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孤独と醜い感情を見たくなくて、たかが失恋するのに1年もかかったって話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:べるる(ライティング・ゼミ特講)

 

「友達に戻ろう」

 

19歳の秋、私は1年付き合った彼氏に振られた。

相手は私と同じ田舎の大学に通う同級生だった。

 

別れたら終わり。

そう思っていたけれど、私の苦しみはここから始まった。

 

 

私とあいつは今日から友達。

大丈夫、大丈夫、ちゃんと笑える。

自分に言い聞かせて、学校に向かう。

 

「大丈夫?」と心配してくれる友達にも「大丈夫、大丈夫~!」と笑顔で言いながらも、少しも食欲がわかず、お昼ご飯は2口しか食べられなかった。

 

あいつのことが視界に入っても、冷静を装った。

大丈夫、大丈夫。

 

授業が終わりアルバイト先まで自転車を漕ぐ。

あいつは今日はバイトかなぁ。それとも先輩といるのかな。友達といるのかな……。

 

会えない時も自然とあいつのことを考えている自分がいた。

 

あいつがいない。

あいつがいない空白だけが、無限に続く宇宙みたいに私の中にぽっかりと出来た。

 

あいつと付き合って、私は色々なことを諦めた。

図書館で勉強すること、欲しい資格を取ること、友達と出掛けること……。

束縛ばかりする人だったので、私はあいつに自分の持っている時間のほとんどを費やした。

でも変わりにあいつは私の知らない世界を見せてくれた。

初めて行く場所。初めて知る感情……。

 

あいつがいなくなった今、私は自由だった。

やりたかった資格の勉強も、友達と出掛けることも、本を読むことも、なんだって出来る。

 

なのに、あいつを取り戻すことに自分の時間を費やすことしか出来なかった。

 

 

気がつけばいつもみたいにメールして、電話していた。

 

友達だから、メールしてもいいよね?

電話してもいいよね?

って自分を正当化して。

 

 

私は友達として、あいつの家に行った。

あいつは、私を拒否らなかった。

 

何してるんだろう。

別れたのに。

友達なのに。

 

このままずっと、生暖かい布団に入っていたかった。

学校なんて行きたくなかった。

大丈夫、なんて言いたくなかった。

 

 

「まぁ、いいんじゃない? 好きだったら追いかければ。もしかしたら、また振り向いてもらえるかもよ」

と、トオルは言った。

トオルも同級生で、あいつとも私とも仲が良かった。

チャラそうな見た目だったので、絶対に仲良くなれないと思ったら意外に気が合った。

実際チャラくて、彼女が5人いる男だったけれども。

 

「でも、別れてる間は絶対に寝るなよ」

 

ぎょっとした。

でも「うん。分かってるー」とだけ答えた。

 

 

私はあいつを好きなのだろうか?

よく分からなかった。

 

ただ、あいつを追いかけるのをやめられなかった。

 

……分からない、じゃない。

本当は、自分の気持ちに気付きたくなかった。

ドアの向こうに自分の気持ちを押し込めた。

ドアを開けて直視することが怖かった。

 

だから、ひたすらにあいつを追いかけた。

 

 

そして、私はあいつを取り戻した。

 

 

「やっぱり、お前がいい」

 

そう、だから私はあいつと彼氏と彼女の関係に戻った。

はずだった。

 

なのに、ちっとも嬉しくなかった。

 

だけど、私はあいつと関係を持ち続けた。

 

 

それから3ヶ月ほどたったある日、トオルが声を掛けてきた。

 

「お前さぁ、知ってると思うけど、あいつ結構前から新しい女いるよ。つーかさ、お前だって分かってるんだろ? あいつがいかに不誠実でひどい男かってことを」

 

……あ。

 

その時、私の中で全てがつながった。

 

知らなかったよ。

たった今まで知らなかったよ。

あいつに女がいて、不誠実でひどい男だって。

 

……いや、気付きたくなかっただけか。

 

いつからだろう。メールがそっけなくなったのは。

メールが誰かの真似みたいな文章だって思ったのは、いつだっただろう。

 

それまで自由に出入りしていた部屋に、勝手に行ったら怒られるようになったのは、いつからだっただろう?

 

暇な時間に「会いたい」って言われなくなったのは、いつからだっただろう?

それを全然なんとも思わず、自由な時間が出来てラッキー! って思ってたのは誰だろう。

 

恋愛はとっくの前に終わっている。

 

分かっていたのは、いつからだろう。

 

あいつの部屋が前と違う。新しい空気が流れてるって分かったのは、いつからだろう。

 

あいつが拒否しないのは、私を失いたくないからじゃない。

面倒臭いからだって、気付いたのはいつだっただろう。

 

 

「そんで、お前は何がしたいの? あいつは一回おまえのとこに帰ったじゃん? 何で大事にしないの?」

 

……やめて。

 

もう言わないで。

見たくないんだよ。

自分が本当はどうしたいか、なんて見たくないのに。

 

「これ以上あいつといて、自分で自分の価値を下げるようなことするなよ。お前いい奴だから、不幸になってほしくないんだよ」

 

やめて。

言わないで。

 

気付きたくなかった。

知りたくなかった。

 

気がつかないようにしていたのに……。

 

ドアを開けて、自分の感情と孤独が押し寄せてくるのが怖くて、見ないフリをしていたのに。

 

 

ひとつも何も大丈夫じゃなかった。

私は全然大丈夫じゃなかった。

 

でも、自分の気持ちが醜くてひどくて、自分でも認められなくて、誰にも言えなかった。

ドアを閉めて、なかったことにした。

 

私を好きだと言ってくれて、束縛するほどだった人が、私を好きじゃなくなってるなんて思いたくなかった。

好きだと言ってくれるのが当たり前なことになれてしまっていた、自惚れてる馬鹿な自分に気づきたくなかった。

私はいつだって「あいつが好きって言ってくれたから一緒にいる」っていう自分でいたかった。

 

自分が捨てられたって思いたくなかった。

 

 

だから私は、あいつを自分から捨ててやりたかった。

 

 

もう一度あいつを手に入れて、自分からあいつを捨ててやりたかった。

 

なのに。

もう一度あいつが私のもとに戻ってきたら、1人になることが怖かった。

 

 

あいつを捨てて、自分1人になることが、耐えられなかった。

無限に広がる宇宙みたいな孤独が怖かった。

醜い自分の感情と向き合うことが怖かった。

 

ダラダラとあいつと自分を傷付けながら、ぬくぬくと生暖かい布団の中にいたかった。

ドアを開けて、現実なんて見たくなかった。

 

もう終わりにしたいのに。

あいつと別れてから1歩も踏み出せない自分だけが、そこにいた。

 

 

それでも、トオルの言葉に、少しほっとしてた。

こんな自分でも心配してくれる人がいるんだ……。

 

 

自分で自分の価値を下げるなよ。

 

 

生暖かい布団から出たくなくて、自分で自分に泥を塗り続けるような私でも、これ以上最低になりたくなかった。

 

いい女でいたかった。

それが出来ないのなら、せめて普通の女でいたかった。

それすら出来ないのなら、せめて、もうこれ以上最低にならないように……。

 

あいつの番号をトオルの前で消した。

 

「とりあえずさぁ、誰でもいいからセックスしろよ。そしたらあんなしょ-もない奴のこと、すぐ忘れるからさー。ははははは!」

 

トオルはそう言って笑いながら手を振って去っていった。

 

……お前じゃないから、それは出来ない。

と思いながらも、誰かと寝たらぽっかり空いた穴も、醜い感情もなくなるのだろうか、と思う。

 

いや、何か違う。

たぶん、私には私にあった方法が何かあるはずだ。

働かない頭を働かせ、今自分が出来る最大の策を考えた。

 

 

見たくなかったら、逃げよう。

 

自分の孤独とも醜い感情からも、逃げよう。

 

これでいいのか分からない。

でも、とにかく逃げよう。

 

私はとにかく自分の空白の時間を埋めるべく、予定を入れた。

バイトを2個に増やしてとにかくシフトに入った。資格の勉強をしようと参考書を買って片っ端から解いた。女友達と飲み会や出掛ける予定もどんどん入れた。

 

何も考えなくていいように、何もしない時間を作らないようにした。

朝から晩まで動き続け、泥のように眠った。

 

気が付けば通帳残高は増え、資格も2個取得し、友達との思い出も増え、ついでに3キロもやせていた。

 

いつの間にか季節は春から夏になっていた。

別れてからもう1年も経とうとしてるなんて……。

1つの失恋をするのにどれだけ時間がかかっているのか。

あはははは。あーおかしい。

 

 

もう2度とあんな醜い自分になりたくない。

 

 

だから、もしまた誰かを好きになるとしたら、めちゃくちゃ好きで好きで好きで仕方がなくなった人とだけ、付き合おう。

決して自分を見失わないようにしよう。

好きで好きで好きで仕方なくても、恋愛が終わりかけたら、きちんと向き合って失恋しよう。

 

こっそりと心に誓った。

 

***

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2018-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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