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あなたの彼氏彼女の顔を見たくはない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:海野真琴(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「はいはいっ! 実は最近、彼氏できました!」
 
高校時代の仲良しグループが久しぶりに集まった女子会。
梅田のおしゃれなレストランで個室を借りて、ガールズトークに花が咲く。
 
「えー! めっちゃ急やな。いつから? どんな人?」
「何してる人? どこで働いてるん?」
「こんな美人ゲットして、彼氏うらやましい!」
 
当然のごとく一番盛り上がるのは恋バナ。
私たちは高校卒業後、それぞれ違う大学に進み、違う勉強をし、違う企業に就職した。
コンサル会社、自動車メーカー、公務員など、みんな違う肩書きを持った。
高校まではみんな一緒に歩調を揃えて進んできたけれど、その先は見るものも、触れあうものも、みんな違う。
仕事に対する考え方も、ライフプランも、みんなどんどん枝分かれする。
少しずつ、共通の話題が減ってくる。
彼女たちは大好きだけれど、話が続かないことが増えてくる。
 
それでも、絶対全員共通で最大限ヒートアップする話題、それが恋バナ。
いつ何時も、女たちの興味関心は色事である。
 
「なぁなぁ、彼氏の写真ないの?」
 
お! ついに出てきた、この質問。
私はずっと、あちこちの飲み会で誰からともなく声の上がるこの質問に、違和感を感じていた。
彼氏(または彼女)の写真、ないの? 見せてよ。
 
この質問をする人は、何を期待しているのだろうか。
「えー、あるけど……」
と、カメラロールをまさぐってスマホの画面に表示される彼氏(または彼女)が、伊勢谷友介級のイケメンであったり新垣結衣級の美女であると期待できるだろうか。
ごく一般的な私たちがそんなイケメンまたは美女と付き合える確率は、天文学的確率に低いと思うのだけれど。
 
あるいはその友人に見合う人かどうか判断しようとしているのだろうか。
顔やルックスを手がかりに想像できることはたくさんある。
かわいい系の女の子に子犬系の彼氏ができたら、お似合いだということで丸くおさまるし、おしゃれな男の子に読者モデル一歩手前くらいの彼女ができたら、いい人つかまえたね、とコメントできる。
 
時々、ビックリパターンがある。
セレブお嬢様が差し出した彼氏の写真が、ずんぐりむっくりで腰を抜かしたことがあった。
裏には何があるのだろうか。きっとお金とかいう浅薄なものではない。デートで連れて行ってくれるレストラン選びが秀逸、低音ボイスで話していて心地いい、女の子の扱いが上手……。想像は膨らむ。こういうパターンならある意味彼氏の写真を見せてもらって良かったのかもしれないけど、勝手に私がいろいろ想像してしまうのは、なんだか彼氏さんに申し訳ない気分になる。
 
そうこうしているうちに、友人がやっとツーショット写真を見つけて、ちょっと恥ずかしそうにスマホを差し出す。
どんな人が出てくるのだろうか。数分待たされたこともあって、必要以上に期待が高まる。恥じらう友人がまた可愛い。
そしていよいよ、いざご対面!
 
「あ〜優しそうな人やね〜」
「いいやん〜」
 
そう。そうなのだ。
だいたいリアクションに困るのだ!!
適度なコミュニケーション能力があれば、勝手に口が動いて当たり障りのないことくらいは言えるが、いきなり見知らぬ男(または女)の写真を見せられても、たいした感想など抱かない。
とりあえず友人の隣に彼氏(または彼女)がいる。
そして帰る頃には顔も名前も忘れている。
この流れを何回も、何十回もあちこちの飲み会で繰り返している。
あの流れ、必要なのか?
「写真見せてや」の流れ。
 
私の彼氏は、遠出すると一緒に写真を撮りたがる。
私は写真が苦手で、いつもどういう顔をしたらいいのかわからない。
一応撮るけど、あまり人には見せないでと言っている。
こんな引きつった笑顔の彼女写真を見せられたところで、彼氏友達としてもコメントに困るはずだ。私と同じ思いをする人を少しでも減らすため、見せんでいいよ、と一言添える。
 
なんでこう、人の写真を見せたり見せられたりすることに違和感や嫌悪感を感じるのだろう。
もやもやとずっと、心の中で引っかかっていた。
 
それがとうとう、私の番になってしまった。
「彼氏の写真、ないの?」
しかも、そこまで仲が良いわけじゃない、微妙な距離感の女性の先輩に聞かれてしまった。
「ないです」
思わず即答。
実はあるので、ウソをついている罪悪感は感じつつも、見せたくない、と強く思った。
 
じゃあ、例えば、写真を見せたとしたら、どうなるのだろう?
きっと彼女は良くも悪くも、いろんな方向に想像力を働かせるだろう。
彼はイケメンではないが不細工でもない、ふつうの人。
ファッションは、GAPとBEAMS、時々UNITED ALLOWS。要するに、ふつう。
「20代半ばの、標準的日本人男性」と思われれば上々だけど、もしかしたら
「ぱっとしない人ね」と思われるかもしれない。
 
でも、この画面に映る小さな姿で何が分かるというのだろう。
写真はこの人の優しさや思いやり、懐の深さを伝えないし、この人の良いところは別に外見ではない。
たとえ優しい、と説明したところで、この人の優しさは伝わらないだろう。
それは私たちが一緒に過ごした時間に感じたもので、言葉で伝えられるようなものじゃない。
 
思えば、友達の彼氏(または彼女)の写真を見せられても、その人がどんな人なのかはわからない。
写真を見せてもらうより、その友達と相手とがどういう関係性なのか、ということの方が興味深い。
お互い大切に相手を扱っているのか、信頼できる人なのか。
 
ふとした考えから、ずっと心に引っかかっていたことが解決した。
これからは例の質問をされたとき、自信を持ってこう言おう。
 
「写真で伝わらない良さを持った人なんです!」
 
 
***

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2018-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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