メディアグランプリ

くせっ毛との付き合い方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「こ、これは……私そっくり……!」
病院の新生児室のガラス越しに、初めて、生まれたばかりのわが子見て、驚き、そして思わず心の声が漏れた。同日に生まれ、一緒に並んで眠っているどの赤ちゃんよりも、わが子の髪の毛は量が多く、黒々としていたのだった。
その直後、あるひとつの心配ごとが私の頭の中をよぎる。
「この子も、私に似た頑固なくせっ毛だったらどうしよう」
そういえば、この日もどんよりした曇り空で、関東では珍しく雪がちらつく日だった。
 
父親似でガタイのいい骨太、あぐらをかいたような団子っ鼻、そしてくせっ毛。これは、小さいころから私を悩ませてきた3大コンプレックスである。
その中でも、長年、格闘してきたくせっ毛はなかなかのツワモノで、そのうえ毛の量も多く剛毛で乾燥しやすいときた。
物心がついたころからこのくせっ毛が嫌で嫌で仕方がなかった。せめて両親のどちらかが直毛かもう少し扱いやすい猫っ毛であったら……と何度、母親に向かって恨み節を呟いたことだろうか。生まれてこのかた、自分の髪に天使の輪というものを見たことがなかったし、キューティクルが美しいさらさらストレートヘアの女の子にいつも羨望の眼差しを送っていた。
小学生のころ、所属していたバスケットボール部での練習で、冬場には体から湯気がたつほど汗をかいた後。湿気をたっぷり吸い込んだ私の髪は、ほかのチームメイトたちの1.5倍くらいの大きさに膨らんでいた。練習中はなりふりなど構っていられず無我夢中だったが、休憩時間に、ふとトイレの鏡でそんな自分の姿を見て、幼いながらにいつもがっくり肩を落とし、練習に戻っていった記憶がある。
当時から、縮毛矯正というストレートパーマより強力に直毛にする便利な施術はあったが、小学生や中学生でまだ自活能力のない私にとって、手が届かないものだった。
悩みごとの相談相手だった従姉妹と試行錯誤の末、「貧乏パーマ」ならぬ「貧乏ストレートパーマ」を苦し紛れに編み出したりしてみたり……。
とにかく、あの手この手でこのくせっ毛にあらがっていたのだった。
 
そんな私の髪は、カリスマ美容師キラーでもある。
どんなに腕のたつ美容師さんでも、カットを終えドライヤーで乾かしてみると、みるみるうちに膨張する私のくせっ毛の前に屈する。そして、最後はだいたい決まって、ストレートヘアアイロンを使って仕上げられるのだった。
「それ、毎日、自宅じゃあ再現できないのに……」
そう心の中で呟きながら美容室を後にするのが常であった。
 
しかし、そんな私も、年齢を重ねたせいなのか、出産を機に髪質が変わった。ショートとボブのあいだギリギリくらいの、ある一定の長さまで髪を切ってしまうとピタリと癖が出なくなったのだ。
シャンプーの量も半減したし、ドライヤーを当てている時間もこれまでの10分の1くらいになった。
とても楽だ。楽なんだけど……どこか物足りなさを感じている自分がいた。
不思議なことに、それは手のかかる子どものようで、そばにいると騒がしく苦労もするが、いないといないでどこか寂しい。私が私でないような、そんな感覚さえ覚えた。
 
結局、ひとは「ないものねだり」なのかもしれない。
髪も、仕事も暮らしも、すべてにおいて。
 
乳幼児を育てている今、今までのように死に物狂いで仕事だけに邁進できるわけではない。時には、仕事にワーキングホリデーに自分のしたいことに、自分のためだけに、目いっぱい時間を費やしている独身の友人たちを見て、羨ましいと感じることもある。
しかし、出産を経験しなければ、ミルクをまとったような甘くて優しい赤ちゃんの匂いも、生まれたての無垢でふわふわのほっぺも、知ることはできなかった。母としての喜びもなかった。
そして、これまで以上に暮らしに目を向けるようになった。自分ひとりの幸せだけでなく、家族みんなが心地よく、笑って過ごすにはどうしたらいいのか。家族の幸せを考えるようになった。
 
いつだって、隣の芝生は青く見えることもあるだろう。
しかし、どこに住んでいようと、母であろうと独身であろうと、結局、自分は自分。「今いる場所」で、“ない”ものではなく“ある”ものに目を向けたいと、私は思う。
 
今なら分かる。
私の髪を扱いきれない美容師さんが悪いのではない。
髪が伸びてきて、次に美容室を訪れるときには、このくせっ毛を生かしたヘアスタイルをオーダーしようと思う。発想を変えれば、くせは少々強いが、スタイリング次第でおしゃれなパーマのように見えなくもない、かもしれない。
そして、今度、出会ったときには、鏡の前で、胸を張って「おかえり」と言おう。
そう思うと、私の心はふっと軽くなり、晴れ間がのぞいたような気がした。
 
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《1/24まで早期特典有り!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事