれば、
一度は味わってみたいと思うのが人間の性だろう。
私はそれを追い求めているのかもしれない。
 
今の自分を刺激し、さらにプラスアルファの一面を引き出してくれる、
新しいスパイスに出逢えるかもしれないワクワク。
これにたまらなく興味をそそられ、ただただ、その好奇心がやまないのである。
 
 
こんなことを綴っていたら、なんだかカレー気分になってきた。
今日もまた、刺激的で魅惑的なスパイスを摂取して、
新たな旅へと想いを馳せよう。
 
 
***

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2017-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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