メディアグランプリ

最終面接に現れたDJ・事業部長 


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記事:小俣雄風太(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
いつも通る駅の改札前が、中古レコードの販売会場になっていたことがある。足を止めた人たちはパタパタとレコードを前に繰り出しながらテンポよくジャケットを確認しているようだった。生まれてこの方レコードで音楽をかけたことがない身としては、そうした振る舞いは村上春樹のエッセイでしか見たことがなかった。せっかくなのでよくわからないけどとりあえず隣の人にならってパタパタとやってみた。数十枚に一枚、知っている昭和歌謡のジャケットが現れるのが楽しかった。
 
思い切って都会へ出るべく転職活動を決意し、初めて受けた面接中に、この場面を思い出したのだった。
 
新卒で入った信州の小さな会社で5年働いたのち、都会の会社へ転職することにした。田舎の会社は10人もいない規模だったから、全国に支社を持ち社員数6,000人という大きな会社とのギャップには驚かされた。その中でも印象的だったのは、入社面接だった。
 
最初に面接をしてくれたのは「人事部」の男性だった。大きな会社には、社員を採用することが仕事の人がいるということは聞いていたが、面接は1回限り、それもいきなり社長面接だった前職の小さな会社とは違うことをこの時点で知ったのだった。自分よりも年端のいかない、爽やかなイケメン人事担当の履歴書をめくる慣れた手つきに、いろんな仕事のプロがいるものだと感心したことを覚えている。それは僕に、レコード売り場でパタパタパタと古レコードをリズミカルにめくっていく人々を思わせた。その時の僕は、前に倒されていく中古レコードの一枚で、ジャケットは特に冴えたデザインでもないのだった。
 
イケメンによる第1面接の結果は、その日の夕方にすぐにメールでやってきた。合格だった。ジャケットは冴えないデザインでも、ジャンル的には必要とされたようだ。僕が志望する職種は比較的に専門職だったから。合格を告げる報にホッとしたのもつかの間、簡潔なおめでとうございますに続くのは第2面接の日程調整の依頼だった。
 
学生時代にまともに就職活動をしなかった僕にとって、何回も面接を受ける経験は初めてで、「大きい会社はスゴイなぁ〜」と思うのと同時に、世の中の就職活動を経て入社してきた人々のタフさを尊敬したのだった。何十枚もエントリーシートを書き、何社もの面接試験に臨んでいた同級生がたくさんいたけれど、みんなこんなにも形式的な応答と、選別される苦しみを乗り越えてきたのかと気が遠くなった。でもまぁ、僕たちはいつだって形式的な応答をしてきたし、選別されながら成長してきたのだった。
 
修学旅行の班分けや部活のレギュラー、合コン、婚活パーティ、いつだって主体的に選ぶよりは受け身で選ばれる側だった。そして受け身で選ばれることよりはそもそも選ばれないことの方が多い人生だったから、今回の面接でとりあえず第一段階でも選ばれたことが嬉しかった。
 
それから1週間後、田舎から特急電車を乗り継いで再び本社ビルへとやってきた。また中古レコードの気持ちになる時だ。第2面接は実際に一緒に働く部署の人たちによって行われるということで、より緊張度も高く臨む。現れたのは初老の男性と、40代の男女2名。一番偉そうな初老の男性による、あまりデリカシーのない質問の後に、男女2名による仕事に対しての細かい質問が続く。この2人は丁寧に、ジャケットの中のレコードがどんな音がするかを想像するように、時間をかけて話をしてくれた。この人たちが必要とする音楽の一要素になりたいと、その時思ったのだった。
 
それから2日ほどして届いたメールには合格の文字があった。そしてやはり、次の面接の日程調整についての案内も。大きい会社が3回も面接をすることにクラクラしつつも、着慣れないスーツを一度クリーニングに出したのだった。さぁいよいよ最終面接、再び特急電車で上京する。こんな大都会で仕事をすることになるんだろうかと半ば信じられない気持ちを抱えつつ。
 
最終面接は、社長ではなく事業部長と呼ばれる人との1対1だった。大きい会社だと社長も忙しいのだろう。そしてこの事業部長と呼ばれる人は若く、快活で、魅力的な話し方をする人だった。茶髪で日焼けして、アクセサリーまでつけた出で立ちはDJのようですらあった。チャラいという言い方もできるのだろうけど、それにしては真摯にこちらの意思を汲んだ上で、どんな仕事をしてほしいかを熱く語ってくれた。冴えないジャケットの中のレコードが、どんな音を鳴らすか分かってくれているようだった。そして、どう鳴らすべきなのかも。
 
レコードには希少で、プレミア価値のつくものもある。人材市場も同じことだろう。僕はまったくプレミア価格のレコードではないけれど、数あるレコードの中から僕という1枚を探し当ててくれたこの会社で、プレミアムな音を鳴らすことが恩返しになると思う。さぁ、どんな音色を奏でようか。
 
 
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2018-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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