メディアグランプリ

「村人B」は主役だ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ナカムラ エリ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
数年前、とあるビジネス系のサークルに入っていた時のこと。
 
当時転職を考えていた私は、社外の人と知り合っていろいろと情報交換できたらいいな、と思い、たまたま誰かのブログかTwitterか何かで見つけたそのサークルに入った。
 
主催していたのが起業家の方だったので、そこは、起業している人やフリーランスといった自営業の人、もしくはそれらを目指している人が多かった。サークルに入ってから会社員をやめて自分で事業を始める人も多くいた。
 
独立志向の人が多かったこともあって、サークルで開催される勉強会では、「人に知られる存在になるためには」というような、社会の中でどのようにして自分という存在を表明して、自己実現をしていくか、というようなお題が多かった。
 
そのサークルはFacebookでグループを作って運営するタイプのもので、月一回のセミナーで面識ができたメンバーと、次々にFacebookで繋がっていった。あっという間に、Facebookの友人の数がそれまでの倍くらいになって、タイムラインはサークルの友人の投稿で埋め尽くされていった。
 
サークルには2年ほどいたけれど、その間に、会社員だった友人たちは起業したりフリーランスになったり、すでに起業していた友人も事業拡大をしていったりと、活躍の幅をどんどん広げていく。
 
私はと言うと、入りたかった会社に無事転職できて、仕事は充実していた。
でも毎日SNSに投稿するようなことが起こる、ニュースに溢れた彼らの日々を、少し羨ましく感じることもあった。
 
やりたいことが見つからない……と悩んでいた友人が、夢を見つけて独立し、頑張っている姿を見て、嬉しい気持ちももちろんあった。だって、私も同じ気持ちだったから。
 
だからこそ、Facebook越しの友人たちの活躍ぶりが余計眩しく見えて、「自分はただの会社員で、何者でもないんだなぁ」と、密かに落ち込んだりしていた。
 
ふと、小学校の学芸会で「村人B」を演じたことを思い出した。
 
くじ引きで選ばれた気がするが、全員が主役をやりたがる中、もちろん私も主役が良かったので、名前もない役にがっかりした。セリフがあったかどうかも記憶にない。
 
今も私は、社会の中では「村人B」のままだな……。
「主役」たちの投稿が溢れる画面に指を滑らせて、ろくに読みもせず「いいね!」を付けながら、そう思った。
 
サークルは2年ほどで辞めて、それから2〜3年は経つが、つい最近まで「何者にも成れない自分」という思いが、なんとなく胸の内に引っかかったままだった。
 
サークルとは関係ない友人と仕事の話をしていた時に、「この先も自分は、名のある『誰か』にはなれないんだろうなぁ、なんて考えることがあって。なんだか情けなくなる。恥ずかしいけど、みんなが羨ましいんだよね」と、本音がぽろりと出た。
 
そうしたら友人は、「本当に? たとえばさ、お父さんとお母さんのこと、情けないとか恥ずかしいって気持ちになる?」と聞いてきた。
 
……はっとして、何も言えなくなった。
その言葉で、脳みその奥の方に押し込んでいた小さい頃の記憶がするすると流れ出てきて、20数年前の浅草の町に、頭の中がトリップしていった。
 
父は、祖父母が興した浅草の靴問屋を、大学卒業後に継いだ。
そして、私が小学生の頃に商売をたたみ、会社勤めをするようになった。
詳しい事情は知らないが、継いだ時からもう事業が立ちゆかなくなることは、わかっていたとか。
 
母は20歳の時に、13歳年上の父と結婚し、私と妹を産んだ。元は専業主婦だったけれど、会社が潰れたのを機に、勤めに出るようになった。
 
当時は幼かったので「会社が潰れる」のがどういうことなのかは、正直よくわからなかった。
以前は休みもなく帰りも遅かった父が、会社勤めを始めてからは早く帰って来るようになって、一緒に晩ご飯が食べられるようになったのが嬉しかった、くらいの記憶しかない。
 
会社の後処理、そして引っ越し。
随分後になってから「あの時は取引先に頭を下げて回ったなぁ」と、父が話していた。
 
幼い子供が二人いる中で商売をたたむのは、どんな思いだったのか。
どれほど大変だったのか、想像もつかない。
 
それでも、悲しいとか、金銭的に不自由な思いをした覚えはない。
旅行に行ったり、お出かけしたり。美味しいものが好きな父母は、よく外食にも連れて行ってくれた。
 
当時の父と母を思い出してみても、辛そうな様子だった記憶はなくて、昔も今も、父と母はいつも底抜けに明るくて、そして仲が良い。(ちょっとした喧嘩は、たまにしているけれど。)
 
社会に出て働き、一人暮らしをするようになり、大した贅沢もしないのに生きるってだけでこんなにお金がかかるのね、と気づくと同時に、両親にはありがたい気持ちが湧く。
化粧を落とす元気もなく、ぐんなりとベッドに沈み込む日には、仕事から帰ってきて疲れているのに、毎日ごはんをつくってくれた母、私や妹と遊んでくれた父……大変だったろうなぁと、ふと考える。
 
父も母も、さっきまでの私の考えに照らせば、「村人B」のような、名前のない端役だ。
Webで名前を検索したとしても、インタビュー記事は出てこないし、雑誌に特集が組まれたりすることはない。
 
でもそれが何だって言うんだろう?
 
いつもはふざけてばかりで天然ボケをかましてくるのに、たまにさらっと良いことを言う父。
口うるさいなぁと思うこともたまにあるけれど、日々を楽しむのが上手で、強くて明るい母。
私は二人のことを、誇りに思っている。
 
子は親を選べないと言うけれど、生まれる前に神様に「誰のとこ行きたい? 選んでいいよ」と聞かれたとしても、きっと今の両親を選ぶと思う。
 
情けないなんて、恥ずかしいなんて。そんなこと思うはずがない。
 
同じように、自分のことも情けなく思う必要なんてない。
有名無名にかかわらず、今いる舞台で、唯一無二の「自分」の役をまっとうすればいいんじゃないか。
 
そんな簡単なことにも気づかないで、自分のことを情けないとか恥ずかしいとか思っていた自分の未熟さが、むしろ恥ずかしい。
 
「村人B」は今、仕事終わりのスターバックスで、パソコンに向かってライティングゼミの課題を執筆している。
 
受講し始めて3週目。人に読んでもらうための文章を書くのは、なんて難しいことなんだろう……書く側になって、改めて感じた。面白いものを書けるようになるには、まだまだ道のりが長そうだ。
 
それでも、書きたいから、書けるようになりたいから、今日も明日もパソコンに向かう。
その先に夢見る未来は、スポットライトを浴びるような華やかなものじゃないけれど、本当に欲しいものが手に入れば、人からの「いいね!」はいらない。
 
ひと段落ついたので、パソコンを閉じて帰り支度を始めよう。
スーパーに寄って帰らないと。今日は寒いから、晩御飯は鍋にでもしようかな。
 
今日も「村人B」は、主役として1日を終えた。
 
 
***

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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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