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ダメ息子は来世で生まれ変わって母を救う


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記事:渡邊法行(ライティング・ゼミライトコース)
 
おととしの暮れ、母が一人で暮らす実家の近くにアパートを借りた。
長年やってきた仕事に疲れ果てて会社を辞め、更に、妻との別居を決めた上でのことだった。
ダメ息子、故郷に帰る。そんな気分だった。
 
10年ほど前に父が亡くなり、それ以来、母は実家に一人で暮らしている。
父が亡くなった後、一人にして大丈夫だろうかと心配したが、それは要らぬ心配だった。
どこへ行くのにも自転車を乗り回す。
あっちにもこっちにも知り合いがいる。
「超」がつくほど前向き。
 
しかしそんな母も、80代半ばともなるとさすがに体にガタがくる。
数年前から体のあちこちに不調の芽が顔を出し始めると、それまで殆ど聞いたことの無い弱音を吐くようにもなった。
ご近所のおばさん達からは「お母さん、久しぶりにお会いしたら随分小さくなられたね」と言われた。
私の母は同年代の方々に比べて、かなり元気な部類だった。だから、自分の親はいつまでも元気でいるものと思っていた。いや、思い込むようにしていた。
ところがおととしの始め、単身赴任先からたまたま実家に寄ってみると、母が青い顔をして座り込んでいた。
「病院に行きたい。でも救急車はあかん。ご近所さんに恥ずかしいから」
そんな事を言ったのは初めてで、だから、ひどく浮き足立ってしまった。
慌ててタクシーを呼んで、救急病院に駆け込んだ。大事には至らなかったが。
そんなことがあって、一人で暮らす母のもとへ帰ろうかと考えるようになった。
 
父が亡くなる前の数か月。父は入院していたのだが極度の病院嫌いのため、もの凄く家に帰りたがった。
母は父が望む通りにと、在宅介護することに決めた。週2回の訪問看護以外は殆ど母が面倒を看た。
息子の私や姉が出来たことは、ほんの申し訳程度のことだったように思う。
システム・エンジニアをしていた私は、タイミング悪く、この時に関わっていた案件で忙しかった。毎日終電。休日も出勤。
だから休みが取れた日曜日の朝から夕方頃まで、父の介護を「ほんの少し」手伝っただけだった。
「今の案件が終わったら、もっと面倒看に帰ってこられるから。もう少し待っててよ」
いつもそう言って、実家を後にしていた。
そして、ようやく案件が終わり「さあ、これから」と思った矢先に父が亡くなった。
後悔だけが残った。次、母がそうなった時。その時は出来るだけのことをしようと決めた。
 
でも。
おととしの暮れ。母の許に戻ろうと考えたのは、それだけではなかったと思う。
実は自分自身もかなり参っていた。仕事のこと。家庭のこと。あらゆることに疲弊していた。
自分を守りたいが為に、いろんな事を決断しようとしていた。
そんな時、思い出した母の決まり文句。
「私はあんたを守る。私の息子だから」
 
昔から母はいろいろな決まり文句を放ってきた。
「うちは貧乏なのに、あんたは、ぼっちゃまやな。びんぼっちゃまや」
「あんたは貧しい家のお粥さんや。中身が無くて、湯(言う)ばっかり」
うるさくて仕方なかった。
だけど。
「私はあんたを守る。私の息子だから」
これは効く。弱っている時は特に。
 
おととしの暮れ。母の許に戻ろうと決めたのは「体が弱ってきた母の面倒を看なければ」という理由だった。
でもきっと、自分の人生をやり直す出発点は母の許から。そんな甘えに心を引っ張られたからかもしれない。
 
ところで……。
このところ、幸い母の体調は結構回復している。最初は実家に帰るつもりだったが、「一緒に住むのは面倒くさい。別々に生活して」と言われ、近くのアパートにした。
しかし実家に近いものだから、食事や洗濯を母にお願いしている始末。
「面倒看るからって帰ってきたくせに、結局私があんたの面倒看てるやん」と、ことあるごとに言われている。
 
実は、あの決まり文句バージョン1には、機嫌が悪い時のバージョン2がある。
「きっと前世であんたに大きな借りを作ったんやろな。その借りを返すまでは、あんたを守りなさいってことやと思って諦めてるねん」という感じ。
小説の中に出てきそうな話だが、まじめな顔で言われると、これが意外と効く。
 
先日、例によって機嫌が悪いバージョンを放たれた時、ちょっと思いついた。
「ということは、今この世に生きている間はダメ息子のままでも、来世で母親の関係者として生まれ変わることが出来れば、返しきれなかった恩を返せるかも。それどころか、窮地に陥った時には守れるかも」
「やっぱり生まれ変わるなら、母親の息子がいいかな。ま、娘でもいいけど」
 
縁あって、親子となった人。もちろん親子だけではない。縁あって、とても大切な存在となった人。
この縁の環が、この人生の中だけで閉じてしまうのは、あまりに惜しい。寂しい。
縁の環が閉じないように、生命が連続して永遠に続くといいな、と思う。
そうすれば、長い目で見てもらえれば、大切な人に受けた恩を必ず返すことが出来そうだから。
 
などと、掴みどころのないことを考えて、息子の責任を猶予してもらおう、なんてことを考えてる所がやっぱりダメ息子たる所以か。
とりあえず、出来ることから母の手助けをしていくように心を入れ替えるかな。
そうしないと、そろそろ、
「私はあんたを守る。仕方ない。ダメ息子だから」
と言われそうな気がする。
 
 
 
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2018-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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