メディアグランプリ

教えることをやめた教師が見つけた大切なこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:筒井洋一(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

「先生の話を聞いていると、つい寝くなってしまいます。聞きにくいというわけではなく、むしろ心地がいいのでそうなるんです。すいません」

20年前、親しい学生が私の授業の感想を述べてくれた。ほめてるのか、けなしているのかわからない表現だった。もちろん、日頃は親しい関係なので、自分から授業の感想を言わない。しかし教師から尋ねられたので、申しわけなさそうに言ってくれたのがこの言葉だった。本当は、「眠たくなるつまらない授業だ」と言いたかったのだと思う。

大学には、学生が無記名で記入する授業評価アンケートがある。学生が授業を匿名で評価するという趣旨だ。普通の学生は書くのが面倒なので自由記述欄には何も書かない。けれども、たまに書く学生は、かなり露骨に言いたいことを書く。

「話が長い」
「眠たい」
「予備校の先生の方がもっと授業がうまい」

などが自由記述欄に書きなぐってある。こうした批判はズシンとこたえる。教師というのは、自分自身が批判されることにめっぽう弱い。しかも、匿名の批判にはさらにいらだってくる。

「こういう心ない批判をする学生は、政治学がわからないから、教師に当てつけてるのだろう」
「大講義にはやる気のない学生がたくさん来ていて、彼らは批判ばかりする」

と、もっぱら学生にばかり腹立てていた。教師生活30年間の中で約20年間はこういう感じだった。

かといって、冷静になって考えれば、学生からの批判ももっともな部分もある。実は、自分自身でも大教室の授業はあまり得意でなかった。学生の授業態度がどれだけ悪いとしても、私の授業で教室の後に座っている学生は、寝ているか、内職しているか、しゃべっているのが目立つ。正直言って、これってあまりいい状態じゃないとは思っていたが、どうしたらいいのかわからなかった。

50歳になった時は人生の底だった。30歳代、40歳代は、大教室の授業で相変わらず演説していた。演説とは、学生を無視して、90分間教師が話し続けるという意味だ。マイクがあっても大教室で90分間話し続けるのは体力的にもかなり疲れる。一日に二つや三つ授業で演説すると、その後は仕事ができない。それくらい疲れる。

けれども、教師の疲労感の一方で、学生が相変わらず寝ているとすれば、本当に学生を教育しているのだろうか? いろいろ悩んだ。

それじゃ、教師の話しっぱなしではなく、学生同士の話も入れてみようと思い立ち、私が15分くらい話した後に、15分間学生がグループで話し合う時間を作り、それを繰り返すことにした。

これは劇的な変化があった。

それまで寝ていた学生もグループになると話しはじめたのだ。確かに、寝ている学生であっても、熟睡する学生は少なくて、何か物音がすると起きるくらいの浅い眠りの学生が多い。グループワークになるとこれまでの教師生活では体験できなかった生き生きとした学生の表情があった。演説をやめると学生はこんなに変わるんだ。

じゃあ、これだけ話せるんだったら、もう少し高度なことをしようと、何名かの学生でチームを作り5週間後に発表することにした。しかし、これが大失敗だった。問題は、毎週出席しない学生の存在だった。途中で欠席する学生がいるとうまくいかない。しかも、久しぶりに授業に出席する学生が来ると、どのチームに入れるのかが難しい。こうやって、5週連続で出席するチームが少なくなり、グループワークが成り立たなくなる。「やっぱり学生はだめだ」と思って、結局、グループワークをやめた。

大きな転換点は、2013年だった。

じゃあ、教師が教えるのをやめて、他の人が授業すればどうなんだろう、とふと思いついた。もちろん、教師は、授業全体をしっかりとホールドするにしても、実際に教壇に立って授業進行をするのは教師ではなく、他の人がやるということだ。

私は思いついたら、行動が早い。さっそくFacebookやWebなどに

「大学の授業を教員と一緒に創りませんか?」

と呼びかけて、授業ボランティアを募集したら、わずか数日で「いいね」が200以上、コメントの書き込みも殺到した。一週間以内に、ボランティア希望者も3名決まり、彼らと一緒に授業を始めた。

これまで前例のないことに飛び込んでくるボランティアなので、いずれも実力のあるメンバーだった。ボランティアが学生と一緒に学ぶ形式は、ぴったりとはまった。25年間関わった教師としては、内容の深さや授業進行については私の方が一枚上だと思うが、熱情のこもった、そして一人一人の学生に目を向ける姿は、私にはとうていかなわない。授業終了後も、学生はボランティアの側から離れない。

結果的に、学生にも大きな変化があった。普通だと最初の二、三週は授業に出てきても、徐々に出なくなる学生がいるが、それがなくなったのだ。

授業ボランティアはグループの支え合いを徹底しておこない、メンバー同士が互いに打ち解けた関係を作っていた。欠席がちのメンバーも、出席すると他のメンバーから暖かく迎えられるので欠席しなくなる。いわゆるチームビルディングをしっかりすると、メンバー間での安心空間が生まれ、結果的に学生が一生懸命学ぼうとするのだ。それまで、私は、いかにわかりやすく学問を教えようと努力していたのだが、問題はそれではなかった。

じゃあ、教師の仕事は何か? 25年間教師をやって来てようやくこれがわかった。

教師は、知識を教える人ではなく、学生が学びたくなる環境を創る人だった。

学生は学びたくなれば学び出す。教師がその環境を創り出せば、結果的に学生の学ぶ意欲が高まっていく。これがわかるために25年間もかかった。けれども、誰に習ったわけでもなく、自分の苦闘の中から生み出したことなので、まったく後悔はない。

けれども、これは一度だけの偶然にすぎないという人もいるかもしれない。けれども、5年前からその後も継続しているが、やはり結果は変わらない。学びたくなる環境さえ創り出せば、学生は自ら学びだしはじめるのだ。

一度私の授業をのぞいてみませんか?

 

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2018-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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