メディアグランプリ

彼女がお茶に誘ったら


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記事:安堂ひとみ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「私、ウソがつけないの」「正直モノで、ごめんね」

だからって、相手を傷つけていいということにはならないと思うのだけど。

「正直モノ」という免罪符をふりかざし、鋭い刃物でグサグサと突き刺していく彼女は、人の気分を害する天才だった。

初対面の人にでも、「声がうるさいですね」と冷ややかに吐き捨てたり、「は? そんなこともわからないんですか?」と上から目線に加えて鼻で笑ったり。

当然ながら、彼女がなにかヒトコトでも発すれば、場の空気は瞬間的に凍りつき、周囲はみな引きつった笑顔を見せる。

それでも「正直モノ」の自分は、みんなから好かれていると思っている様子で、会合が終わるころには「楽しかったね! また来月も会おうね!」などと上機嫌に言って、ほかのみんなをイライラさせながら帰路につく。

そんな様子なものだから、いつしか彼女は誰からも誘われなくなった。

それから数年が経ち、あるパーティで、私はたまたま彼女と再会してしまったのだ。

当時の様子を覚えている私は、『ヤなやつに会っちゃったな……』という思いで、眉をひそめながら、「久しぶり。元気そうだね」と、とりあえずの挨拶をした。

きっと、正直モノの彼女のことだから「何年も会わないうちに、ずいぶん太ったね!」とか「わ~、なんかトシとった?」とでも、返してくるだろうと、こちらも覚悟を決めていたのだが、意外にもにっこり笑って会釈を返されただけだった。

あらら? 人の気分を害する天才だったはずなのに、あの余裕の笑顔はなにかしら?

いぶかしげにしてみたものの、周囲には彼女を知る共通の知人はおらず、彼女の変化を確かめるすべはなかった。

その後も、会話をするタイミングが何度かあったが、愛想笑をしながら当たり障りのないことを話すにとどめた。ほかに話すことがなかったから、というのもある。

100人規模のパーティが終わりに近づいたころ。

正直モノの彼女が話しかけてきた。

「久しぶりに会ったし、ちょっと別の店で話しませんか? お茶でも飲みながら」

なんとなくイヤな予感がしていたが、気のせいだろうと打ち消してみる。

私もお茶をするぐらいの時間はあったし、気分を害されるようなことがなければ、断る理由もない。

パーティ会場から歩いて5分ほど離れたカフェに入って注文を済ませると、彼女は唐突に、こう切り出した。

「昔のこと、謝りたくて」

「え? 昔のことって、なに?」

コトバでさんざん人を傷つけたことだろうか? それとも何度も場を凍りつかせたことだろうか? 心当たりがありすぎて、なんのことだか想像すらつかない。

「私、実は離婚したんですよ」

正直、興味がなかったが、先に進めてもらう。

「安堂さんと頻繁に会っていたころは、当時の夫とは冷え切っていて、離婚寸前だったんですけど。相談できる人もいなくて、だから誰にも話してなくて。それで、いつも会っていた人達に、いろいろ八つ当たりしたっていうか……すみません」

なるほど、彼女なりに、周囲をイラつかせていたことは、自覚があったようだ。

それにしても、偶然会ったとはいえ、なぜそんな昔のことを謝ろうとまで思ったのか、たずねてみた。

「ある人がね『相手を変えようとしてもダメだ。自分が変わらなくちゃ、なにも進展しないよ』って、私をたしなめてくれて。それがきっかけで、心を入れ替えたつもりになって、変わろうとがんばったの。

少しずつだけど、いろんなことが変わってきて、ホントに自分が変わると、相手も変わるんだなって思ったら、過去の自分の態度が恥ずかしくなってしまって……

本当に、当時はごめんなさい。傷つけることをたくさん言ってしまいました」

私は夢でも見ているのだろうか、という気持ちになった。

あの彼女が、頭を下げて謝っている。

聞いているこちらまで、こみ上げてくるものがあった。

なんだ、いいところあるんだなぁ、このひとにも。私も反省しなくちゃ、と思いながら、冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、彼女は次の言葉を発した。

「それでね、どうやって私が変わったか、知りたくない?」

あれ? さっき感じたイヤな予感は、もしかしたらこれだろうか。

幼少のころから、勘が鋭いほうだった私は、今度こそ自分の直感を信じてみることにした。

「ごめん、そろそろ帰るから、また今度聞かせて。じゃぁね。楽しかった」

そう言い残し、そそくさとカフェを出ると、私は昔の共通の友人に電話をしてこうたずねた。

「久しぶり、いま、あの人。ほら、人の気分を害する天才。あの彼女に会ったんだけど。なんか知ってる?」

電話の向こうからは「健康食品のネットワークビジネス、始めたみたいだよ」と、聞こえてきた。

なるほど、私に健康食品を売りつけたかったのか……したたかすぎる。

彼女に対しては、後味の悪さが残ったが、自分の悪い予感が当たったことには安堵した。

ただ、彼女が言っていた『相手を変えようとしてもダメだ。自分が変わらなくちゃ、なにも進展しないよ』は、真理だ。

いくらがんばっても、相手を変えることはできない。

自分が変わるほうが何倍も手っ取り早いし、自分の、とくに「物事のとらえかた」が変わると、相手に対する感情も変わる。間違いなく変わる。

当時、彼女が人の気分を害する天才だったころ、私たちは彼女を変えようとしていなかっただろうか。

自分たちの態度を棚に上げて、彼女ばかりをやり玉にあげてはいなかっただろうか。

しばし昔を振り返ってみた……

だからこそ私にはわかる。

彼女が、変わろうと努力をしたのは、本当だということが。

だって、彼女はウソがつけない正直モノなのだから。

歩きながらショーウィンドウを覗き込むと、彼女にもう1度会ったら、話ぐらい聞いてみてもいいかなと思える自分がうつっているのが見えた。

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2018-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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