メディアグランプリ

僕は僕のバスに乗る。


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記事 : タカジュン(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「バスは来ないね。待っていても何も来ない。それと同じさ」
今でも覚えている。2012年6月12日。
突き抜けるように澄んだ青空の下、僕はカリフォルニアの大通りで、バスを待っていた。木陰に作られたベンチに座り、風でゆれるパームツリーを見つめる。すると突然、ドスン。ギリリ。
古い木材で作られたベンチが、重みに耐えきれず、大きく軋む。
隣を見ると、顔が隠れんばかりのサングラスに、馬の頭の彫刻がついた杖を持つ、初老の黒人男性が座っていた。
「バスは来ないね。待っていても何も来ない。それと同じさ」
どうやら僕に話しかけているようだ。
この時、アメリカに滞在して3ヶ月ほど。東京では考えられなかったが、突如として始まる会話は、文化の違いだろう。僕は拙い英語で何とか返した。
「遅れているみたい」
男性は白い歯を見せてニカッと笑う。どうやら伝わったらしい。
「よろしく。私はピーチだ」
ピーチ……桃? 目の前にいるピーチは、ジャックダニエルを飲みながら、ジャズバーに毎晩通う。そんなイメージの男だ。思ったより、可愛らしい名前に、親しみやすさを持った僕は、さらに話を続けた。
「ピーチはどこに行くの」
「スーパーマーケットさ。自分で行かないと、誰も買って来てはくれないからね」ガハハと大きな口を開けて笑う。
ふと、気が付いた。何気ない会話が、こんなに楽しいのはいつぶりだろう。
 
つい半年前まで、僕は東京のデザイン会社に勤務していた。担当はアパレル店舗で使うグラフィックを作るというもの。今でこそ、定時勤務や連休を取ることが騒がれているが、僕がデザイナーをしていた当時、それは大きな声で叫ばれてはいなかった。ある時は深夜12時から会議が始まり、ある時は忘年会の途中で抜け、朝まで仕事をした。今、考えてみれば滅茶苦茶なのだが、中途採用のプレッシャーもあってか、とにかく目の前の仕事を必死にこなしていた。
 
「毎日にモヤがかったような、そんな感じがするんだ」
転職してから3カ月、祐天寺駅にほど近いソウルバーで、
僕は友人に呟いた。専門学校の同期である彼も同じデザイン業界に身を置き、転職したての会社で奮闘している。
「分かるよ、終わりの無い仕事だからね」
そう言うと、彼はカシューナッツを薄くなったジントニックで流し込む。11月だというのに、暖房が効きすぎた店内では、グラスの氷が解けるのも早い。
「最近は会社の人と話すのもイヤなんだよ」
この頃の僕は業務上の会話ですら、本当にイヤになっていた。会社に着いても、早く家に帰って眠りたかった。
「もし今やっていることがつまらなくて、イヤになっているなら、環境を大きく変えるべきだと思うよ」
そういって彼はニューヨークに滞在していた時の話を始めた。
曰く、海外に滞在することには、大きなメリットが二つあったという。一つは外国語の習得。そしてもう一つは誰一人として、自分を知る人間がいない世界に身を置くことだ。日本にいる時は、自分を誰かと重ねて、「ああなりたい」「あれが正しい」と比較ばかりしていた。けれども、ニューヨークには誰も自分を知る人間はいない。そもそも英語も満足に喋れなかった彼だが、そんな生活を一ヶ月も続けていると、周りの目を全く気にしなくなったのだという。すると、途端に足かせが外れたかのように、自由になった。好きなデザイナーのアシスタントになるため、デザイン事務所を何日も回り、時には一日中、事務所の外で待つこともあったらしい。
「結局、お目当ての事務所には入れなかったけれど(笑)そのデザイナーと二人きりで話すことが出来たんだ」話に耳を傾けながら僕は、身体が熱くなり、脈拍が早くなるのを感じる。彼は最後に呟いた。「それから、一歩踏み出すと、時に何かが開けることを知ったんだよ」僕はジントニックを口にする。それはただの水になっていた。
 
連休が明けると、僕は転職先の会社とエージェントに連絡を取り、退社をしたい旨を伝えた。只でさえ人員不足であったために、何度か引き止めてはくれたのだが、ここで変えなければ、もう何も変わらない。僕の退社の意思は揺るがなかった。
 
そして気が付けば、僕はカリフォルニアにいた。特別な目的があった訳ではない。デザインの仕事をしていたこともあり、アートが好きだった。何となく候補に挙がったカリフォルニアは、魅力的なアートや文化に事欠かない。そして行く先々で、初めての出会いがあった。その度に起きるコミニケーションで、時に笑われ、時に優しさにふれ、僕は自分という存在を確認していた。今、この時も、日本では同じように時が過ぎ、同じように仕事が進み、同じように皆、帰宅している。僕がいてもいなくても、世界は何も変わらない。当たり前のことだけど、僕の中で何かが弾けた気がした。
ブルルン。コンクリートで舗装された道の遥か遠くから聞こえる。どうやらバスが来たようだ。
 
 
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2018-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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