プロフェッショナル・ゼミ

現代に生きる最強のシンデレラ《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保 明日香(プロフェッショナル・ゼミ)

「全部の事をね、教えてもらえると思ったら大間違いよ! 自分で考えて仕事したこと、今までにある? 私らの時代はね、誰も教えてくれなかったの。自分で見て、盗むの。そんなこともできないなんてこれだからゆとり世代は全く……」

初めてのハロウィーンに備えて何を準備したらよいか、上司の小坂さんに相談に行った。すると、急に声を大きくし、このようなことを言われた。私はどうして怒られているのだろう。状況がよく理解できなかった。確かに私は流されるがままに小、中、高、大を卒業し、社会に出た。自分では気づいていなかったが世間知らずの温室育ちだったのかもしれない。だけど、自分なりに考えた意見を持って相談に行ったつもりだった。

小坂さんは私が会社で所属するチームの、いわゆる“お局さん”だった。私が入社したばかりの頃、小坂さんは優しかった。だが次第に、私たちがお互いに慣れてきた夏頃からなんとなく「あ、今チクチクと嫌味、言われてるかも」そんな風に感じることが増えてきた。小坂さんの中で私に対するイライラがたまっていたのかもしれない。そして今回、虫の居所が悪い時に彼女に声をかけてしまったのが運の尽きだった。

「すみません、でも」
「ほらそうやってすぐに口答えしようとするでしょ? いつもそう。質問にきてるのになーんか態度が偉そうでさ。自分が一番とでも思ってるの?」
これはもう何も言わないほうがいいと悟った。明日になればきっといつも通りの小坂さんに戻っているだろう、そう信じていたのだがこの日以来、私と小坂さんの間には大きな溝ができてしまった。そして同じチームのメンバーは小さな社会で生き抜くために申し訳なさそうに小坂さん側にまわった。気が付くと私には味方がいなかった。

なんだか私、シンデレラみたい……。

別に仕事上、大きなミスをしているわけではない。仕事だってきちんとまわってくる。だが何となく居心地が悪かった。明らかに雑用が他の人より多い。作った資料のチェックが厳しい。それでもめげずに黙々と仕事をこなしていった。きっと社会とはこういうものなのだ。でも大丈夫。きっとどこかで誰かが私の頑張りを見てくれている。もし私がシンデレラなのであればいつかいいことが起こるに違いない。そう信じて毎日出勤していた。「私はシンデレラ、私はシンデレラ……」心が辛いと叫んだとき、めげそうになった時にはこの言葉を頭の中で呪文のように唱えながら仕事に取り組んだ。

そんなちょっぴり憂鬱な日々の癒しは、家に帰ってからテレビドラマを見る時間だった。ドラマの登場人物に自分を重ね、
「こんなにはっきりと上司に発言できたら気持ちいいだろうな」
「わかるわかる、辛いよね」
と色々な自分を夢見ることができた。そうすることでストレスが少し緩和され、明日もまた頑張れるような気がした。そんな毎日を繰り返していたある日。シンデレラがひょんなことから参加することになった舞踏会で王子様と出会ったように、私はたまたま見ていたドラマである人と出会った。

整った顔。細身で色が白く、ふわふわとした黒髪。笑うと少しだけ上がる口角。目はガラス玉でできているように透き通り、綺麗な茶色をしている。

“恋は突然に”なんて言われるがまさにその言葉通りだった。今までだって彼の姿を何度もテレビで見かけていた。彼は私が小学生の頃から親しみのある、男性アイドルグループの1人だった。その日、彼は私の心の中に入り込み、しっかりと根をおろしていった。こんなことは人生での初体験だった。

この私と“王子様”の出会いの日を境に日々が好転していった。

まず、会社でのお局さん達からのチクチクした攻撃を何とも思わなくなった。どんな攻撃を受けても彼のことを思い浮かべれば傷はみるみるうちに癒えていく。心の装備が今までと格段に違うのが自分でもよくわかった。家に帰れば彼が待っている。私が生まれた現代はシンデレラが生きていた時代と違ってインターネットが普及している。だから調べればいつでも彼に会うことができた。

もっと彼の事を知りたい。その強い想いからファンクラブに入会し、過去のDVDやCDを買い漁り、自宅でほくほくしながら愛でる。そんな生活を続けていた私のもとに、一通の幸せのメールが届いた。

おめでとうございます、当選です!

それはコンサートへの招待状だった。

ファンクラブに入ってもチケット入手が困難だと聞いていた。だが申し込まなければ当たるものも当たらない。どうか当選しますようにと全身全霊を込めて申し込んだのだが見事、当選したのだ! これはきっと毎日挫けずに仕事を続けたことへのご褒美だと思っている。神様はちゃんと私の行いを評価してくれているのだ。

コンサートの日が近づくにつれて私の気持ちはどんどん高まっていった。一週間後には彼に会うためにコンサート会場へと向かっていると思うと自然と顔もにやけてくる。いつか彼に会いたいな……と恋焦がれていたあの頃を懐かしく思った。私にはシンデレラのように身なりを整えてくれる魔法使いのおばあさんはいなかったけれど今までにコツコツと貯めていた魔法の“紙”があった。それを使ってコンサートへの準備を進めた。まずはネット通販で双眼鏡を買い、次に服を新調するため、街へと繰り出した。

「初めてのコンサートだし、いつもよりいい服を着ていこう」
そう思って百貨店の婦人服売り場をぐるりと回る。何件かの店を見て回り、気になる服を見つけた。
「冬物のトップスをお探しですか? よかったら鏡、合わせてみてくださいね」
そう声をかけてきてくれたのは小柄で髪にゆるふわパーマをかけた可愛らしいショップ店員だった。
「あの……このトップス、Mサイズはありますか?」
そう店員に声をかけ、サイズ違いを出してもらった。
「今日は新しい冬ものを見にいらしたんですか?」
いつもなら「えぇ、まぁ……」と一言で会話を終わらせるのだが、その日は本音を言ってみようと思った。コンサートに行くことが楽しみなあまり、いつもより気持ちがオープンになっていたのかもしれない。はたまた誰かにこの気持ちを聞いてほしかったのかもしれない。

「実は、来週の土曜日にコンサートに行くんです。今日はその時の服を新調しようと思って……」
するとそのショップ店員の顔が急に輝いた。
「えっ!? もしかして京セラドームですか? 私も日曜日に行きますよ!」
何とその彼女も同じアイドルグループのファンで、私と同じように幸運のチケットを手にしていたのだ。

「来週のことを思えば、仕事だって何だって頑張れますよね!」
と思わぬところで意気投合し、盛り上がった。そして私が買おうとしていたトップスには締まる色のスカートの合わせるとスタイルが良く見えることや、その時に着けるアクセサリーの色の相談など親身になってアドバイスをしてくれた。

こうして同志に助けられ、コンサートへの準備を整えた。

いよいよ迎えた当日。会場は参加者で溢れかえっていた。年齢層の幅も広く、子供からお年寄りまでいる。そこにいる全ての人が生き生きとした表情をしており、その場は大きな熱量で満たされたパワースポットのようだった。そして驚いたのは、見渡す限りの人全員が何らかの形でお洒落をしていたことだ。

フリフリのワンピースを着た女の子。髪を綺麗に編み込み、化粧もばっちりキメている同年代の女性。色違いのお揃いの服を着ている学生らしき団体。中にはそのアイドルグループが過去にコンサートで着ていた衣装を手作りし、着用している人もいた。そして私もあのショップ店員と相談した格好で同じ場所にいる。それぞれが思い思いの準備をして今日というこの日を楽しみに生きてきたのだなと思うと親近感が湧いた。

その場にいられる幸福感をひしひしと感じながら必須アイテムのペンライトを購入し、場内で待機する。初めて入る京セラドーム。座席はスタンド席の下段、メインステージからは真正面の席だった。まずまずの位置だと思う。後ろの方のステージでパフォーマンスをしてくれれば肉眼でも彼を確認するには充分な距離だ。

そして午後六時。
爆音とともに私の王子様は現れた。

「いくぜ京セラー!!」

割れんばかりの黄色い歓声。4万5千人の熱気が一気に充満する会場。星空にキラキラと輝いているかのような色とりどりの無数のペンライト。初めて感じる雰囲気に圧倒される。
それと同時に込み上げてくるものがあった。
「あぁ、彼はテレビの中だけではなく、ちゃんとこの世に存在するんだ」
肉眼では豆粒くらいの大きさにしか見えないけれど双眼鏡を使えばくっきりはっきりとわかる。彼はそこにいて、声がして、動いている。
テレビの向こう側の彼に恋をしたとき、簡単に会えるような相手ではないと思っていた。その彼と私は今、同じ空間にいる。大袈裟だと言われるかもしれないが生きていてよかったと思った。

1曲目が終わると彼が乗っていたステージが動き出す。ステージは観客の頭上を動き、ドームの後ろ側まで来るような仕組みになっているため、彼をのせたステージはどんどん私の方へと近づいてくる。そして数十秒後、肉眼で確認できる近さに憧れの彼がいた。

人は感動すると涙を流すということを私はこの日改めて思い知った。真剣な表情で歌いながら、時には笑顔を見せる生の彼の姿を目に焼き付けようと私は必死で涙をぬぐった。泣いている場合ではない。数十メートル先に彼がいる……! こんなに興奮した、充実した時間を過ごしたのは初めてかもしれない。午後六時から午後九時までの三時間、私は魔法にかかっていた。コンサートが終わると魔法は一瞬でとけてしまったけれど、私の目があの時の彼の姿を、私の体が会場の熱気を、そして心臓が爆音をしっかりと覚えていた。あれは夢ではない。現実なのだ。

テレビの向こう側の彼との恋を「不毛な恋だ」と馬鹿にする人だっているかもしれない。「可哀そうだ」と思う人だっているかもしれない。だが可哀そうかどうかは私たち自身が決めることだ。何か楽しみがあって、それが生きていくうえで心の支えになるのであればその楽しみはあるに越したことは無い。

同じ体験をした人は4万5千人。彼女たちはみんなきっと、私のようなシンデレラだと思う。コンサートツアーは全国で15公演ほど行われる。1回のコンサートだけでこれだけの人数のシンデレラが全国各地に出現すると考えると……シンデレラの人数はもはや計り知れない。

ある日突然シンデレラになった私は王子様に出会い、毎日幸せに暮らすことができている。彼に出会ってからお局さんなんてもう怖くなんて無かった。心の中にはいつも彼がいる。それに、全国には同志のシンデレラがいる。離れていたって王子様を通してみんな繋がっている。社会の荒波にもまれながら攻撃を笑顔でかわし、一生懸命働けばそのご褒美として彼に会うことができる。だったら私たちはどんな仕打ちにだって耐えられる。「いつか王子様に……」と信じて頑張る、シンデレラは強いのだ!

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