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「たい」が見つからないまま、タイマッサージ発祥の寺に行ってネコの肩を揉んだ結果。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:廣瀬敦子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「バンコクで何がしたいか、考えておいてね!」
 
現地に住む友人から送られてきたLINEのメッセージに、既読をつけたのはいいものの、
私は返信に窮してしまった。
 
旅に出る理由は色々あると思う。
 
この風景を見たい。
この料理を食べてみたい。
インスタ映えする写真が撮りたい、なんてのもありだと思う。
 
今、私は、バンコクで何がしたいんだろう。
 
そもそもの始まりは、バンコクに住む友人に会いに行こう、そう誘われて航空券を予約したことに始まる。日程的に、1日だけどうしてもスケジュールが埋まらない日がある。
そこで、何をしたいか、考えておいてね、と言われたのだった。
 
グルメなわけでもない。名所巡りをしたいわけでもない。
何をしたら、「私はあの時、その街に行たのだ」と納得して帰ってこられるのだろう。
 
けっして安くはない航空券を買って行くのだ。
何か自分なりに、これをしたい、を考えなければならないのではないか。
ふと思いついて「インスタ映え バンコク」などと検索してみるが、ピンとこなかった。
 
この時、私には旅を心から楽しめない理由があった。
 
この旅の少し前のことだ。私は仲間とちょっとした言い争いを起こして、
いくつかの大事な人間関係を失っていた。
 
あのときあと数分、我慢していれば。
あの感情的な言葉を飲み込んでいれば。
私の気持ちを相手が理解してくれていたら。
後悔や、分かり合えなかったことへの虚しさを引きずっている状態だった。
 
旅行の準備もギリギリだった。
出発前日になって慌てて旅行保険を手配し、本屋に駆け込んでガイドブックを買った。
夏服を引っ張り出してバックパックに詰め込み、飛行機に飛び乗った。
ガイドブックを行きの機内でペラペラめくってはみたが、結局、これだ、というものを見つけられないままだった。
 
こうして、私は明確な「たい」が思いつかないまま、タイに来てしまったのだった。
 
友人たちが気を利かせて、バンコク市内の寺院を巡るプランを立ててくれていた。
流されるままに、寺院の壁画を眺め、仏像に手を合わせ、建物の写真を撮っていた。
 
「次に行くのは、タイ古式マッサージ発祥のお寺なんだよ」
 
そう言われて訪れたのは、ワット・ポーという寺院であった。
 
寝そべった姿勢の巨大な仏像で有名なお寺で、タイ古式マッサージの学校を運営していることでも有名なのだそうだ。
一通りお参りをしたあと、せっかくだから、と、そのタイ古式マッサージを受けることになった。
 
私は、う、と身構えた。
 
マッサージは苦手だ。
日本でもめったに受けることがない。痛いかもしれないし。
苦手なのでこの辺で待っているよ、といったん逃げたが、あまりにお勧めされるので、
足だけをマッサージしてもらう30分のコースを受けることになった。
 
その土地でしか体験できないことをしたら、何か感じるものがあるかもしれない、と前向きに捉えてはみたが、痛みへの恐怖はぬぐえない。
 
「日本語で良いから、痛い時はちゃんと痛い! って言うんだよ!」
 
友人はそういって笑っていた。
 
私の担当についてくれたマッサージ師さんは、いかにもベテラン、といった風貌の女性だった。ニコリともしないので、怖い人なのかなあ、痛いのかなぁ、と身構えていた。
 
それは見事な手さばきだった。
痛いと気持ちいいのちょうど中間で、フライトと観光で疲れていた足に効いているのがわかる。
 
周りの人たちは寝ていたが、私は緊張していたので起きてマッサージ師さんの手つきをじっと見つめていた。ふと、マッサージ師さんが「オーケー?」とつぶやいた。痛いのか、と言うのである。
 
なんと言っていいのかわからない。こういうときはスマイルだ。
 
自分の中の最大級のにっこりをしてみたら、
そのマッサージ師さんは満面の笑顔で返してくれたのである。
 
そのとき、私は足の疲れと共に、心のどこかの固い何かがぐぐっと溶けていったような気がした。
なんとも言えなかった。そのままうつむいて、寝たふりをしてしまった。
 
マッサージが終わると、待っていろ、と言ってマッサージ師さんが奥にいったん引っ込み、パックのお茶を差し出してくれた。
 
それを飲みながら外で友人たちを待った。
夕暮れ時になって曇ってきたこともあって、過ごしやすい気温になってきていた。
ワット・ポーの境内にはぼどよい数の人が居て、のんびりと時を過ごしていた。
そこにはゆったりとした空気が流れていた。タイに来て、ようやく深呼吸ができるようになった。
 
シャム猫と何かのミックスなのだろうか、薄茶色に白い毛の混じった色合いのネコが目の前を歩いてきた。暑い時間帯はどこか涼しいところに身を潜めていたのだろう。夕暮れ時になって、気温が下がったので散歩にでてきたのかもしれない。
 
ネコを見たとき、私は一つの「たい」を思いついた。
 
あのネコの肩を揉みたい。
 
そう思ってネコに近づいてみると、簡単に触らせてくれた。
ネコの肩揉みと行っても、ネコに明確に肩があるわけではない。
 
四本足で歩く動物は肩が凝るんだ、と私の母が勝手に言って、肩と思わしきあたりを勝手に揉んでやっているのを思い出したのだ。家の周りにいる黒猫はこれが好きで、よくやってもらってはゴロゴロ言っている。
 
私はゆっくりネコの肩と思わしき箇所を指で揉んでみた。
タイ古式マッサージ発祥の寺で、自分がネコのマッサージするのもおかしな話だ。
ネコに拒否されたら嫌だなぁと思った。
 
しばらく揉んでやっていると、ネコはごろりと横になり、白いおなかをみせてリラックスしていた。
悪くなかったらしい。タイのネコとすこしわかりあえた気がした。
 
私は、自分は「わかりあいたい」のかなと気づいた。マッサージ師さんと笑い合ったときに、すこし気持ちが動いたのはそのせいかもしれない。このノンビリした空気のワット・ポーにこのタイミングで来ることができてよかったと思った。ここで一息つかなかったら気付かなかったことだろう。
 
そんなことを思いながら、残りのお茶を飲んでいると、ハロー、とマッサージ師さんが脇を通り過ぎていった。振り向くと、その後ろから、待たせてごめーん、とマッサージを終えた友人たちが歩いてきた。

 
 
***

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2018-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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