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メディアグランプリ

空飛ぶブラジャーを見つめて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大久保忠尚

 
 
たまに思う。もしもこのグラビアアイドルの胸がGカップでなくCカップだったら、僕はここまで熱心に彼女のことを見つめているだろうか、と。決して胸の大きさで女性の価値が変わるとは思わないものの、この子の現在の売りはその豊満なバストな訳で、それが失われるというか、魅力として打ち出していたものが少なくなってしまうことは、彼女の捉え方を変えてしまうことになるのではないか、と思うのだ。僕にとって女性の胸とは一体なんなのだろうか。
そういえば、同級生の女が以前「私、Dカップあるからね!」と文字通り胸を張って言っていたのを覚えている。彼女曰くDカップのDはDreamのDらしい。しかしながら、彼女も調子がいい時はDカップらしいが、ほぼCカップであるらしい。そのあたりのバストサイズの細かい事情は分からないものの、僕は彼女のことはCカップだと思うようにしていたが、「いいの。CカップのCはCuteのCだから!」とこれまた何故かサイズダウンをしているにも関わらず胸を張って主張していた記憶がある。そんな彼女も、夢に満ちたバストは手に入らなかったものの、代わりにキュートなバストを身にまとい、そのキュートさで彼氏を作り、結果的に結婚という一つの夢を見事に叶えたのだから、DカップでもCカップでも、彼女にとってはさして関係なかったのだ。
さて、胸の話はどうでもよくて、先日からライティング講座というものに通い始めた。大人になってこういった講座に通うことになるとは自分自身想像していなかった。しかし、三十歳という節目を迎える年に何か変化を起こしたいという気持ちが僕を突き動かしたのかもしれない。普段は節約志向の僕だが、珍しく話を聞いてすぐ受講を決断していたのはそのせいだろう。
先週第一回目の講義に参加をした。十九時半から始まる、まさに大人の授業。会場は駅から約十分の場所にある書店だ。薄暗く狭い店内には約三十の椅子がぎっちりと置かれ、参加者は学生から年配まで幅広かった。
講義が始まると、経営者やら編集長やら約十個の肩書きを持つというダルマのような頭をした男性が小さな舞台上で明かりに照らされながら話し始めた。正直、これだけ肩書きがあると胡散臭い。そのうち文章がうまくなる水とか言いながら、宗教か何かに勧誘されるのではないかと思った。しかしそんなこともなく、話を聞いていると「なるほどなぁ」と思うことを説明している。そして講義の終盤、ワークショップとして大喜利のような時間があった。言われた通り考えてみるものの分かっていたつもりがなかなか頭に言葉が浮かんでこない。自分なりに考えた後、周りの数人で発表し合うのだが、周りは非常に良い感じで自分の考えを僕に話してくれた。また全体を代表して何人かが発表をするが、その中の一人は自信に満ちながらダルマ男へ発表していた。周りの人たちの実力と自分の力の無さに、プールで一人泳げず授業を眺めている子供のような気持ちになっていると、残りの時間は過ぎ、気付けば初回の授業は終わっていた。
帰り道にぼおーっと空を見上げていると、ふと実家でのことを思い出した。実家近くのマンションで、堂々とブラジャーが干してあったことを。
決して新しいとは言えないマンションの二階。裏道に面している窓の物干しからそれは干してあった。春先の天気の良い日に、青空の下、真っ赤なブラジャーがまるで空に浮かぶかのように風になびいていた。男の性なのか自然と視線はブラジャーへ向いてしまっていた。どうせ、母の年齢に近いようなおばさんのものだろうと思いつつ、そのブラジャーはよれているような印象もなく、適度に装飾のほどこされた百貨店で取り扱われているようなものだった。何よりもそのブラジャーの衝撃だったことはサイズがとても大きいことだった。
赤く華やかに装飾が施され、比較的新しく何よりサイズの大きいブラジャー。初めはおばさんのものだと思っていたものの、考えれば考えるほど、何か良く分からない期待のようなものが湧き出てきてしまう。まして、女性にしては珍しく大胆に外から見える形で洗濯をしている。その持ち主がどんな人だろうか想像しないほうが男として不自然だと僕は思う。
そんな記憶が頭に過ぎったかと思うと、記憶の中の春風はどこにいったか、2月の寒風が頬をさすり僕を現実へ戻した。そして同時に講座での悔しさをもう一度思い出させた。
僕にとって今回の講座は、空に浮かぶあの赤いブラジャーの持ち主の正体を暴く作業なのかもしれない。このブラジャーの持ち主が分かったところで、その人と運命的な恋に落ちるとか、その人に話しかけるということはきっとないだろう。しかし、ただ想像しているだけではダメなのだ。意識的にその窓の前を通り、いつか洗濯物を取り込む彼女の姿を眺めることができた時、僕は何かに気付けるのではないか。もしかすると、同級生にはとっては関係のなかった胸のサイズという存在が、僕の人生にとって非常に重要な鍵になっていることに気付き、Dreamのカケラとなる可能性だってある。その逆も然りだ。
この講座も同じだ。受講はしてみたものの明確な目標はなく、この講座が終わったからといって僕の人生が劇的に動き出すとは今は思っていない。しかし、健気に日々鍛錬を繰り返せば、数ヶ月後に今は見えていなかった景色が見えているのかもしれない。それが夢のカケラの可能性だってあるのだ。
社会人になってからというもの、何か目的や利益がないとなかなか足が動かなくなってしまっていた。しかし、僕は今少しずつだが歩き始めた。ブラジャーの持ち主が洗濯物を取り込む瞬間に巡り会うことを期待しながら。そして同時に彼女が僕に微笑むことを思い浮かべながら。
 
 
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2018-02-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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