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メディアグランプリ

ただ、泳ぎ続ける


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:8☆(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
夢を見つけたこと、ありますか?
夢を叶えたこと、ありますか?
 
どちらの問いにも、私の答えはYES。
 
夢を見つけたのは26歳の時。
 
それまで、特にやりたいことがなかった。
就職活動では業種も職種も問わず、社長が説明会に立ちビジョンを共有している、規模が小さなベンチャー企業に絞り、設立8年目の企業に入社した。そこには、全社員で考え出したという社員の“心得”があった。
“できない理由ではなく、どうすればできるかを考え取り組む前向きさ”
“お客様やパートナー企業、上司、同僚に元気に挨拶・笑顔で交流”
……といった具合の心得八つだ。創業者である会長は、これに励めば一流のビジネスパーソンになれる、と熱弁をふるった。
 
「私、一流のビジネスパーソンになりたいって思ってないんですけど。
まだ、自分の夢が何かもわかりません」
 
率直な私の質問に、新入社員一同が青ざめる中、会長は穏やかにこたえてくれた。
 
「今、夢が見つかっていなくても、いつか見つかる。
宇宙飛行士かもしれないし、弁護士かもしれない。
その時、何もしてこなかった人と夢が分からずとも向上しようと頑張ってきた人、どちらが先にその夢を叶えるか。言わずもがなだよな」
 
以後、“心得”を胸に、私は早朝から深夜まで働いた。
優秀な社員ではなかったが、“心得”の高さに期待ができる、と査定の度に昇給。入社1年程で月収は10万円以上増えていた。でも……
 
20代の自分の時間をお金のために費やしたいわけじゃない
 
そんな思いが高まり、会社を辞めて、中米の最貧国・ニカラグアにボランティア活動に飛び出した。人のためになれることなら何でもよかったので、仕事にこだわらなかった私に与えられた任務は、地方都市での性教育の改善。貧困の要因の一つである若年妊娠、そして性感染の予防の取り組みである。性教育、どころか教えること自体初めてだったし、日本と違い校舎はオンボロ、性教育の教科書なんて図書館にしかなく、停電・断水が日に数時間続く環境であったが、ここで“心得”が支えになった。できて間もないベンチャー企業も何も揃わぬ環境だったが、“心得”に従い前向きに元気よく、一生懸命取り組んだら、色んなことを実現できたから。
やるしかない、と一心に教育に取り組み、生徒の成長に触れ、可能性に興奮し、26歳にして初めて夢を見つけたのだった。
 
「教師になる!」
 
二年の任務を終え帰国し、私は通信教育で教員免許取得の勉強をしながら、修行、と意気込み、学童クラブスタッフ、キッズシッター、塾講師……様々な教育関係アルバイトにとりくんだ。
 
夢が見つかると景色が変わる。
 
勉強がこんなに面白いなんて、知らなかった。課題に答えるために、テキストをむさぼるように読み、納得がいくまでレポートを磨き上げた。
アルバイトながら、今この一瞬一瞬の経験が自分の血肉になっていく、という実感は、追われるように仕事をしていたベンチャー時代にも、目の前の子どもたちの笑顔につながるようにと我武者羅に走ってたボランティア時代にも得たことはなかった。
 
“夢中”の時期はあっという間に過ぎていった。
30歳、教員免許を取得し、中学校で教壇に立つことになった。
 
夢を見つけてから4年、私はついに夢を叶えたのだ。
 
ただし、社会科の非常勤講師、担任のクラスや部活の顧問はもたない“授業屋”である。それでも十分だった、プロの授業屋になるぞ、と街を歩いても、テレビを見ても、人と会っても、常に授業のことを考えた。コンビニに増えていく外国人スタッフ、流行のCM、友人の会社の愚痴……どれも生徒が現代社会をジブンゴトとして捉えるためのヒントになった。
 
しかし、である。
理想の教師像と実際の自分の大きなギャップに苦しむ日が続く。
準備した授業が思うように進むことは少なかった。
専門書を読み漁り、指導力向上のセミナーに参加し、尊敬する先生の授業を廊下でこっそり立ち聞きした。
それでも私の教師力はいっこうに向上せず、契約期間は終了した。
 
私は3年で教壇を降りた。
 
退職から数日後、話したこともない数学の先生から手紙が届いた。
「先生の気持ちのいい挨拶、いつも元気をもらいました。私も見習っています」
 
ボロボロと涙がこぼれた。
教師としての力は足りずとも、毎日元気に挨拶しよう、前向きに考え、一生懸命取り組もうとしてた。“心得”である。それが他の先生にプラスにはたらいていた……自分がそこにいた意義を認めてもらえたように思えた。
 
ただ、泳ぎ続けていた。
“心得”を追っていた、いつもいつも。
いつ、どこにたどりつくかも分からなかったけれど、マグロのように泳ぎ続けた。
ベンチャー企業入社から、ニカラグアの時も、教員修行中も、教員になってからも。
 
今、ようやく私は、仕事にやりがいと手ごたえを感じている。
10年余りの社会人生活の中では一番に、だ。
 
全国で国際理解教育が広がり、またその質が向上するように、教材作成、情報発信、研修やプログラムを企画・運営する、という仕事。
夢に描いたこともないことだ。
 
夢が、いつ見つかるかはわからない。
一度描いた夢が変わることも、叶った夢がくじけることもある。
でも、いや、だからこそ、向上を信じて鍛えておくことは役に立つ。
前に進むのに理由はいらない。ただ泳ぎ続ける。
 
 
***

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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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