プロフェッショナル・ゼミ

話すと誤解されるであろう私の絶対正義について《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保明日香(プロフェッショナル・ゼミ)

「う~ん……」
私はどう返事をするべきか迷っていた。

職場の女性ばかりが集まった食事会での話である。
主な話題は最近彼氏ができた先輩の恋愛について。
「やっぱりお金より愛でしょ」
先輩が力説している。
「そうよ! お金がいくらあったって愛のない、思いやりのない彼氏なんて絶対嫌だ~!」
「だよねえ。実はこの前合コンで知り合って、今お付き合いしている相手がかなりお金持ちみたいなんだけど、淡々としているというか愛情表現が下手というか……私が困っていても傍観してたり、思いやり? みたいなものがイマイチ感じられないのよね」
「え、じゃあさ、旅行行ってみたら?」
「旅行?」
「うん。よくさ、その人を見極めるには一緒に旅行に行けばいいって言うじゃない。知らない土地で起きた出来事にどう対処してくれるかでその人の愛の度合い、わかるんじゃない? ねぇ、久保ちゃんもそう思わない?」

ここでの私の考えは逆だった。ただこの盛り上がっている状況で話に水をさすべきか否か迷っていた。
「どうしたの、久保ちゃん。“う~ん”ってうなってるけど」
やたらと高いテンションで私の顔を覗き込んでくる先輩。
決めた。

「先輩」
私はグラスに残っていたレモンチューハイを一気に飲んだ。
「今回のその彼の場合、旅行では判断しづらいかも……です」
「何それどういうこと?」

今こそ、あの出来事について話す時だ、そう思った。

大学の卒業旅行で私を含め、友人4人と共にイタリアへ行った。おいしいものが食べたい、ただそれだけでイタリアを選んだ。4人中2人は海外へ行くことがそもそも初、ヨーロッパは誰も行ったことが無かった。更にイタリアははあまり治安が良いとは言えない。何でも、自分のバッグから手を離したら即、アウト。持っていかれる。また、鞄を後ろに提げて歩いているとスリにあう。カメラを首から下げていたハサミでネックストラップを切られそうになった人もいるということだ。なんて恐ろしい。気を抜いた瞬間にカモだと思われ、狙われる。

そこで我々は少しでもこの恐怖を緩和するために行程が決まっており、ガイドもついているイタリアツアーに参加することにした。

ツアーを選んだのはやはり正解だった。要所要所の観光地に必ずガイドが同行しているため、「この橋の近くでは無理矢理花を渡されて代金請求をされるので受け取っちゃだめですよ」とか「先程この観光地を訪れていた東洋人が2人、スリにあったので気を付けてくださいね」などその場に応じたアドバイスをくれた。

だがイタリア旅行の最終日、そういうわけにはいかなかった。

3泊4日の最終日、4日目は終日自由行動だった。朝ホテルを出発し、夕方4時にホテルに戻ってくること、それがルールだった。
前日の夕方に、
「地下鉄での移動は襲われることが多いのでバスをお勧めします。また観光地はスリが多いので気を付けてくださいね。ただ、現地の人はみんなが悪人ではないですからね。困ったら助けてくれる人もいますので誤解せず。あとは……何かあってもパスポートと命だけはしっかり守ってください」
とガイドからアドバイスを受けた。

3日間安全に囲われ、イタリアの空気を吸い、イタリアのものを食べてすっかり気が緩んだ日本人女子4人は最終日、意気揚々とホテルを出発した。きっと今日も大丈夫だろう。

私たちはバスに乗って『ローマの休日』の舞台となったスペイン広場を目指すことにしていた。バス停を目指して前2人、後ろ2人で道を歩く。ホテルを出て最初の交差点に差し掛かった時、後ろの細い道から突如、外国人男性が2人現れた。その姿をとらえたのは私だった。
「ねぇ、周り、私たちのホテルしかないのにあの2人、どこから現れたと思う?」
「え?」
友人の1人、サヤがぱっと振り返る。
「やばい、なんかちょっと笑ってるんだけど!!!」
「このまま前を向いて……早足で、とにかく大通りまで出よう! そうしたら人通りが多くなるはず」
そう言って我々は足を早めた。

何とか大通りまで辿り着き、後ろを振り返ると外国人男性2人はいなくなっていた。警戒しすぎたかなと思ったが私の心臓はまだドクドクと大きな音を立てていた。

地図によると大通りの突き当りに目指すバス停がある。一難を乗り越えた我々は再び意気揚々と歩きだした。後ろからベビーカーを押した女性が我々をスッと追い抜いていったその時。

ポロン、と子供の靴が片方落ちた。ベビーカーを押した女性は気付いていないのだろう、次の角を左に曲がっている。

それに気づいたサツキが靴を拾って届けようとしたとき
「拾っちゃダメ! そのベビーカー、多分、子供乗ってなかった!」
とマユミが大きめの声でサツキを制止した。
私は少し足を早めて先ほど女性が曲がっていった角まで行き、見るとそこには誰もいなかった。ただそこにベビーカーだけが置かれていた。

「こわー! イタリア、こわー!」
私たちはおののいた。まだ今日の観光が始まってから30分も経っていなかった。なのに怪しい男性、女性にこんな短時間で遭遇するなんて! 何とか無事、バス停に着いたもののこの先何が起こるのだろうという不安を拭い去ることができなかった。

「バスに乗ったら中に、乗車券を打刻する打刻機があるのでそれに乗車券を通してくださいね。どこで乗りましたよ、という印になりますので」
そうガイドさんから聞いていた我々はバスに乗り、打刻機を探した。だがバスは通勤通学の時間ドンピシャでぎゅうぎゅうの状態だった。我々よりはるかに大きなイタリア人が壁となり打刻機まで辿り着くことができない。
「どうする?」
ただ、周りを見ていると同タイミングでバスに乗った人、途中で乗ってきた人は誰も打刻機に打刻なんてしていなかった。そこでとりあえずバスがすくまでこのまま動かないでおこうと決めてバスに揺られていた。

バス停3つ分ほど進み車内もすいてきた頃、男性2人組が乗りこんできた。体は横に大きく、もしゃもしゃとあごひげを生やしたその2人組は警察のような服を着て、何やら乗客に警察手帳のようなものを掲げている。

あれは何だろう……? そう思っているとその男性2人はこちらを目がけて移動してきた。

ターゲットはサツキだった。何か言葉を発している。
「カー! カー!」
「……カード?」
そう理解したサツキはバスの乗車券を彼に差し出した。男性は大きな手でサツキの乗車カードをピッと取り上げ、カードの裏表をまじまじと見てウエストポーチに入れた。そして
「パスポート」
そう言った。
パスポート? 車内で大切なパスポートを要求してくるなんて彼らの目的は一体……? 頭に浮かんだ疑問と何なんだこいつらという疑いから私は警戒心むき出しだったのだが、今回話しかけられている相手は先ほど靴を拾って届けようとした心優しいサツキである。サツキは乗車カード同様に何の疑いもなく彼に向かって自分のパスポートを見せていた。

次の瞬間。

男はひょいっとサツキの手の中からパスポートを取り、彼のウエストポーチの中に入れた。
サツキはそうなって初めて、自分の大切な、海外旅行では必需品であるパスポートが彼の手に渡ってしまったことを知った。
「ノー! マイパスポート!」
カタコトの英語で返すように言ったのだが、男性2人は首を左右に振るだけだった。他の乗客は黙って我々のやり取りを見ている。
このままではサツキが日本に帰れない! どうしよう。何とかしてパスポートを奪還する必要がある。

「現地の人はみんなが悪人ではないですからね。困ったら助けてくれる人もいます」
ふとガイドから言われた言葉を思い出した。同じことを友人を思ったのだろうか。タイミングを合わせたように我々4人は一斉に騒ぎ出した。
「ギブミー! ギブミー!」
「そのパスポート私の!」
「パスポート! プリーズ!」
「返して!」
日本語とカタコトの英語で我々は気持ちを精一杯表した。傍から見たら小さな東洋人がわぁわぁ何かをわめいているだけだ。それでも私たちは必死だった。必死に訴え続けた。

「Get off!!」
次の駅で、彼らに降りろと言われた。社内での訴えかけもむなしく、乗客は誰も助けてくれなかった。乗客の方にちらりと目をやると冷ややかにこちらを見ているように感じた。

しょぼんとしながらバスを降りた4人はそれでも、彼らに向かってもう一度抗議した。
「パスポート、返して!」
だが、2人の答えは相変わらずノーだった。
そしてイタリア語が全く通じない私たちに対し、ゆっくりした英語で話し始めた。

聞くと、サツキの乗車券には打刻した印が無いからたとえカードを持っていても無賃乗車扱いになるとのことだった。そして親指を立てて通りの向こうの建物を指し、警察に連れていかれたくなければ1人50ユーロ払いなさいと言った。払えばパスポートは返してくれるという。もし払わなければ4人を無賃乗車の罪で警察に連れていく、と。

1人50ユーロ。おおよそ6,000円強だ。
それは大学のアルバイト代をこの旅行に費やした我々にとってなかなか高いと思わせるには十分な金額だった。

我々は乗車のルールを知らなかったのではない。打刻すべきだとは知っていた。満員で打刻できなかっただけだ。だがそんな言い訳は彼らには通用しない。それに、サツキのパスポートがかかっていた。我々は考えた結果、一人50ユーロ払うことに決めた。

男性2人はきっちりユーロを回収すると、サツキのパスポートを乱暴に返してきた。
200ユーロと引き換えに命の次に大事なサツキのパスポートが戻ってきた! 任務を終え、我々に用がなくなった男性2人は地下へと続く階段を降りていった。

「あー怖かったー」
パスポートを取られた張本人のサツキが言った。
「もう、何でパスポート渡したのよ!」
しっかり者のサヤがサツキに向かって怒る。
「だってパスポートって言われたから、見せたらカード返してくれるかなって」
「サツキの正直、こういう時には損するのね」
「お土産代、減っちゃったけど、お金で済んでよかったね。無かったら今頃……警察かも」
ホッとした顔でマユミが言う。
「いやホント、お金って大事。お金は私たちを裏切らないね」
私の言葉にみんなが強く頷いた。

「あら~、そんなことがあったの! 大変だったわね」
その後、無事スペイン広場に到着し、気を引き締めて観光を終え、無事ホテルに戻ってきた我々はガイドに今日あった出来事を話した。
「でもね、それ本物か怪しいわよ。観光客相手に無賃乗車だ! って狙ってくる職員のフリをした人がいるみたいなの。そこでお金を巻き上げて小遣い稼ぎをしているらしいわ。本物の職員もごくたまに同じことをしているのでどっちが偽物か私も判断つかないくらい。滅多に遭遇すること無いみたいだけど、遭っちゃったのね。1人50ユーロ? 安い安い! 社会勉強よ! お金の大切さと社会の厳しさがわかっていい旅行になったじゃない」
ガイドはとても前向きだった。

愛や思いやりはもちろん、大切だ。精神的にピンチの時に私を救ってくれることだってある。だが世の中には目に見えないそれでは解決できないことがある。こんなことを言えば「久保さんはなんて冷たい人なんだろう。実は金の亡者だったのか」そう思われるかもしれない。きっと、先輩にもそう思われたに違いない。だが私は誤解を恐れずに言おう。お金は絶対正義だ。あるに越したことはないのだ。

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