メディアグランプリ

弟なんだからお兄ちゃんの将来を頼むよ、なんて言うのは、そろそろやめにしませんか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:北古賀昌子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
次男が生まれた時は、もう既に重い障がいを持った長男がいた。長男は知的にも重度で、誰かのサポートなしには生きていけない。それは大人に成長しても続くことだ。たぶん、死ぬまでそうであることも、誰しも想像出来るほどの障害の重さだ。
 
一方で、弟である次男はいわゆる健常者と言われる方だ。小さい頃から兄のことは何とはなしに理解していたように思う。それも頭の中ではなく、肌や一緒にいる空気で感じ取っていたようだった。
二人は仲がよく、実に自然に一緒に過ごしている。兄弟っていいな! と思える場面を何度も見せてくれるし、そんな二人の姿が親にとっての希望になり、癒しになり、支えにもなっている。
 
次男が10才を超えた頃からだろうか。よく周りが同じ言葉を掛けるようになった。
「弟なんだからお兄ちゃんの将来を頼むよ」と。
しかも未だに彼はこの言葉を掛けられている。けれど、これは決して我々親の意に沿う言葉ではない。
「何で周りの人間が、次男の将来を決めてしまわなければならないのか!」
そう抗議すると、大概は、何で? あなた達のためでしょう? という反応が返って来る。
それはたぶん、次男にその言葉を掛ける人達のほとんどが同じ考えなのだろう。
そして先日も言われていたのだ。
「弟なんだからお兄ちゃんの将来を頼むよ」と。
そして、次男は「分ってるよ」と微笑みながら答えていた。
 
すぐ近くに住んでいた叔母から聞いた話がある。次男が3才の時、叔母の家にお使いに行ってもらうことがあった。次男を待っていてくれた叔母は、お駄賃だよと言ってお菓子を差し出してくれたそうだ。
「お兄ちゃんがいると、いつもお菓子を取られてしまうでしょう。今日はここで一人で食べて行きなさい」
そう言って家に招き入れると、次男は嬉しそうに「美味しい」と言いながらお菓子を食べたそうだ。そして食べ終わると、何かを言いたげにモジモジしたので、叔母はどうしたのか聞いてみた。次男は言いにくそうに「もう一個もらってもいい?」と言うので、余程気に入ったのかと持って来ると、次男は「ありがとう」と受け取り「とっても美味しかったから、お兄ちゃんにもあげたい」と、満面の笑みで言ったそうだ。
結局次男は、大きい紙袋にたくさんのお菓子を詰め込んでもらって、それはそれは嬉しそうに帰って来た。その時のことを叔母は「本当に涙が出た。あの子は生まれた時からお兄ちゃんのことをよく理解していて、ちゃんとどうすればいいか分っているんだよ」と話してくれた。
その話は私にとっては嬉しくもあり、切なくもあった。
 
それからも「あの子は生まれた時からお兄ちゃんのことをよく理解していて、ちゃんとどうすればいいか分っているんだよ」という場面は何度もあった。
長男と次男の年は4才差だ。次男はまだ保育園さえ通わない小さい頃から、かなりの身長差があるというのに、誰に言われたわけでもなく兄の手を自分の小さな手で握りしめて歩いた。
家族の行事や冠婚葬祭も、ちゃんと兄弟で出席した。何かの節目の時に行った旅行も、気まぐれなお出掛けも、その度に弟は兄の手を握りしめていた。そして兄を守るように隣を歩いていた。
分っているのだ。自分が周りにどう期待されていて、どうしていかなければならないかを、自分なりに考えているのだ。
それに被される言葉が「弟なんだからお兄ちゃんの将来を頼むよ」なのだ。
家族のためだと言われたこの言葉は、家族にとっては余計なお世話だ。周りが家族の将来を決めてしまう権利も、子供の将来を決めてしまう権利もないはずなのに。
けれど、次男はやっぱりこう答える。「分っているよ」と。
 
そしてそれは、うちの次男に限らず、障害者を兄弟に持った子達の上に被さって来る言葉でもある。
弟さんが障害者だという知人も、彼女は言われた通りに弟の人生を一緒に歩いて来た。弟のために結婚もせず、弟のためにほとんどの時間を費やしている。
他にも、お姉さんの人生を共に生きている人を知っている。ご両親亡き後、お姉さんを養うために働き、お姉さんのために活動し、生活をしている。
彼女達はそれが不幸だったなんて発することをしない。けれど、そこに彼女達のための人生は少しでもあったのだろうか。彼女達の意志は、そこにあったのだろうか。
そしてそう言い聞かせた大人達は、それで正しかったと今も言い切ることが出来るのだろうか。
 
ある時、大人達が重度身障者である子供さんを前にして、この子に妹がいて良かったと話していたことがあった。妹がいるから先々見てもらえる、安心だ……と。
妹さんは生まれながらにして、お姉さんの人生を共に生きる将来を担っていた。けれど私は、お姉さん自信もそれが本望であるとは、やはりどうしても思えないのだ。
 
私はある時から、次男に言い続けるようになった。
「あなたはあなたの道を行きなさい」
そうなることを、そうであることを願いながら。
 
障害者もその兄弟達も、それぞれの人生を尊重されるようになるためには、当事者だけの努力ではどうすることも出来ないことが多い。
だからこそ、彼らの人生をどうか応援して欲しい。彼らにもまた、誰とも変わらない輝く未来があるはずなのだから。
 
 
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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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