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ジャイアントパンダの子育て


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「ほら! また出てるよ。そっくりじゃない」
母は笑いながらテレビを指差して、私たち親子のほうを振り返り、そう言った。テレビのなかに映っていたのは、2匹のジャイアントパンダの親子だった。

 

ちょうど1年前の春に生まれた息子は、もうすぐ1歳を迎えようとしている。私は、時折、息子と一緒に四つん這いになってはいはいの練習をしたり、ジャイアントパンダのお母さんが子どもを小脇に抱えて笹を食べるかのように、息子を片腕に抱えたまま、空いたもう片方の手でおにぎりを頬張ったりすることもあった。そんな姿が、ジャイアントパンダのお母さんが子どもを育てている姿に似ている、というのだ。

 

1年経った今でも鮮明に覚えている。
あの日は、まさに、満身創痍という言葉がこれ以上ないくらいぴったりくる、そんな体験をした。しかし、産み落としたからと言って、私は、わずかに体重が軽くなったくらいで、心情的に、母親になったという実感は、正直そこまで沸いていなかった。
そこからが本当のはじまりだった。
「赤ちゃんって、本当に泣くと赤くなるから赤ちゃんなんだ……」
顔を真っ赤にして手足をバタバタさせて泣く赤ん坊の姿を見ながら、そんな風に目に入るものや匂い、触ったときの柔らかさや温もり、そのすべてが初めてのことで新鮮だった。

 

そんな悠長なことを言ってられるのもつかの間、戦争のような怒涛の日々が待っていた。
出産後に退院して自宅に戻ったばかりのころは、夜昼関係なく1〜2時間ごとの頻回授乳。その分、便もゆるく回数も頻繁に出るし、おむつ交換とおっぱいの繰り返しで、まとまった時間、眠ることはできない。息子を寝かしつけながら一緒に寝落ちしてしまうのが、お決まりのパターンだった。
おむつは取り替えたし、授乳もしたばかりでおなかもいっぱいのはず。それでも泣き続ける息子。なぜ泣いているのか、分からない。息子を抱っこしたまま、部屋じゅうをうろうろ歩き回ったり、何十回とスクワットをしたり、お尻をトントンしたり……。泣くことでしか意思表示の方法がないわが子に対し、何度、「早くしゃべるようになって欲しい……!」と思ったことだろう。

 

そして、何よりも私を悩ませたのは、母乳問題だった。
幸いにも、入院中から量はしっかり出ていて、「十分、母乳で育てていけるよ」と、助産師さんからも太鼓判を押してもらっていた。
むしろ、母乳の分泌量が多いことが、問題だった。まだ飲む力が弱く、一度にたくさん飲むことができない息子は、授乳のたびに、勢いよく出る母乳を上手に飲むことができず、むせて苦しそうにしている。そのうちに怒って泣き出すので、最初の3ヶ月くらいは、本当に、親子で泣きながら授乳をしていた。修行のような時間だった。
それに追い打ちをかけるかのように、少し油断をすると、頻繁に授乳していてもすぐに乳腺が詰まって炎症を起こす、乳腺炎を繰り返してしまうのだった。
「一番の治療法は、赤ちゃんに飲んでもらって古い母乳を出してしまうことだよ」
助産師さんからそうアドバイスを受け、乳腺炎のせいで高熱が出ていた数日間も、寒気からガタガタ震える体を無理やり起こし、ひたすら息子に授乳し続けた。今思い出しても、育児のなかでもう二度としたくない経験ナンバーワンだ。

 

もちろん、そんな大変な、辛い思い出ばかりでもない。
乳幼児を育てたことのある人なら誰もが経験するであろう、抱っこのし過ぎによる腱鞘炎も、気づけば、いつの間にかなくなっていた。
妊娠前は、親子体験教室で3kgの赤ちゃんを模した人形を抱いて「重い」と感じていたのに、息子の成長とともに徐々に私の筋力も鍛えられたようで、今では10kgある息子を、平気で抱っこしたりおんぶしたりしている。

 

「親になるのではなく、親にしてもらう」という言葉は、まさにその通りだった。
いくら育児書を読み漁っても、必ずと言っていいほど「個人差があります」という注意書きがある。なぜ泣いているのかなんて答えは載ってないし、ほとんどの本は参考程度にしかならなかった。今だからこそ分かるが、目の前にいるその子と親である自分、生身の人間同士のやりとりの中でしかノウハウは蓄積されないし、信頼関係も生まれない。こうして、私は、息子に「母親にしてもらう」のである。

 

まだまだはじまったばかりの子育て。
どんな親でも、子どもが無事に大きくなるにつれて、どんどん欲が出てきて「こうなって欲しい、ああなって欲しい」という願いは尽きない。それでも、やっぱり、一番の願いは、これからも健康にすくすく育ってほしい、ということだ。
私にも、この子の人生にも、これから想像できないような大きな困難・絶望・希望……たくさんのものが待っているだろう。
だからこそ、何が起ころうとも、どーんと構えていられるような母でありたい。そして関わってくれる周りの人を、少しでも笑顔にできるような、そんな存在でありますように。
あの、日本一有名なジャイアントパンダの親子のように。

 

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2018-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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