メディアグランプリ

いったんあきらめる、という戦い方がある


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笠本光恵(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
「あなたのお肌トラブル知らずだよね、いいなあ」ある日の昼休み、向かいに座った秘書仲間のひとりがこう言った。な、なんですと? 持っていた箸からチーズささみカツがぽろりと落ちた。そんな事を言われるとは夢にも思っていなかったから、本当に本気で驚いた。なぜなら私は十年以上に渡り、重度のアトピー性皮膚炎を患っていたからだ。
 
中学に入ったあたりから、アトピーは猛威を振るい始めた。私の場合、その症状は首から上に現れた。女の子が一番かわいくありたい思春期に、私は常に顔面のどこかから血を流し、瞼は赤く腫れあがり、紺色の制服の肩から胸のあたりには顔や首から剥がれ落ちた皮膚が白く積もっているという有様だった。見た目ももちろん気になるが一番辛いのは何といっても痒さだった。とにかく焼け付くように痒いのだ。毎晩家族が寝静まった夜中まで学校の宿題に追われていたが、あまりの痒さに意識が遠のき、学習机の椅子から転がり落ちたこともあった。宿題は出来上がらなかったが、夜中に倒れても誰にも気づかれないことは学習した。
アレルギーに対する理解もあまりない時代だった。それなりに意地悪も言われた。ちょっと掻くのを我慢すればいいだけなのに、だとか、おまえの性格が悪いから治らないんだ、とか。掻いては叱られ、痒いと言っても叱られた。
血液検査の結果、私は食べ物や花粉に対するアレルギーは無く、埃とカビに反応することがわかったが、環境を整えても治らなかった。当時の幼い私にはかなり大きな精神的ストレスがかかっておりそれがアトピーの原因だったが、症状がひどすぎて、もはやアトピーであることが最大のストレスだった。それは高校、大学、社会人になっても続いた。心の奥底ではうっすらと、死んだほうがましだと思っていた。
 
そんな状態でも、「立って歩く」という事ができる以上は健康な人間とみなされた。努力・成績・社交性などにおいて、健康な人と同じだけ、あるいはそれ以上のレベルを求められている、と感じていた。
アトピーでさえなかったら、もうちょっと勉強もがんばるのに。アトピーでさえなかったら、ちゃんと人の目を見て挨拶もするのに。アトピーでさえなかったら、自分の夢もひろがるのに。アトピーでさえなかったら。アトピーでさえなかったら。私はすっかりいじけた人間になった。
 
人間はどこまでストレスに耐え続けることができるのだろう。私は疲弊しきってしまい、ストレスを感じる気力と体力を完全に失った。いつかアトピーが治ってきれいな女性になる、という見果てぬ夢をあきらめた。もう、ええわ。ストレスという大きな岩で、どうぞ私をぺっちゃんこにつぶして下さい。立ち上がろうなんて無駄な努力はしませんから。完全に白旗を揚げた。
 
とはいえ生活は続くので、とりあえず、目の前の仕事を真面目にこなした。(顔から流血してるけど!)とりあえず、ひとに笑顔で挨拶した。(顔中ひきつってるけど!)そしてとりあえず、人を羨むことはやめた。私の苦しみは他の人には関係ないのだ。夜中に椅子から転がり落ちたあの日と比べて少しでもマシなら良しとした。とりあえず、私は何も考えずにただ生活した。
 
そうして数年が経っただろうか。美しい女友達にお肌がきれいと言われたのだ。食堂から小走りで事務所に戻り、大きな鏡で久しぶりに自分の顔をまじまじと眺めた。本当だ。どこからも流血していないし、爪で引っ掻いた痕もない。皮膚も、どこも剥がれていない。ちょっと待て! 一体、いつからこうだった? 最近知り合ったその女友達は私の「顔から流血」時代を知らないのだ。私の肌がきれいだって? そんなことあるわけないやろー、うわ、ほんまや! 大御所お笑い芸人のネタじゃないか。大きなストレスに苦しむことをやめた結果、気づかぬうちに私のアトピーは治っていた。
 
私の十年以上に渡る苦しみは一体何だったのだろう。とことん苦しみ抜いた事は決して無駄ではなかったが、苦しみを自分の中で何倍にも膨らませていただけではなかったか。顔から流血していようがいまいが、友達をつくり、夢を追いかけ、楽しく生活してよかったし、辛い時は辛いと言ってよかったのだ。アトピーが治らなければ手が届かないと思っていた生活は、すぐ手の届くところにあったではないか。
 
今では、例えば仕事で大きなストレスを感じた時に蕁麻疹がでることはある。そんな時にはあの日々を思い出し、考えるのだ。この苦しみは本当に感じる必要のある苦しみなのか? 不必要に自分を苦しめる思考は捨ててしまうのだ。朝起きて顔を洗えることがどれほど幸せなことかを知っている、それはこの先も多少のストレスが待っているであろう毎日を生きていくうえで、私の大きな武器になるはずだ。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《1/31までの早期特典有り!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事