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メディアグランプリ

丑三つ時のできごと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:よめぞう(ライティング・ゼミ 特講)

 
 
深夜、2時を過ぎた頃だった。
 
ギャアアアアアア!!
 
え? ちょっと、どうしたん?
らしくない、らしくないぞ。今になってどうしたんだ?
 
2歳になる私の娘は、これまで「夜泣き」をしたことがなかった。娘しか育てたことがないけれど、少なくとも「手がかからない」方だというのは間違いなかった。こちらの言葉を理解するのも比較的早い上に、意思表示をはっきり示してくれるので、ある程度「言えば伝わる」もんだと思っていた。けれども、今日は……今夜は何かが違う。
 
抱っこをしても、ダメ。
飲み物を見せても、違うと叫ばれる。
オムツ替えは、全力拒否。
 
何だろう? 何がいけないんだろう?
今まで「夜泣きの対処」をまともにやることがなかったツケが、今になったのし掛かってきたみたいだ。まるで何かに取り憑かれたように、叫び狂う小さな怪獣を目の前に、私は何もなす術がなかった。こちらの動揺を察したのか、泣き叫ぶ声は更に大きさを増していった。泣くのは子供だから、百歩譲って仕方ない。だけど、どうして泣いているのか理由が欲しい。どうして、どうして……
焦る気持ちを抑えることができずに、せめて「泣いている原因」だけが欲しくて、泣き叫ぶ娘を抱えリビングへ向かった。ダイニングテーブルの上に、緑色の保育園日誌を見つけた。暴れる怪獣を置いて、日誌のページを乱暴にめくった。「今日は元気にお友達と遊んでいました」としか書かれていない。確かに、お迎えに行った時も特に変な様子はなかった。拾い食いもしないから……まさか、寝る前に飲ませた牛乳か? 賞味期限きれてなかったか? 嫌な予感が的中して欲しくない気持ちと、何でもいいから「夜泣きの原因」が欲しい気持ちが私の中でごちゃ混ぜになっていた。私は、恐る恐る冷蔵庫の扉に手をかけた。ガチャッと扉を開けると、ドアポケットに牛乳は姿勢良く立っていた。
 
「あ……賞味期限、明日までやったか」
 
良かった、食あたりじゃなかったんだ……
ただ、そうなると「なんで」こんなに泣いてるの?
 
相変わらず、泣き叫ぶ姿は怪獣そのものだ。抱っこしようものなら、ジタバタとその手を振りほどいてくる。抱っこもさせてもらえないなら、もう私にどうして欲しいんだよ。頼むから、頼むから泣き止んでくれ。寝なくてもいいから泣き止んでくれ。明日も仕事あるし、もうそろそろ寝ようよ。なんで泣いているの? どうしたら泣くのを辞めてくれるの? どうして、どうして……!
考えれば考えるほど、自分が追い詰められていくのが良くわかった。暗い部屋で、泣き叫ぶ子供と二人。助けは誰もいない。やれるだけのことは全てやったと思う。それなのに、泣き止むどころか叫び声は時間とともにパワーアップしている。
パニックになりながら、ふと「夜泣き」が酷いと嘆いていたママ友のことを思い出した。今、こうして「夜泣き」に直面しているけれど本当にすごい。これが毎晩、しかも数時間おき? しかも、朝は普通に7時ごろに起きて日常生活を送っているだなんて……信じられない! 私は、仕事のおかげで日中「子育て」とは離れた環境にいられるからまだ良い。仕事でストレス発散できているし、仕事を通じて色んな人と話すことができるから。けれども、友達は朝から晩まで子供と一日中向き合っている。夜中、夜泣きで寝られないのに日中も目を離せば何をするか分からない小さい怪獣を相手に家庭の平和を守っている。ウルトラマンでも3分しか持たないのに……すごいよ。1日だよ、24時間だもん。私も同じ母親なのに、たった一回の「夜泣き」でこんなに弱気になるのはまだ早いんじゃないか? こうなったら、とことん「夜泣き」に付き合ってやろうじゃないか。
もう一度、タオルケットで包みながらジタバタする怪獣を抱きかかえた。
「イヤだ! あっち、あっちいく!」
 
「ん? あっちいくの?」
 
やっと、娘が言葉を発した。娘が指差す方向には、壁掛けの時計があった。1時間ごとに、小さな穴から白いハトが出てきて「ポッポー!」となるやつだ。
 
「時計を見たいの? ポッポー見にいく?」
 
娘は、ピタリと泣き止んだ。そして、ウンウンと頷いて「あっちいく」と小声で呟いた。私たちは深夜の寒いリビングで、小さな壁掛けの時計を眺めていた。もうすぐ、3時だ。「はとー、みる。あれ、みる」と連呼する娘を抱っこしたまま、ユラユラ揺れながら3時がくるのを待った。ジー、とモーターが動く音がした。きた! 3時だ。白いハトがゆっくり時計の中から顔を出した。そして、深夜にも関わらずいつも通りに「ポッポー」と3回鳴いて、モーター音とともに時計の中へと帰って行った。娘は、何も言わず、ただその一部始終を見届けただけだった。部屋にはまた静寂が訪れた。
 
「お布団、行こっか? ハトさんも寝たしさ」
 
「おふとん、いく。ねんねする」
 
良かった……やっと布団に帰れる。私たちは、旦那が待つベッドへと向かった。娘を旦那と私の間にそっと置いた。
 
「ん? ああ、ごめん、ごめんね……」
 
私たちの気配を感じたのか、旦那が寝言で謝っている。
「大丈夫、謝ることないよ。日頃、十分すぎるくらい頑張ってもらっているから助かっているよ」と心の中で呟いた。まだ何か言っている様だったけど、ムニャムニャと、なんて言っているのかよく分からなかった。寝ぼけた旦那が、隣に転がっている娘をトントンと叩いていると、あっという間に娘は寝てしまった。さっきまでの暴君はどこに行ったんだ。目の前にいたはずの怪獣は、天使のような穏やかな寝顔で、寝息を立てている。さっきまでの地獄のような時間はなんだったんだろう。暗い部屋で、ひとり狐につままれたみたいな気分になった。もう、そんなことどうだっていい。やっと、ゆっくり寝られるんだ。明日、と言っても数時間後には仕事が待っている。とりあえず、寝よう。
iPhoneのアラームをセットして、私は布団に入った。ただ、当たり前に寝られることが、こんなにも幸せなことなんだ。と改めて痛感した。暖かい布団に包まれながら、ようやく目を閉じた。全身の力がフッと抜けていくのがわかった。
 
ああ、寝られるって幸せ……
 
この1時間後にまた「夜泣き」で起こされるとも知らずに、私は眠りについた。
 
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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