メディアグランプリ

雪道を滑るスポーツカー


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蔵本貴文(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「だから、滑るの怖いからやめてって言ってるでしょ」
助手席に乗っている嫁に怒られる。

「ヒャッホー」
嫁を無視して、僕のテンションはどんどん高くなっていく。
ハンドルとアクセルワークで、車は自由自在に滑る。

他の車はいない。そして、タイヤはもちろんスタッドレスだから、多少滑っても十分制御できる。雪は嫌いだが、多少だったら雪道ドライブというのも悪くはない。

ほんの自転車ほどのスピードでも、レーシングカーのようにドリフトする。ドリフトというのは、後輪を滑らすことである。これを乾いた路面でやろうとすると、テクニックも必要だし、車に負担をかける。でも雪道だと簡単だ。

雪国に住んでいた時、僕の車は日産のシルビアというスポーツカーだった。この車はドリフトしやすいように作られているので、最高の気分を味わえた。つまり、滑りやすい車ということだ。

車には滑りやすい車と滑りにくい車がある。一番ポイントとなるのは駆動方式だ。自動車には3種類あって、エンジンの動力が前輪に伝わるFF、後輪に伝わるFR、全てのタイヤに伝わる4WDというものがある。

このあたりの話は、車を持っている人でも詳しくない人も多いかもしれない。しかし、雪国ではオバちゃんでも知っている常識だ。なんといっても、雪道での安定性が全然違う。車社会の雪国では、必須の知識である。

この中で一番滑りにくいのは4WD(4輪駆動)だ。だから、雪国では4WDの比率がとても高い。次に滑りにくいのはFF(前輪駆動)で、最悪なのはFR(後輪駆動)である。

4輪が駆動する4WDが滑りにくいのはわかるだろう。FFがFRより滑りにくいのは、車は前にエンジンを積んでいるため前輪に大きな荷重がかかっていることと、ハンドルを切った時に回るのは前輪だからという理由だ。

4WDの車は高いから、雪国でもFFの車はよく見かける。しかし、FRの車は滑りやすいので、あまり見ない。僕が雪国に転勤になった時も、まわりの人からFRのスポーツカーの買い替えを強く勧められた。しかし、僕はそうせず、雪道を滑って楽しむことを選んだ。

こう書くと、僕が奇特で危ない人間だと思われるかもしれない。でも、僕はそうは思わない。危険なものは安全で、安全なものは危険だ、とさえ思っている。

実際、スキー場に行く道などでは、事故を起こしているのは、4WDの車が多いと言われている。危険なはずのFRやFFが事故を起こさず、安全なはずの4WDが事故をおこしてしまうということだ。

これには明確な意味がある。FRは滑りやすいので動き始める時にツルツルと滑る。だから、そもそもスピードをだそうとは思わない。怖くて出せないのだ。一方、4WDの車で性能の良いスタッドレスタイヤをはいていれば、雪の状態によってはほとんど普通の道のように走れてしまう。そして、調子にのってスピードをだして、ブレーキを踏んだ時に初めてここが雪道であることを思い知る。だから大きな事故が起きてしまうのだ。

ロープを伝って数十メートルのがけを降りてくる人を見て、最後の1mで初めて「気をつけろ」と声をかけたという賢人の寓話がある。危険は状況や物から襲ってくるのではない、人間自身の気のゆるみによって起こる。

僕も一回雪道で事故を起こしてしまったことがある。それはとても滑りやすいアイスバーンなどでなく、走りやすいはずの圧雪の高速道路であった。

その時、見渡す限り車はいなかった。そして、冬用タイヤも新しく、滑りやすい僕の車さえでも、雪道を普通の道路のように走ることができていた。

「おお、こんなに安定しているのか、すごい! 」
「こんなにスピードを出しても大丈夫なのか」
「もう少し、もう少し」

その次の瞬間、僕の車は今まで経験したことのないスピードで滑り出した。必死にハンドルで体勢を立て直そうとするが、とても素人の手に負えるものではなかった。

なぜか、時間がゆっくり進んでいた。隣に乗っている嫁は怖すぎて声も出せないようだ。
恐らく2秒くらい格闘したのちに万事休す、とあきらめてブレーキを踏み込んだ、この時点で、車はただの滑る鉄の塊になっていた。

修理代は高くついたが、二人ともシートベルトをしていたので無傷だったことと、他に車を巻き込むことが無くて本当に良かったと思う。

もっと危険な道路はいっぱいあったと思うのだが、唯一事故を起こしてしまったのは、最高に走りやすいコンディションの道路であった。

今、自動車は危険防止システムだとか、衝撃吸収ボディだとか、安全装備がどんどん進んでいる。しかし、それに安心して人間が思い上がったり、過信してたりしてしまえば、より危険な状況になり得る。安全は常に人間の意識の中にあるのだ。

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2018-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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