メディアグランプリ

レイコ事件


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記事:下山員須子(ライティングゼミ平日コース)
 
12月27日、朝起きると冷蔵庫が冷凍庫になっていた。

冷蔵庫の扉を開けたときの異様な冷気におかしいなと思いつつも、すぐには気づかなかった。
さてと、朝ご飯を作ろうかなと思って、食材を漁っているとすべてが異様に冷たい。よくよく見てみると、作り置きの煮物は凍り、ペットボトルのジュースはシャーベットになっていた。
卵は膨張時の圧に耐えられずひびが入り、中身が少し漏れ出している。
冷蔵庫が冷凍庫になっている。

普通、冷蔵庫が壊れる時は、突然こと切れる様に動かなくなるものなのではないだろうか。異様に冷えだすなんて症状は聞いたこともない。
設定がきつすぎたのかと、操作盤らしきものを見てみるが、冷蔵庫の設定は5段階中3になっている。では、そんなはずはなかろうが冷凍庫の設定のせいで、つられて冷気が強くなっているのかと思ったが、やはり冷凍庫も5段階中の3の設定である。すべての設定を5段階中の1の一番弱い設定にしておく。

では、これはきっと最期のあがきのように頑張ってしまっているのかもしれない。いやいや頑張ってくれなくていいから、残った力は分散させて使って欲しい。とりあえず、留守節電スイッチがあるのでそれを押しておいて様子をみよう。だって、年末のこの忙しい時期に冷蔵庫を買いに行っている間もなければ、年内に新しい冷蔵庫が届く保証もない。ただでさえ物入りの年末なのだからお金がない。

凍ってしまって解凍しても食べられなさそうな食材を処分しながら、折を見て冷蔵庫を励ます。頑張れ、頑張れ、もうすぐお正月だよ、明日明後日にはおせちの材料を君は保存しなくてはならないのだよ、頑張れと。

とりあえず子供たちと、食べられそうな物を食べていくことにした。
うちの冷蔵庫は上段が冷蔵庫、中段が冷凍庫、下段が野菜室となっている。まさか野菜室まではと甘い考えでいたが、駄目だった。野菜室も半凍り状態だった。

食後に冷蔵庫のぞくと、さっきつけたはずの留守節電スイッチのランプが消えている。ちゃんと確認していなかったから、スイッチを押せていなかったのかもしれない。では、もう一度。今度は大丈夫。ちゃんとランプが付いた。よしよし。頑張りなさいよ、冷蔵庫。我が家の年末は君の頑張りにかかっているのだと、激励して扉を閉める。

年の瀬の主婦は忙しいのである。それでもやはり冷蔵庫をほっておくわけにはいかない。様子を見に扉を開けると、やはりまだ強い冷気が漂って来る。しかも、留守節電のランプが消えている。

「ちょっと! 何考えてんのよ! この忙しい年末に凍ってる場合か!」と、冷蔵庫をしかりつけた。

それでもやはり、冷蔵庫は直らない。

かくなる上はと、
「冷庫(レイコ)~。俺を置いていくなぁ。俺にはお前が必要なんだ。まだまだ食べ盛りの子供たちもいるのに、置いていくなよぉ」と小芝居を打ってみた。
やはり冷蔵庫は直らない。レイコは名前の通り冷たい女のようだ。

とりあえず、ビールや凍ってしまうと困るものは非難させて、明日また考えよう。真夏ではないのでしばらくはなんとかなるだろう。その日いる食材だけ買ってしのいでみよう。

12月28日、小芝居が効いたのか、レイコの様子が昨日と変わっている。異様な冷気も出てこないし、煮物が凍っていない。どうやら峠を越えたようだ。

頑張ったな、レイコ! さすがレイコだ! とほめておいた。

子供たち曰く、電化製品たちは夜な夜なお互いを励ましあって頑張っているのだそうだ。そこでちょっち考えた。

レイコ「あたし、もうダメだわ」
電子レンジ「頑張るんだレイコ。お前ならまだやれる。皆も応援してるよ」
クーラー「そうだよ、君なら大丈夫だ。君と僕は同い年じゃないか。まだ若いよ」
レイコ「確かに私とあなたは同い年だけど、私は朝から晩まで働きっぱなしなのよ。一分たりとも休めやしない。あなたたちは。必要な時だけ、一瞬だけ働けばいいだけじゃない。私は年中無休の主婦なのよ!」

それもそうだ。レイコは私と同じ主婦なのだ。年中休みなんてものはありはしない。それなのに世間一般的に、家族はみんな主婦は働くのが当たり前だと思っている。君の気持ちはよくわかるよ。怒ってごめんね。レイコ。二人で一緒にこれからも頑張っていこうね。

私は反省して、レイコに謝り、ひしと抱き合った。どうやらレイコは、まだしばらくは頑張ってくれそうだ。私は「今後は君をいたわって、食材を詰め込みすぎたりしないように気をつけるよ」とつぶやいた。

12月29日、すまないレイコ。今日はお節の買い出しだ。材料と一部出来上がった料理を保存しておくれ。でも決して凍らさないでおくれね。私も、主婦の仕事を頑張るよ。一緒に頑張ろう、レイコ!

12月30日、どうやら君はこのまま頑張ってくれそうだね。ありがとう、レイコ。

1月3日、今日で三箇日も無事に終了したね。どうやら、このまま私たち家族と一緒にいてくれるんだね。

冷蔵庫という仕事は年中無休で、毎日働いてるのに報われるなんてことはないと思ってしまうよね。でも、今回の事件で私たち家族は君の大切さを考えさせられたよ。
どんなに目立たない仕事でも、やりがいがなさそうな仕事でも、どんな仕事にも意味があるし、その恩恵を受けている人は必ずいるんだね。そして、その恩恵を受けている私たちは感謝の気持ちを忘れてはいけないんだね。

レイコのおかげで気づかされたよ、ありがとう。

今年も、いやいやこれからも、末永くよろしくお願いしますね。
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2018-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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