メディアグランプリ

現代のスーパーヒーローとは、努力の人だ


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記事:高之瀬暁子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
小学生の息子には、お気に入りのスーパーヒーローというものがいない。学校で、「ぼくのスーパーヒーロー」をお題にスピーチをしなくてはならないそうで、どうしようと困り果てていた息子は、小さい頃から怖い話が苦手で、戦隊ものはもちろん、ウルトラマンやハリウッド映画のスーパーヒーローにも、興味を示さない子どもだった。
もちろん周りで戦隊ものが好きな子はいる。しかし、親世代の私たちの時代に比べると、戦隊ものの“常識度”は格段に下がっていて、視聴率でいうと、30年ほど前は最高視聴率が15パーセントはあったものが、最近では5パーセント程度になっているらしい。
 
その原因は、いろいろあるのだろうが、一つには人々がスーパーヒーローに憧れるという心のあり方そのものが、減っているのではないかと思う。
 
スーパーヒーロー的な人を目にして、何を感じるか。……他人事、だ。世界のどこか遠いところで、知らない人に起こっている、自分には関係のない事件と解決。かつてのスーパーヒーローだって、もちろん他人事には違いなかった。でも、心理的な距離は、もっと近かったように思う。努力すれば、近づけるような、少なくとも積極的で好意的な関心があった。
 
それがなぜ薄れて来たのだろうか。
 
一つには、もともと恵まれた能力を持つスーパーヒーローに、自分を重ねにくくなってきているのではないかと思う。現代は、努力すれば、豊かな暮らしが出来た時代ではない。頑張っても大した昇給がなく、うっかり働き過ぎると、つらいワーキングプアになってしまう。皆、努力が大切なことは分かっていて、そして、日々努力はしている。でも、一人寝る前に思う。この努力は、僕や私の幸せに本当につながっているのだろうか?
そんな課題を持つ私たちは、だから努力で獲得したわけではない能力を持つスーパーヒーローを他人事に思ってしまう。お金持ちにも、秀才や美人にも、それなりに苦労はあるだろう。でもそれは僕や私に今、ここにある課題ではない。スーパーヒーローから、私たちの課題を解決するヒントが得られるとは思えない、私たちと同じつらさや苦しみをともに持つ者としての共感をすることができないのだ。
 
そして、現代にもヒーローはいる。現代で愛されるヒーローには、努力がある。素晴らしい実績を上げてはいるのだが、お父さんがすごいうちに生まれたからとか、たいして練習もせずに、とかではない。幼い頃から、人並み外れて練習し、頭角を現してからも謙虚に研究を続ける。ときには心ないファンやマスコミからの中傷にさらされ、ケガやスランプにも悩まされる。そうした苦労や涙の中に、私たちは、自分を見る。僕や私の努力は、現代のヒーローのようには、必ずしも実を結ばないかもしれないが、私たちの思いを、現代のヒーローの中に見出すことが出来る。そして初めて、彼らの成功を、わがことのように喜ぶことが出来るのだ。
 
だからヒーローは、あらかじめすごい人である必要は全然なくて、むしろすごくない方が成功とのギャップが大きくて、望ましい。不動産業界でも、実家が地主だったり士業やサラリーマンとして高給だったりする大家よりも、銀行に評価されない低属性の人で、不動産業を成功させている大家のほうが、えらい、すごいともてはやされる。
 
一方で生まれつき恵まれた境遇の人たちは、初めから安泰が約束されているわけではない。彼らには、しばしば嫉妬が向けられる。適切な行動、しかるべき努力がなければ、日ごろの妬みと相まって、より風当たりは強くなる。彼らもまた、支持されるためには、努力が必要だ。恵まれていない人から見ても、敵わないと思うくらい頑張っていれば、人はやがてついてくる。
 
つまり、出自や能力はどうあれ、現代ではヒーローたるには、努力が不可欠なのだろう。
スーパーマンがあの体型を維持するには、週3日以上のトレーニングが不可欠だろうが、スーパーマンがトレッドミルで走り、ベンチプレスで喘ぐシーンは、決して描かれなかった。そういう一般人がするような努力は、むしろ過去のスーパーヒーローにはふさわしくない。
 
件のスピーチは、息子は将棋棋士の羽生善治さんをテーマに書いていた。実在しない悪の組織と戦う喧嘩の強い人よりも、誰でも参加できる戦場で、才能と努力によって圧倒的に勝ち続ける人こそが、現代のヒーロー像なのだろうと思う。
 
 
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2018-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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