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僕のアイドル「仮想TSU-KA」


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記事:大久保忠尚(ライティングゼミ・平日コース)

 
 
忘れもしない。僕が彼女に出会ったのは今年の初めだった。
「先輩には本当にオススメできますから! 絶対に気に入るはずです。今がチャンスなんですよ!」
そう言いながら会社の後輩は僕に彼女達のことを熱心に勧めてきた。
 
知る人ぞ知るアイドル集団。数年前から地道な活動を続け、昨年末に人気が爆発。今年に入ってもその勢いは止まらず絶好調。彼女達のファンになるならば今しかない、ということだった。
後輩から与えられた情報を元に自分なりに調べてみると、彼女達の年末からの勢いは凄まじかった。まさに右肩上がり。これから彼女達はより一層世間での認知度が上がり、いつか手の届かないところに行ってしまうはず。なるべく早く、今のうちに彼女達のファンになっておけば、日本一のアイドルになった時、いや、いずれ世界進出をした時に、古参のファンとしてメンバーからも慕われ、いつか彼女達から今は想像も出来ないような感謝の気持ちをお礼として与えられるのではないか。
数日後、僕は彼女達のファンクラブに入っていた。後輩から各メンバーについて教えた貰いながら、僕は「ネム」という子を推していくことに決めた。
ファンクラブ入会後も彼女達の人気は止まらない。テレビやSNSで取り上げられることも多くなり、僕も彼女達を応援する気持ちで少しずつグッズなどを購入していく事が増えていった。このままだとあっという間に彼女達の人気は皆が羨むものになるだろう。この段階で彼女達に気付けたことに僕は喜び、後輩と顔を合わせる度に彼女達の話題で持ちきりだった。
そして彼女達の存在が世間に大々的に知られることになるのは、本当にあっという間であった。しかし、それは彼女達の実力ではなく、スキャンダルによるものだった。このままの勢いでどこまでいってしまうのだろうと思っていた勢いは一転。人気は急降下し、ファンもどんどん離れていった。彼女達の世間からのイメージは決して良いものではなく、むしろ得体の知れない不気味な存在として認知される形となった。
 
さて、ここまでアイドルの話をしてきたが、実は僕はアイドルに夢中にはなっていたわけではない。僕が夢中になっていたのは「仮想通貨」だ。
 
一月の初旬に仮想通貨を勧められた僕は、その伸び率や夢に溢れた展開にすぐさま口座を開設した。日々チャートに変動があるが、それは決してマイナスばかりではなく時には大きく跳ね上がり、いち早く入金しろと僕に手招いているようだった。その手招きに導かれ、僕は試しにいくつかの銘柄を購入した。その中の一つが「ネム」だ。するとネムはチャートがアップダウンする中で、タイミングさえ間違えなければ日々小遣い稼ぎが出来るほどの変動を見せた。また一度下がったとしてもその後は以前の価格よりも少し上がっており、長期的に見ていけば確実にプラスになるであろうと予感させた。
しかし、一月中旬。仮想通貨の存在を一躍日本中に知らしめる事件が起きた。そう、ある会社のシステムから多額のネムが盗難にあったのだ。僕はその会社のシステムを利用していた。仮想通貨初心者であった僕はその状況に何も手を打つ事ができず、事の成り行きをただ見守るしかなかった。その結果、僕が購入した通貨達の価値は半分近くまで減少し、今もその状況のままあまり変化をしていない。
 
その後、僕は仮想通貨について色々と調べてみた。「通貨」という名前ではあるが、通貨として使用するものはそこまで多くなく、仮想通貨というシステムを使ってクラウドファウンディングのような形で資産を集めているようなものが多かった。また株と違い、チャートの上下をする要因が掴みにくい。取引の出来る会社が増えたり、大々的にその仮想通貨に進展が見られれば価値は上がるものの、それ以外は各人による売り買いの繰り返しによる価格変動が主なようだった。
 
そこで僕は気が付いた。僕にとってこの仮想通貨はアイドルのようなもの。そして僕は彼女達のファンであり、親衛隊のような状況なのではないか、と。
アイドル成長の道筋は、まずは路上での地道なチラシ配り、その合間に練習をしながら小さなライブハウスでの活動を繰り返し行なっていく。そうしていくうちに少しだけ大きな舞台で踊れるようになる。その様子がある著名人の目に入り、有名アイドルの前座として出演するようになるとそこから徐々に人気が増加。次第には自分達でイベントを開催し、のちにドーム公演、そして全国ツアーへと繋がり、その後はアジアや世界各地での展開に繋がっていくのだ。僕はその様子をアリーナから見つめ続ける。小さなライブハウスではすぐ目の前にいた彼女達は、会場が大きくなるにつれその距離は少しずつ離れ始める。しかし、僕は懸命にペンライトを振り彼女達を応援し続ける。グッズを買い増しし、時にメンバーの脱退などスランプを目にしながらも、デビュー当時に彼女達とライブ終わりに撮影したツーショットチェキだけは必ず胸にしまいながら、ライブの様子を見つめるのだ。
いま僕が保有している仮想通貨は、このツーショットチェキのようなもの。他人からはバカにされているかも知れない。しかし、きっといつか皆が羨む価値へと変貌を遂げるはずだろう。
今の僕は仮想通貨では間違いなく失敗していると見えるだろう。しかし、僕は今のマイナス分は気にしていない。きっとこれはアイドルにとって与えられた試練であり、きっと一年後には笑って話せるような内容になっているはずだと信じている。
僕にとって、仮想通貨は夢に満ちた理想のアイドルなのだ。
 
 
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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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