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スランプは、性格矯正のチャンスだった。


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記事:白樺いつき(ペンネーム)(ライティング・ゼミ ライトコース)
 
「おい!何やってんだよ!」
「それを落としたら、ダメだろうが!」
バスケ部の顧問の先生が、こちらに向かって怒鳴っている。
 
私は、高校生の時にバスケ部に入っていた。中学生で部活に入る事が必須だった時に、先輩から誘われて入り、そのまま高校でも続けていた。どちらかというと文化系の私だが、体を動かす事は得意という程ではないが嫌いではなく、バスケは純粋に楽しかった。
 
そんな時、その瞬間は突然訪れた。敵も味方も周りにいない絶好のタイミングで、私はレイアップシュートへ走りこんだ。レイアップシュートは、漫画「スラムダンク」で主人公の桜木花道が「庶民シュート」と名付けたような地味なシュートで、周りに敵がいない状況であれば、入れて当たり前である。
 
私はそれを外した。いつもなら難なく決めているのに、どうしたのだろうか。
 
それからもそのような場面に遭遇した時に、ぽろぽろとシュートを外し続けた。入れて当たり前のシュートが全然入らない。入れなきゃと思うのに、その思いとは裏腹に私の手から離れたボールは、リングに触れてもネットを通らず、落ちていく。チームメイトから「落ち着いて」と声を掛けてもらうが、練習でも試合でも、簡単なそのシュートが決まらなかった。シュートを外した時、顧問の先生やチームメイトの顔は視野に入るものの、直視できなかった。「すいません」と言って、次のプレーに切り替える。それで精一杯だった。試合に出られていないチームメイトにも、申し訳なく思っていた。
 
自分はいったいどうしちゃったのか? 自分自身に何が起きているのか分からず焦り、落ち込んだ。顧問の先生よりも、チームメイトよりも、自分自身が自分に苛立ち悔しかった。今思えば、おそらくスランプやイップスといった類の物だったのかもしれない。
 
それからも、いつか前と同じようにシュートが入るようになると信じて、練習に励んでいた。そんな矢先、私は大きな怪我をした。膝の半月板損傷と前十字靭帯損傷だ。半月板はジャンプなどの衝撃を分散させるクッションの役割をしていて、膝の曲げ伸ばしにも関わっている。前十字靭帯は、膝の上下、太ももの骨と脛の骨をつなぐ強力な靭帯だ。脛の骨が前に出過ぎないように、また捻った方向に動きすぎないように保つ役割をしている。それらを損傷した結果、普通に歩いているだけで、がくっと膝が崩れるようになり、手術に踏み切った。
 
怪我をした後、チームの士気を下げてはいけないといつも通りに振る舞っているつもりだったが、モチベーションはどん底だった。今までできていた事ができなくなった事と、この怪我である。今まではバスケに夢中になっていて、今後もバスケに関わっていくのであろうと何の疑いもなく思っていた。だけど、今までやってきた事は何だったのだ。無駄だったのだろうか。一寸先は闇だった。
 
その頃の私は大した実力もないのに、慢心があったのであろう。できない事は、努力が足りないから。できるようになった事は、その後もできる。適性の有無と言っても、ある程度努力すれば誰でもできるようになるのではないかと、偏った考え方、とても狭い視野で、物事を見ていた。無自覚のうちに、周りの人に対して失礼な事を言った事もあったかもしれない。後から知った事だが、怪我をした時の私はチームに迷惑をかけないように平静を装っているつもりだったが、それは強がっていると見られていたようだ。
 
それから私は変わったのだと思う。今、振り返ってみると、これで良かったのかもしれない。あの時に改心しなければ、社会に出てからも、周りの人に不快な思いをさせ迷惑をかけてしまっていたかもしれない。それこそ、靭帯損傷どころではなく、複雑骨折くらいの大ダメージを周りにも自分にも与えたのではないかと想像すると、とても恐ろしい。
 
「穏やかな性格だよね」
そう言われるようになったのは、いつからだろうか。
 
穏やかとは、三省堂 大辞林にはこのように書かれている。
1、静かで平穏無事なさま。やすらか。2、落ち着いていておとなしいさま。3、やり方や考え方などが穏当であるさま。
 
もともと読書など1人で時間を過ごす事が好きだったので、静かでおとなしい人と見られがちだった。ただ、考え方が穏当ではなかったと思う。部活に明け暮れていたあの時は。そうだ。30代になった私のこの性格は、10代後半のあの部活の経験で矯正されたものなのだ。
 
あの経験で、自分を明らめ視野を広げる事ができた。ただ闇雲に努力すれば良い物ではなく、時には頑張っても上手くいかない事もあるという事に気が付いた。できないという経験をした事で、他の人にできない事や至らない事があったとしても許容できるようになった。だって、自分もそうだから。
 
スランプは、私に立ち止まる時間をくれた。このままで良いのか、と。もしかしたら、その時に自分の実力に見切りをつけてバスケ部を退部していたら、怪我をせずに済んだのかもしれない。そもそも私の身体はバスケのようなコンタクトスポーツには向いていなかったと思う。それでも、何年か楽しむ事ができたのだから、感謝すべきだろう。
 
私は自分に自信がある訳ではないけれど、嫌いではない。
私はこの性格で、明日も生きていく。
 
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2018-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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