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「わたしの大すきなおねえちゃん」発表から16年――可愛い妹は不審者と化す


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:原川恵果(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

何をするにも上の兄姉の後ろに引っ付いて離れない幼い弟妹の姿は、はたから見れば微笑ましい光景に映る。けれどもその実態が、姉が友人達と遊びに行く先々に出没しては、駄々をこねて仲間に入れてもらう妹であったならどうだろう。それがかつての私だった。
「まーたついて来たとー? ほんとお姉ちゃんにベッタリやねー」
そんなストーカー紛いの妹を、姉の友人達は半分呆れつつ、でもまぁ、よくやるよねと笑った。

幼少期より始めた水泳は、数々の大会で上位入賞の成績を収め、小学校時代は全体集会の度に名前を呼ばれる姉。
壇上で校長先生から賞賛を受ける姉を、体育座りで眺めながら心の中で静かに称えるのが私の恒例だった。
しかし私が小学1年生の時、いつも凛とした姉に顔から火が出そうになるイベントが起きる。課題で書いた私の作文が、全校集会で発表されることになったのだ。
作文のタイトルはもちろん、「わたしの大すきなおねえちゃん」。発表者は私。
これは後に、笑えるシスコンネタの一つとして親戚中に知れ渡ることとなる。
「わたしのおねえちゃんは、りかといいます」という一文から始まるその作文には、いつも私と遊んでくれることや、寝付きの悪い夜は眠るまで本を読んでくれたこと、叱られて泣いた時には背中をさすってくれたことなど、日頃の姉の優しさが丁寧に綴られていた。
今思えば顔どころか身体全体から炎が出そうになる内容を、当時の私は一切の恥ずかしげもなく元気いっぱいに読み上げた。
その時私は大好きな姉のことを大勢に伝えられる喜びと、体育館の壇上という姉がいつも立つ場所に立つことで、一時でも姉と肩を並べたような、とてつもない高揚感を抱いたのを覚えている。
あとから聞いた話によると、姉は私と姉の担任教師達の”粋な”計らいにより、発表が終わるまでずっとその場に立たされ、普段とは全く違う意味で全校生徒の注目を浴びることとなったらしい。どうりで帰宅後のじゃれあいの目が珍しく本気モードだったわけだ。

作文発表から16年。
今や自宅のドアを開けると同時に、両手を目一杯広げて迎える妹を完全にスルーする姉。
ソファに座ろうものなら、通称「捨て身タックル」と呼ばれる突進技で、自ら膝枕されに飛び込む妹を素早く躱し床へ沈める姉。
たえず姉にベタベタするための作戦を練る妹に対し、一体どこから覚えてきたのか、技アリの護身術ではね返す姉。
不審者対策ができていることは大変喜ばしいことだが、「妹を相手にしていたら自然と護身術が身についていた」だなんて、妹としては嘆くべきか悩むところである。
もしかして、いや、もしかしなくても不審者と同じ位置付けにされているかもしれない妹としては、できればもう少しそのお堅い警戒心を緩めて欲しいというのが本音だったりする。
その願いも虚しく、さっきソファ下に沈めたばかりの妹を見下ろす姉の目が、冬空にチクと刺すように降る雨のように冷酷に見えるのは気のせいだろうか。
ああ、昔はあんなに優しかったのに。

なぜ私はここまで重度のシスコンになったのか。
16年の間に何があったのか。その答えは「姉の背中」にある。

「兄姉が○○をやっていたから」
世の中の弟妹達が習い事を始めるきっかけの多くに、この理由が挙げられると思う。
私の場合も例に漏れずそうである。ただ少し違いがあるとすれば、姉がしている習い事が楽しそうだから、といった好奇心からではなく、その習い事を始めることで、少しでも姉と長く一緒にいられると思ったからという点だ。姉と同じことをすれば、同じ道に進みさえすれば、その存在を最も近くで感じられ、そして、姉になれると思った。姉のような人間になれると思った。
そのため、姉が水泳を習えば私も水泳を始め、姉がピアノ教室に通い始めれば私もと何でも姉の真似をしてきた。
けれど現実は甘くなく、姉は私が始める頃には既に上級者の仲間入りを果たしており、どれだけ急いでその背中を追いかけようと、どれだけ憧れようと、簡単には追いつけない、追いつかせない場所で輝きを放っていた。
いつだったか、私が水泳の進級試験で出した自己ベストを姉に得意気に報告した時のこと。私の記録を聞き、姉が「へえ~、すごいじゃん。たしかけいの年齢の頃、私は……」と教えてくれた記録とのあまりの差に愕然としたことがあった。
この日を境に、幾度となく成績の差や努力の差など、自分と姉との差を傍でまじまじと見せ続けられた結果、私は幼いながらに自分の能力ではおそらく一生姉の隣に並び立つことはないのだと悟った。
そしてようやく分かった。私は私であり、姉にはなれないのだと。
何でも姉の真似してきた私だけれど、姉の真似をしたところで、姉になれる訳でも、姉のように輝ける訳でもなかった。
誰かの真似をしても、その誰かになることはできないのだ。
ある程度の知識と技術が備わると、もうすっかり遠く見えなくなった背中を横目に、私は水泳もピアノもあっさり辞めてしまった。

私は私を認めよう。まずそこから始めよう。
私が歩めるのは私の人生だけ。私の人生を紡いでいけるのは私だけなのだから。

……とは言いつつも、水泳やピアノを辞めた後も「憧れ」という名の姉への一方通行な気持ちは募り続けるもので、姉を思って、想って、念うあまり、いつの日か可愛かったはずの妹は不審者と化したのだった。
さて、次はどんな作戦で姉のお堅いガードを潜ろうか。
妹のシスコン卒業の日は遠い。

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2018-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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