プロフェッショナル・ゼミ

日本生まれのジェダイはマスターと共に《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保明日香(プロフェッショナル・ゼミ)

全世界待望の『スターウォーズ エピソード8』が12月15日に公開されたのは記憶に新しい。スターウォーズファンはこの日を楽しみにしていた。
私もそのうちの一人だった。

私が初めてスターウォーズに触れたのは小学生の時だった。金曜ロードショーで『スターウォーズ エピソード4』が地上波放映された時のことである。

軽い気持ちで見た映画は期待以上だった。それと同時に
「……私もあんな風にかっこいいジェダイになりたい」
そう思った。

ジェダイとは平たく言えば銀河を守る勇者である。その勇者には誰でもなれるわけではない。厳しい修行を乗り越えた選ばれし者だけがジェダイになれる。

だが残念なことに私が生まれたのは日本の平凡な家庭である。どう頑張っても銀河を守るジェダイにはなれっこない。だけどジェダイのように誇り高くかっこよく生きることならできるはずだ。私の心の片隅にはいつもジェダイがいる。そう信じてすくすくと大きくなった。

人が成長をする時、そばには必ずと言っていいほど、「先生」や「師匠」と呼ばれる人が現れる。ジェダイが存在する世界でもそうだ。ジェダイの「先生」や「師匠」は「マスター」と呼ばれる。マスターと共に何かを学び、成長していく。

私には、今なお慕ってやまない「マスター」がいる。それは、
「根性で走れ! 死なへんから」
というセリフをよく発していた私の高校時代の陸上部の顧問である「マスター・上田」こと上田先生だ。

高校に入学した私は中学の時と同様、陸上部に入ろうと決めていた。だが入学前の私の耳に、「あそこの高校の陸上部の顧問はとてもこわい」という噂が入ってきた。

緊張しながら迎えた始業式。初めて上田先生を見た時、ただならぬ迫力と得体のしれないオーラを感じだ。えっ、外国人? いや、ハーフ? と思わせるような彫の深い顔。細く、きゅっと引き締まった体。そして……頭はスキンヘッドで無精ひげを生やしていた! 
先生らしからぬその姿は私が想像していた“こわい”イメージの斜め上をいっていた。

上田先生は外見だけでなく指導もこわかった。
「お前らなぁ! もっと本気で、試合のつもりで練習せい!」
「ゴールラインの最後まで手ぇ抜かんと走らんかい! 足あげろ! 腕もっとふれ!」
「本気で走る気ないんやったらなぁ……帰れー!」
練習中にはこのように次々と激を飛ばされる。
そこには部員を速くしよう、部全体のレベルをあげようという気持ちがこもっているのだが、慣れるまでのうちは怒鳴られるたびにびくびくしていた。

私は陸上部の中でも短距離走を専門としていた。短距離は更にその中でも2つのグループに分けられる。比較的短い100、200Mを専門とする“短A”、もう1つが少し長めの200、400Mを専門とする"短B”だ。
走ることは好きだったのだがスタミナが無い私にとって距離が長くなればなるほどタイムの落ち幅が大きかった。だから100Mを専門にし、短Aに所属していた。生まれ持った瞬発力とバネを生かして走る100M。数十秒、コンマ0秒をかけて、気持ちをこめて走る、その緊張感が大好きだった。自分でいうのも何だが熱心に練習に取り組んだ結果、私はめきめきと頭角を現し1年生の冬には短Aのエース的存在として部内を引っ張る存在になっていた。

だがそんな私にも脅威となる部員がいた。短Bに所属し、400Mを専門としている佐藤あやだ。

彼女の恐ろしいところは400Mだけでなく、どの距離を走っても速かった。
「100Mってすぐに終わっちゃうから巻き返しも何も仕掛けられない。それに比べて400Mには……ドラマがある」
そうきらきらと目を輝かせていたのをよく覚えている。
もちろん、彼女もエース的存在であり私とあやとで部内を盛り上げていた。

いつも通り練習を終えた春休みのある日、上田先生が私を呼んだ。
「あすか、お前夏には4×400Mリレーのメンバーに入れるからな。そのつもりで」

ちょっと待って、どうして!? 私の専門は100Mだ。なぜその4倍の距離を? 
頭の中は混乱でいっぱいだった。

一度練習試合で走ったことのある400Mは二度と走りたくないと思うほどきつかった。
ラストの一直線では自分の呼吸音だけが脳内に響き渡り、時空がゆがんで見える。正面を向いて走ることすら困難なほどきつい。あやがキラキラと目を輝かせて語った400Mの魅力は私には到底、理解することができなかった。

「どうして私なんですか」
「短Aは努力では補えないものがある。4×100Mリレーで4人速いのを揃えるとなると正直厳しい。だけど、短Bは……400Mは鍛えれば戦える。チームのためだ」

この件に関して、私は了承した覚えはないのだが
「あすか、お前今日短Bの練習に入れ」
週に数回はそのような指示を受けるようになった。スタミナをつけることを意識した短Bの練習。私にとってきつい日々の始まりだった。

だが慣れとは怖いもので2ヶ月もすると私は短Bの練習をこなせるようになってきた。スタミナ、持久力がついたようだ。最初はメンバーの中で一番遅かったタイムもあやには届かないものの、他のメンバーに引けを取らないくらいまでに速くなっていた。

いよいよ夏の大きな大会が週末に控えた木曜日。
「今日は全員、100Mのタイムトライアルを行う。試合やと思って走れよ!」

タイムトライアルはくじを引き、番号順に2人ずつ走る。
その日、私はあやと走ることになった。専門の100Mで負けるわけにはいかない。私の気持ちは先生の言った通り、試合と同等のレベルに達していた。

「位置について、よーい」
パァン!

一気に加速し、いかに減速しないかが好タイムへと、そして勝利へと繋がるカギとなる。前傾姿勢から飛び出し、20M程のところで横目であやの姿をとらえる。コンマ数秒、私の方が、速い。もっと、もっと加速するんだ、そう腕を振り下ろし、地面を踏んだその時、視界からあやが急に消えた。
「えっ?」
だが、これはタイムトライアルだ。後ろは振り返らない。とにかく風を切って走る。あと数十メートル。

ゴールして息を切らしながら後ろを見ると、あやが地面に座って足を投げ出して太ももを抑えていた。

「あやっ!!!」

私はゴールから猛スピードで彼女のもとに駆け寄った。マネージャーを含め、部員があやの元に集まる。
「―っ。……痛いっ」
上田先生も駆けつけ、あやはマネージャーの肩を借りて保健室へ行き、そのまま病院へ行った。その日は木曜日。週末には夏の総体が控えていた。

その日の夜、あやからメールが届いた。
「今日は心配かけてごめんなさい。軽い肉離れでした。あすかがトライアルの相手で、やっぱり100Mでも勝てるなら勝ちたいじゃない? だから少し力んじゃったのかもしれない。悔しいけど個人種目は棄権することにします。でも、リレーはみんなに迷惑をかけることになるので、テーピングをぐるぐるにして走ろうと思います」

タイムトライアルの相手が私だから少し力んでしまったということはつまり、私じゃなければあやは肉離れを起こしていなかったのかもしれない。どうしてこんな大事な時にあやと走ることになったのだろう。私は運を恨んだ。

もやもやが残る中迎えた土曜日。リレーの予選のオーダーの発表前、あやが私の元にやってきた。

「ごめん、1本目から走れますって先生には言ったんだけど、準決勝からにしろって、メンバー外されちゃった。だから予選通過してね。待ってる」

そして正式オーダーが先生から発表された。
「1走、竹内。2走、日吉。3走、堂川。アンカー、久保。これでいく」

まさかのアンカーだった。
「先生」
「どうした、あすか」
「どうして私がアンカーなんですか。他のメンバーは全員短Bですよね。だったら私以外の人がアンカーを走るべきだと思います。正直、苦手な400Mで……荷が重いです」
「お前は自分では気づいてないかもしれないけど十分力はついてる。それに、人と競ったら速くなる。短Aなのに短Bの練習についてこれるようになった。いいか、根性で走れ。このレースは自分がエースのつもりで走れ」
励ましているのかプレッシャーを与えているのかどちらとも取れるような言葉をかけられた。オーダーには従うしかない。それに……あやを準決勝に連れて行きたい。私は腹をくくった。

リレーは1レースに対し8校が走る。その中で上位2着に入ったチームが自動的に準決勝に進出できるルールだ。アンカーの私は何番手でバトンをもらえるのだろう。そこがカギになる。考えただけで緊張感が高まる。

「位置について」
パァン!

第一走者がスタートする。第一走者は決められたレーン内を1周走る。
「ファイト―! ファイト―!」
各校の応援が競技場内に響き渡る。まずまずの滑り出しだ。他校に引けを取らない順位で第二走者にバトンが渡る。第二走者が走り出して100Mを通過した地点から走るレーンが自由になり、全走者が一斉にレーン内側の取り合いを始める。そこで混戦が起きた。私のチームは……レーン争いに負け、順位は1、2……3番手だ。2番手との距離は人一人分。このままついていけば全く問題ない。
「ラスト! ファイトォ!」
最後の一直線。第三走者にバトンが渡る。その瞬間、抜かれた! 先ほどまで4番手だったチームが追い上げを見せていたのである。

私のチームは今、4番手。つまり、このままの順位で私にバトンが渡ったら最低でも2人、追い抜かなければ準決勝に進めず、予選敗退となる。

プレッシャーを押しのけるように太ももを叩いてレーンに立つ。そうこうしている間に、ラストスパート。第三走者の堂川が追い上げを見せた。

パシッ

バトンが私の手に渡る。一気に加速する。加速し、すぐ前にいた3番手を追い抜いた。
その瞬間、観客席から歓声と拍手が聞こえた。私に向けた歓声だ。
数メートル前に前走者の背中が見える。必死で左右の腕を振り下ろす。足がついてくる。少しずつ縮まる距離。

……いける。

私は少し右に寄り、前走者を追い抜かす体制に入った。足音が聞こえたのだろうか。前走者がちらりと後ろを振り向いた。その時の顔には疲労と恐怖が読み取れた。

捉えた。

私の加速と前走者の減速。スッと追い抜いた。またもや歓声と拍手が聞こえた。

よし、このまま逃げ切る!

私は今までにない激走を見せた。奥歯を噛みしめ、必死で腕を振る。
「ラストラストー! いけるよ! 後ろ離してる!」
メンバーからの応援が聞こえる。
そのままゴールに飛び込んだ。結果は2着。準決勝進出だ。

「ハァ、ハァ、ハァ……」
「ぃやったぁー!!! ありがとう!!!」
息がととのっていない私に駆け寄る部員たち。一通りもみくちゃにされ、パッと顔をあげるとそこには目に涙をためたあやが立っていた。
「あすかぁぁぁぁ。ありがとう。準決勝、私、走れる……っ」
「あやのために、頑張ったよ。私とトライアルしてなかったら肉離れになってなかったのかなと思うと……ほんとにごめん。でも、ちゃんと繋いだから、だから準決勝の走り、期待してる」
「うん。死ぬ気で走るわ」
そう言ったあやはかっこよかった。

私が個人種目の100Mに備えてクールダウンをしようとしたその時、上田先生が現れた。
「お前はやったらできる。根性出して走る感覚、覚えたか? これで次から400Mもいけるな」
にやっと笑ってそう言った。
「まだオーダー、メンバーには言ってないけどな、昼過ぎの準決勝、お前は第三走者。いけるな?」
「……もちろんです」
私もにやっと笑って言った。

先ほどのリレーでアドレナリンがビンビンに出ていた私は個人の100Mも予選を通過し、明日の準決勝への出場を決めた。この調子で4×400Mリレーの準決勝に挑む。

オーダーは先ほど聞かされたように第三走者。そして、第四走者があやだった。
「できるだけ速くかえってくるから、あとよろしく」
「まかせて。さっきのあすかの走り思い出して走る。そしてラップタイムも負けない(笑)」
「頼むから、力んで倒れないでよ(笑)」

「位置について、よーい」
パァン!

各校の第一走者が一斉に走り出した。
「ファイト―!」
私の中に“走りたくない”という気持ちはなかった。むしろ、早くバトンを手にしたかった。そしてあやに渡したい。自分の中で一皮むけた、そんな気がした。

400Mを走るということに関して私は半人前だった。そんな私を導き、一人前にしてくれた上田先生は私にとっての「マスター」だし、あやは仲間の「ジェダイ」だ。

一人前の“陸上ジェダイ”として高校を卒業した私。その後も学業に仕事に、毎日修行の日々は続いている。そして今は、一人前の“ライティングジェダイ”になるべく、私よりはるかにレベルの高いジェダイに囲まれて、日々厳しい修行に励んでいる。

そして現「マスター」は偶然にも「マスター・上田」同様にスキンヘッド。

これは何かの縁なのかもしれない。

***

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