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京大6年間で学んだのは学問なんかじゃなかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:海野真琴(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
夢と希望に胸を膨らませ、京都に来て早6年。
ここに来れば、なんだか楽しい人生になりそうだ。その直感に従って、1年浪人してたどり着いた京都大学。直感は、結果的に正しかった。しかしそのおかげで、私はすっかり別の人間に変わってしまった。学問を学ぶはずの6年間で学んだことは、全く学問とはかけ離れたことだった。
 
大学に入るまでは、生活の多くを占めるのが勉強だ。勉強しか知らない10代は、勉強をすればテストの点数が上がり、受験できる大学のレベルが上がるという、シンプルなレールに沿って真っ直ぐ育つ。真面目で、努力家で、曲がったことは許せない子に育つ。自分は真っ直ぐできているから、曲がってしまう理由がわからない。言うまでもなく、私もそちら側の人間だった。
 
いつの頃からか、1回生くらいの年頃の子を見ると、無性に可愛く思うようになった。まだ真っ直ぐな世界の中で生きていて、酸いも甘いも知らないウブな10代。もう私には戻れない、何にも染められていない白紙の年頃。6年前は、私もそうだったのだ。まさかこんな25歳になろうとは、1mmも想像していなかった。
 
在学中、私には3度雷が落ちた。
最初の雷は、茶道の先生との出会いである。
高校でも茶道部だったので続けることにし、初めての先生宅でのお稽古日を迎えた。
そこには着物を着た先生が、ちょこんと座っていた。
「あらどうぞ、いらっしゃい。初めまして。これからよろしくお願いしますね」
そう言う先生は少女のような可愛らしい笑顔で、ちょっといたずらっ子のような雰囲気があり、とても初老の女性とは思えなかった。
「皆さんに最初にお伝えしておかないといけないことがあります」
 
この言葉を、私はもう6回も聞いたことになる。毎年1回生の稽古はこの言葉で始まる。
 
「京大生に足りないのは、色気です。皆さんには色気を身につけていただきます」
 
色気?! 色気って何。ウブな10代には無縁の言葉。しかも茶道にも関係なさそう。
「色気というのは、何もいやらしい意味じゃないんです。京大生は世の中に出たらリーダーになる人たちですから、人を引きつけるような魅力がないといけません。それが色気です」
ほ、ほう……。分かるような、分からんような。何ができたらいいんだろう。どうやったら身につくんだろう。
疑問は残りつつ、先生宅を後にした。今なら、その意味が少し分かる気がする。
 
2つ目の雷は、バイト先の京料理屋の女将さんだった。
ここにも丸々6年お世話になり、女将さんは私にとって京都の母である。
まだバイトを始めて間もない頃、お店に面倒なお客さんが来た。ホールの私たちから大学名や出身を聞き出したり、近くを通る度、執拗に絡んできた。でも他のお客さんへの接客もあるので、通らないわけにはいかない。
パントリーで女将さんに
「あのお客さん、ほんとやめてほしいですよね。料理食べに来たなら料理だけ見とけばいいのに」
 
ここで落ちた雷は、なかなかの刺激だった。
 
「真琴ちゃん、女は愛嬌」
 
女は愛嬌?!?! そんな男に媚びるようなこと、私にはできない。キャバクラや風俗ではあるまいし、私は女であることを武器にこの仕事をしてるんじゃない。
私の目を真っ直ぐ見て、にっこりと微笑みながら女将さんに言われたこの言葉に、私はしばらく苛まれた。
 
しかし、今ではこの言葉をよく理解している。別に女に限ったことじゃないのだ。人は愛嬌。ホールで料理を運ぶ私達の役目は、お客さんに気持ちよくお食事をしていただき、また来よう、と思ってもらうこと。
話を広げると、男女や場所に関わらず、接する人に良い思いをしてもらって、またこの人に会いたいな、と思ってもらう。これが人間関係で一番大事なこと。これは、茶道の先生が言った「色気」と近いものだと思う。
 
6年接客を続けていたら、少しずつ愛嬌の意味が分かってきて、ふつうの京料理屋にも関わらず何人かのお客さんが名前を覚えてくれた。それに、バイト先以外でも愛嬌は使えた。おかげで多くの先輩に可愛がってもらったし、慕ってくれる後輩も増えた。就活も、愛嬌で乗り切った気がする。
 
3つ目の雷は、やっと京大らしく、教授からもたらされた。
彼女は特に有名な教授だった。身長が150cm足らずしかないのに、金髪、派手なアクセサリー、英語とフランス語混じりの関西弁で、とにかく目立ち、さらに学内で重要な役職についていた。
彼女が「発生生物学」の教授で、私は目を輝かせて授業を受けた。
内容は、とてもおもしろかった。どうやって私たちの身体ができてくるのか、どうやって細胞たちが相互作用しているのか、全ての内容が刺激的だった。大学の授業は退屈なものが多い中、先生の熱気も、学生の熱意もすさまじかった。
その授業のある回で、ヒートアップした教授はこう言った。
 
「いいですか、science は drama 、こんなにおもろい世界は他にありません! 人生は drama 、おもろくないと!」
 
留学歴が長いので、しっかり舌を巻いて drama という。
人生は drama! なんと素敵な言葉だろう。ドラマチックな人生、それこそ私が求めて京大に来た理由ではなかったか。
 
世間で偉い大学と思われている京大に6年間いて、京大生が学んだことは色気と愛嬌と drama であった。
もちろん学問もかじったのだが、到底研究の世界では生きていけそうになかった。
でもこの3つは、学問より大切なことだと思う。とある学生の生き方を決めたのだから。
だから私は、色気と愛嬌と drama で勝負する。京都で学んだことを誇りに持って。
 
 
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2018-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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