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メディアグランプリ

僕が物語を書き始めるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:渡邊法行(ライティング・ゼミライトコース)
 
「明日から何でも好きな仕事が出来ますよ! なんて言われたら、どんな仕事がしたい?」
友人が突然、そんな事を聞いてきた。
「小説家かな」
「おー!」
僕が即答したからだろうか、友人はそんな反応をして見せた。
 
10年間勤めた会社を辞め、次の仕事を探していた僕は、予想以上に行き詰っていた。そんな僕を見た友人が、「気分転換にお茶でも飲もう」と誘ってくれたのだった。
この友人とは、長い付き合いになる。いつも楽しい事を言って笑わせてくれる、いい奴だ。
さっきの質問も、例えば、幼稚園ぐらいの子供たちに聞いてみたら、きっと夢があって楽しい答えが聞けるだろう。
転職活動に行き詰った僕に聞かれても……、と一瞬思ったが、落ち込んだ気分を変えるための友人らしい思いつきであることに気付く。
 
自分で答えておいて、急に照れくさくなってしまった僕は、
「小説家なんて、無邪気な答えだなって思われるよね。きっと」と、慌てて付け加えた。
 
そもそも、今まで小説らしきものを書いたことがない。小説家になりたい、というのなら誰に見せるわけでなくとも、短編小説の1本や2本、書いていても良さそうなものだ。
でも僕の場合、中学校の国語の授業で「ショートストーリーを書いてみよう」というのがあって、そこで書いたものが先生に褒められた、というのが人生の最高到達点だった。
 
「無邪気? 何で?」
「だって僕は『小説家』にただひたすら憧れているだけで、たぶん小説なんて書けるわけがないんだから」
 
これまでの読書体験の中で、物語が終わりに近づいてくるにつれ、「この本を読み終わってしまったら、もう登場人物たちに会えなくなるのか……」と寂しくなり、読み進めるのをためらってしまうことが、よくあった。
また、登場人物が語った何気ない言葉に圧倒されて、涙が止まらなくなったこともある。
そういう体験をするたび、「こんな感動の物語を生み出すことなど自分には到底出来ないし、所詮憧れるだけだ」と、思ってきたのだ。
 
「物語を書くというのは、心の引き出しにしまってある風景を取り出してきて、言葉に変換していく作業だと思うんだよね。きっと小説家の心の引き出しには、沢山の風景がストックしてあって、だから、いくつもの物語を生み出すことが出来るんじゃないかな」
「うん。それはそうかもな」
「でも、僕の心の引き出しには、ストックがあまり無いような気がする。ごく普通の平凡な人生を送ってきたんだから」
「それはどうかなあ。普通で平凡な人生だったとしても、その人生を歩いてきた時間の分だけ、お前にしか見えない風景を見てきたはずだろ。で、その風景の事を語れるのは、やっぱりお前しかいないじゃないか」
 
友人の言葉に、僕の心が少し動いた気がした。
 
「で? 次は?」
「え?」
「小説なんか書けないって、そう思う根拠は他にもあるのか?」
 
どうやら、友人のスイッチが入ったらしい。僕が答えるのを待ち構えている。
 
「今まで短編小説すら書いたことがないよ」
「じゃあ、今から書けばいいじゃないか」
「まあ、そうなんだけど。ああ、それにほら、小説家が書くような文章っていうのかな、あんな心を打つような文章、書けるわけがないって」
何だか、友人を説得するような口調になってしまう。
 
「今はもっぱらLINEだけど、以前はお互いによくメールしただろ? 俺、お前がメールで書いてた文章、凄くいいなと思ってたよ。メールと小説は違うかもしれないけど。でも、テクニックとは別の何かが、あるんじゃないかな。お前はそれを持ってるかもしれないよ」
 
友人はそう言うと、少し懐かしむような表情で続けた。
「もう何年も前のことだけど。俺が仕事で大失敗してボロボロだった時、お前がくれたメール。あれ、ほんとに感動したよ」
 
そう言えば、そんなことがあった。友人が珍しく弱気なことばかり言うものだから、心配になって、元気を取り戻すまで何通かのメールを送ったのだった。
 
「たくさんの人の心を動かすことが大変なのは、俺にだって分かる。でも、たくさんの人って言っても、結局一人の人間の集まりだろ?
でさ、お前の書いた文章に感動した奴が、ここに一人いるんだよ。一人の心が動いたんだったら、何人もの心が動いたって不思議じゃないよな? そう思わないか?」
 
友人は以前から、「ブログでも何でもいいから、少しずつ何か書いてみたらどうだ?」と、言っていた。
小説を書いてみたい。そんな事、一度も言ったことは無かったが、友人はずっと前から僕のそんな思いを感じとっていたのかもしれない。
 
あの最初の質問。友人には初めから僕の答えが分かっていたんだな。きっと。
僕は心の中の引き出しを、そっと覗いてみた。
そこには、僕なりの言葉に変換できそうな風景が、いくつか並んでいた。
よし。何か書いてみよう。
 
また何か思いついたらしい。友人はうれしそうな表情になって、
「まあ、いきなり小説を書くっていうのも荷が重いだろうからさ。とりあえず俺に向けて何か書いてみるっていうのはどうだ?」
「そうだね。どんなのがいい?」
「転職活動に行き詰った友人を救う男の話。どうだ?」
「何だよ、それ。全くひねりが効いてないよ!」
 
不満そうな僕を見て、友人は楽しそうに笑っている。つられて僕も笑い出した。
 
***

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2018-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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