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『神様の言うとおり』で即決できるくらい、簡単に人生の決断ができたらいいのに


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:瑞陵 梨乃(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
幼少期、誰でもきっと一度は『かみさまのいうとおり』って口ずさみながら指をさして選んだ経験があるはずだ。
人生の岐路に立たされ、重大な選択をせざるを得ないときに、子どもの頃のように純粋に、歌をうたうようにスパッと決断できたらいいのに。どちらに転んでも、振り返らず人生を歩んでいけたらいいのに。
 
わたしは今、離婚するかどうか迷っている。いや、今度こそ、離婚してやる!!
「落ち着きなよ」
とわたしをなだめる親友の声で我に返る。頭の中で考えていたはずのことが、後半から口に出ていたらしい。深夜のファミレスで、他の客の視線に気付いたわたしは少々気まずい思いをする。親身になってわたしの話に耳を傾けてくれるのは、親友の由香里だ。
 
由香里はわたしにとって毛布みたいだ。あったかくて、居心地がいい。ずっとここにいたくなる。安心して包み込んでくれる毛布のような存在を前にしたせいか、今まで堪えていた涙が頬をつたうのを感じた。
 
―――あのね、旦那がねぇ……
 
日々の暮らしの価値観の違い、
ずっと我慢してきたこと、
常に理不尽な思いをしていること、
今までは何とか持ちこたえてきたけれど、今回の件は耐えられないこと。
 
抑えていた感情と言葉が、涙と共に溢れ出したら止まらなくなった。
 
わたしは、大学時代から付き合っている彼と結婚して数年が経つ。学生の時からケンカしては別れ、別れてはよりを戻し、また些細なことで別れ……を何度か繰り返して今に至る。最終的にはお互いに「腐れ縁」感覚で結婚したようなものだ。だから、新婚当初からトキメキというより諦めの感情が勝っていたように思う。
 
「あの占い師、本当にインチキ! 今の旦那と結婚してもいいって言ったのに!!」
延々と話せそうだった彼の悪口も底を突き、わたしがついに占い師まで巻き添えにした直後の出来事だった。
「もう、いい加減にしてよね」
わたしは一瞬、耳を疑った。いつも、どんなわたしも吸収して受け止めて見守ってくれていた由香里の意外な言葉。わたしが落ち込んでいるとき、由香里が口を挟むことなんて今までなかった。
「あのさぁ、よく『占い師に騙された』みたいな言い方できるよね? あんたの占いのために韓国まで付き合わされたわたしの身にもなってよね」
 
―――そうだ。わたし、韓国まで行ったのだ。
ソウルによく当たる四柱推命の占い師がいるらしいと聞きつけたわたしは、反対する由香里を説得し、強引に旅先を韓国にしたのだった。
四柱カフェで、有名な占い師は言ってくれたのだ。「困難は多いかもしれないけれど、結婚しても大丈夫」と。
 
雑誌の星座占いも、血液型占いも信じられず、
すがるような思いで占ってもらったショッピングモールの手相も、巷で噂のタロットも壊滅的な結果だった。
彼とわたしは、ことごとく相性が悪いと診断された。
わたしは、彼との結婚に背中を押してくれる占い師に出会えるまで、気が狂ったかのように占いへ通い詰めたのだ。
 
結局のところ、自分の選択ではないか。
わたしは彼と結婚したかったのだ。
数人の占い師に忠告されても、他の誰に何を言われたとしても、わたしは彼と結婚する人生を選びたかったのだ。
 
「ああ、そっか。アレと一緒だ」と思った。『神様の言う通り』で決めるやつ。
わたしは子どもの頃から何も成長していない。
自分では選びきれずに、神様に委ねる。正確には、委ねたフリをするのだ。
 
ところで、『神様の言う通り』の歌詞には、非常に地域性が出るらしい。
「どれに」なのか「どちらに」なのか、
「神様」なのか「天の神様」なのか……。
 
わたしの生まれ育った地域では、『神様の言う通り』には続きがある。
AとBという選択肢があって、「かみさまのいうとおり」までではBという結論が出る。
けれど困ったことに、続きを最後まで歌うとAで指が止まり、別の結果になるのだ。
 
神様が選んだ結果に素直に従えないとき、こっそりズルをして続きの歌をうたって決めていた幼い頃の記憶。それなのに、「神様が決めたこと」とうそぶいて自分自身を納得させていた幼い頃のわたし。都合が悪くなると、神様に責任転嫁していた過去のわたし。
 
自分が選ぶこたえは、神様が発言するとっくの前からもう決めているのに。
 
家に帰って、しっかりと彼と向き合おう。そう思い直した瞬間、
「帰ろ。わたし明日も早いの。これ以上は付き合いきれないから、ここでわたしに愚痴ってるくらいなら、直接、本人に伝えてください」
と、由香里が席を立った。
 
ついに愛想を尽かされた気がして、由香里の顔色をそっと窺う。
「……さすがに呆れるよね?」
と恐る恐る尋ねてみる。親友は苦笑いと、いつも通りの優しい言葉を返してくれた。
「まぁ呆れるけどさ、そんなに離れたくない相手と結婚できるとか、羨ましくもあるよ」
 
わたしは子どもの頃から何も成長していない。
けれど、これからはちゃんと成長したい。ううん、してみせる。
 
もっと大切にしよう、と心の中で強く誓った。
目の前にいてくれる由香里のこと。優しくて大切な親友の時間も。
ケンカばかりの、大っ嫌いで愛おしい旦那のこと。彼と過ごす毎日の結婚生活も。
そして、自分自身で選択することも。自分で決断したかけがえのない人生も。
 
「『神様の言うとおり』で即決できるくらい、簡単に人生の決断ができたらいいのに」なんて、見え透いた嘘だ。
 
こたえは自分自身の中にある。
もう、『神様の言う通り』になんてしない。
 
 
***

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2018-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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