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メディアグランプリ

「骨董品2.0」時代


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:廣升敦子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
先月から、朝7時きっかりに起きる必要性がなくなった。
「やること」がないのだ。
 
「ムトウさんねぇ、言いにくいんだけど……」
長年付き合いのある部長も、ちょっと遠慮しているようだ。後につづく言葉を想像したら、ドンピシャだった。
 
「この前頼んだプロジェクト、シンドウ君に頼もうかと思ってね……。何度も計画作り直してもらったのに悪いね。私の力不足で申し訳ない……」
 
デジャブだ。
 
10年前にも、謝ってもらったことがあったっけ。
「いやぁ、クライアントが難しい人でねぇ。ムトウさんの提案が悪いわけじゃないんだけど。私の力不足で申し訳ない……」
 
けっして、部長のせいでも、私のせいでもない。会社の業績というのは、為替や市場の影響で良くも悪くもなる。部長のおかげで、こんなポンコツでも、なんとか東京で食べてこられたのだ。
 
そう自分に言い聞かせると、罪悪感がこみ上げてくる。
翌日には、もなかを手土産に、職場を後にした。
 
「暇になったら、ディカプリオの新作を観たいのに」
「休みができたら、長編小説を書いてみたい」
先月、居酒屋で願った小さい夢は、いまならたっぷり実現できる。けれど、20年近く「管理」された身としては、そう簡単なことでもない。「束の間の休日」だからこそ、堂々と勝手なことができるのだ。だから、誰から指示されたわけでもないが、せめてルーティンを繰り返した。ご飯を食べ、急須でお茶を淹れ、就職情報をネットサーフィンする……。
 
「時給1000円から」
「働きたい時間を選べます」
「デスクワーク、残業なし」
選んでいる暇はない。そうそう、貯金は残っていないのだ。
 
けれど……。
しばらく考えてみたが、頭の中はまだ整理がつかない。
「私にできることって……」
スニーカーに足を突っ込んで、散歩に出かけることにした。
 
仕事を辞めてからはじめて、昼間のオフィス街を歩いた。1分1秒人より早く、10円1円他社より安く……。そんな看板ばかり。目が疲れて、前を向いて歩くのが辛くなった。
 
そのうち、ふと路地に目をみやる。すると、古民家の入り口に星条旗が掲げられていた。窓から中を覗き見すると、青いティーポットや白地の壺が並ぶ。値札の数字は、これまでの月収より多い。--やはり、アンティークショップのようだ。そして、店先に貼られた募集チラシを読み、思いきって店内に足を運んだ。
 
「あの、表のチラシを見て……」
「はいはい」
店の奥から出てきたのは、マッシュルームカットの女性だった。
「えっとですね、時々買い付けや展示会で出かけるので、不定期ですが店番をしてくれる人を探してまして」
「あの、私、ほとんど販売経験はないのですが、今度履歴書を……」
「あ、そんな仰々しくなくていいから、少しお話をさせていただいて。それより、ご自宅は、お近くかしら」
 
彼女が重視した採用条件は、「自宅まで近い」ということだったらしい。
新卒以来の入社試験は、幸いにも通過できたようだ。
 
そして、月に10日ほど、そのアンティークショップで店番をすることになった。店名の「Whimsy」が意味するように、シフトはオーナーの「気まぐれ」によるものだった。明日来てくれという日もあれば、今日の夕方から来てほしいという日もあった。
 
そして、今回は、2週間も一人で店を開けつづけるよう、依頼を受けた。
そんなに簡単に人を信用して良いのか。
雇われの身ながら、心配になる。が、時給も悪くないし、マルチタスクが苦手な私でもやりこなせるシンプルな仕事だ。何より、お客は少ない。一人でぼうっと過ごせる時間が多いのは、なんだかホッとする。
 
が、そんな私でも、いよいよ不安になる。
昨日は、3軒隣に住むおばあちゃんが一人。
一昨日は、不動産の営業マンが一人だけ。
いずれも、財布を開くことはなかった。
 
「普通の民家に見えるからだろうか」
「外からは、何を売ってるかわからないよね」
読みかけの小説をテーブルに置くと、店の外に出て店を眺めた。
「やっぱり、何屋かわからない。わざわざイギリスから買い付けて来てるのに、もったいないな」
その夜、2ヶ月ぶりにパソコンを開いた私は、店で扱っているティーポットやソーサーの写真とそれぞれのエピソードをチラシにまとめた。そして翌日、インクが滲んだチラシを1枚店頭に貼り、残りを近所のカフェやスーパーの掲示板に貼ってもらうようお願いにまわった。
 
それをきっかけに、少しずつアンティークの陶器について調べるようになった。花瓶に描かれている女性は何者か、天使はなぜ子犬を連れているのか。店の前の黒板に、日替わりでエピソードを書くのが日課となった。すると、ちょっと立ち寄って読んでくれる人が日に日に増えた。
 
「あのぉ」
初老の紳士が訪ねて来たのは、黒板に日記を書きはじめて3日後のことだった。
「はい」
「この左の男性は、どこの王子だったかな」
「あ、えっと、60年代の……。すみません、にわか知識なので、1日待ってください。明日、調べたことを書いていきますね」
「ああ、いいんだよ。単なる好奇心で聞いただけだから」
 
翌日、初老の紳士は、また店を訪れた。黒板のエピソードを確認すると、店先に並べたティーカップを購入してくれた。
はじめての「客」だった。
 
伝えることは、喜びだ。
そして、認めてもらうことは、さらなる喜びだ。
そのためには、読んでくれた客に、一つでも情報を持ち帰ってもらいたい。
そう思ったら、店番の後に書店に寄ることも、楽しみの一つに加わった。
 
それからというもの、寝る間も惜しんで専門書を読んだ。
「こんな世界があったのか」
知らなかった歴史と人間模様に感激する。そんな日々に感謝しつつ……。私は、オーナーが帰ってくるその日まで、黒板に陶器のエピソードを書きつづけた。
 
そんな日が、7日ほど続いた後であっただろうか。
「留守番」の最終日、初老の男性が1週間ぶりに店の中に入って来た。
「これを私にくれませんか」
「はい、どの陶器でしょうか」
「いえ、陶器ではなく……。この黒板のエピソードを」
「え、黒板って」
「あなたの書いていることが面白くって、毎日ここを通るのを楽しみにしていたんですよ。どうでしょう、今までの内容をこの雑誌に書いてみませんか」
 
初老の紳士が差し出した名刺には、「マガジン・ヴィンテージ」とあった。
名もなき私に、一つの値がついた瞬間だった。
 
 
※この話はフィクションです※
 
 
***

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2018-01-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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