メディアグランプリ

父の癌という「日常」を経験して感じたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:仙石美世(ライティング・ゼミライトコース)
 
 
「お父さん、食道に癌があるみたい」
ある日、母からのメールを見た私は固まった。それまで家族が病気になるということを経験したことがなかった私にとって、「家族が癌になった」という事実は背後から頭を急に殴られたような衝撃だった。
 
私のことを話そう。
 
自分で言うのも何だが、幼いころから優秀だった。中学受験を経て都内の私立中高一貫校に通った。そして難関といわれる大学に合格し、バイトにゼミに忙しいけど充実した毎日を送った。
 
しかし大学卒業後の就職。希望していたマスコミ業界の会社は全滅し、教育業界の会社に勤めることに。本当に嫌で仕方なかった。なぜずっと「成績優秀」だった私が評価されないのだろう。その想いは入社してもずっと消えず、4年後転職した。誰もが知っている大企業で、合コンに行ってもちやほやされる。1度会社の採用のホームページに、先輩のお手本として載ったこともある。やっと世間は私を評価した。良い気分だったけれど、何故かもやもやが残っていた。
 
そんなある日のこと、父は言った。
「みよちゃん、つまんなそう。周りなんていいじゃん。自分のやりたいことやればいいじゃん。お父さんはみよちゃんがつまんなそうに生きるために育てたわけじゃないよ」
 
父にはお見通しだった。私はずっと誰かに認められたいためだけに生きていたということに。でも父は世間に認められることではなく、自分らしく生きることを望んでいた。
 
この一言がきっかけで、私はやりたいことをやろうと決意した。毎日自分と向き合って、何がしたいのか、どんな環境だと自分らしくいられるのかを考え続けた。その後2度目の転職活動をして、教育業界の営業の仕事をやることにした。教育にもう一度関わりたいと思ったからだ。すごく忙しいし、まだ評価される立場にいない。けれど自分がやりたいと望んでいることをやっているお陰で以前より毎日が断然楽しくなったことに気づいた。
 
 そんな矢先に父の癌という事実に直面した。
 
 幸い、手術で取り除けば命に別状はないということが分かった。でも私の気持ちは晴れなかった。私は父に何もしてあげられていない……。そう感じたからだ。
 
 私は今年で32歳になる。この年齢になると、周りは結婚している。しかし私は結婚していない。なぜ、と聞かれると困るけれど、予定も特にない。両親にせっつかれたことは今まで一度もない。
 
「結婚していない私は父にとって親不孝な娘だ」
急にそんな考えが頭の中に浮かんだ。
私は自分を責めた。何なら今している仕事も責めた。忙しい仕事をしているから、結婚できないんだ。もう仕事したくない。それより早く結婚するための方法をさっさと考えなきゃ。そんなところまで追いつめられていた。
 
父の癌が分かった3日後、60歳くらいの男性のお客様に今思っていることをかいつまんで話したところ、こんなことを言われた。
「親孝行ってさ、そんな特別なことじゃなくていいんだよ。たまには顔見せて美味しいものでも一緒に食べようね、ってそれ位の意味だよ」
何を言っているの。こんなに私が苦しんでいるのに、軽いこと言わないでよ。イライラした。
正直、その時は彼の言葉が全く理解できなかった。
 
そんなこんなで父が入院し、手術をし、退院する日が来た。手術は立ち会いたかったけれど、急な仕事が入ってしまい、行けなかった。父にその代わり退院の日に立ち会ってほしいと言われたので、退院の日に有休をとって父の元に駆け付けた。
 
病院に行くと既に父は帰る支度をしていた。普段通りの父だった。
「美人の看護師さんがいるかと思って期待したのに、1人もいなかったな」
悪態をつくのも普段通り。
 
病室を出て、看護師さんにお世話になった旨を伝えた。看護師さんの反応は私の予想に反するものだった。
 
「はーい、良かったですね。では私は仕事があるので」
 
あ、あれ!? もっと喜んでくれるんじゃないの?
 
私はそこで気づいた。
父の癌は、特別なことじゃないんだ。看護師さんにとっては日常なんだ。
 
そう気づいたと同時に、私の心がすーっと軽くなっていく気がした。
 
私は父の癌を「特別なこと」として捉えていた。だから何か「特別なこと」をしなければならないと考えていたのだ。特別な「親孝行」を。だから結婚して子どもを産むことだけが親孝行だと思い、それを出来ていない自分を責めた。
 
でも、父の癌は「日常」だった。生きている中での1つの出来事に過ぎなかった。
そこで、自分が特別だと思っていることは実は「特別なこと」とは限らないのではないかということに気づいたのだ。
 
そして、お客様の言葉を思い出した。
「親孝行ってさ、そんな特別なことじゃなくていいんだよ。たまには顔見せて美味しいものでも一緒に食べようね、ってそれ位の意味だよ」
ああ、そうだ。「親孝行」も「特別なこと」と思っていたけれど、そうじゃない。自分が「日常」で出来ることをコツコツとしていけばいい。出来ることはたくさんある。
まずは父が前に言ってくれていたように、自分らしく生きよう。そして娘は楽しんでいるよ! と胸を張って言えるようになろう。
結婚はしたくなった時に、すればいい。別にそれだけが「親孝行」じゃないんだ。
 
自分の中ではショックな、「特別なこと」も「日常」の一コマなんだ、と気づいた。
そして「日常」で出来ることがたくさんあるということに気づき、「日常」で出来ることをまずはやっていこうと前向きな気持ちになれた。
 
父の退院から2週間。
私は変わらず忙しく仕事をしている。けれど充実していて、とても楽しい。自分らしく生きることがこんなに楽しいのだと感じられたのは父のお陰だ。
 
そして父の癌は以前より私に「日常」をもっと大切にするきっかけとなった。毎日出来ることは他にないかを意識して生活できるようになった。
 
 
あ、そうだ。
来月は父の誕生日。父の大好きなプリンを買って実家に帰ろう。
 
きっと喜んでくれるだろうな。
 
 
***

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2018-02-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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