メディアグランプリ

借金が200万を越え、ついに風俗に面接に行ったときの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村雪絵(チーム天狼院)

私の人生、だいたいお金がない。
とくに20代の頃はひどかった。
演劇をやっていたからである。
母親は「演劇がアンタをダメにした」とよく泣いていた。
しかし私はそんな年老いた母に向かって
「働いている暇なんかない! とにかく作品をつくらないといけないんだ!」
と啖呵をきり、全く働かずにハイペースで作品を作り続けた。

しかし何の成果も出せないまま借金だけが増えていき、
それでも私は一向に働かず、演劇だけをやり続けた。

2年後、借金は200万を越えた。
「あ、そろそろやばいな」
と思ったときにはもうすでに手遅れで、毎月の返済は10万円になっていた。

これはもうダメだ。絶対に払えない。
毎日の督促の電話に耐えかねた私はさすがに働く気になった。
しかし毎月の返済は10万円。そんな金額を返していくのなんて、普通の仕事ではどうにもならない。
いや、できるのだろうが、演劇ができなくなってしまう。
なるべく働かずうまいこと稼ぎたい。

そこで私が思いついたのは『風俗』という仕事だった。

もちろん抵抗はあった。しかし作品を作れなくなるほうが嫌だ。
容姿にはあまり自信がないし、ちょっと太っているけれど、まぁ若さでなんとかなるだろう。とにかく現状をなんとかしなければいけない。
この状況をしのぐにはもう風俗しかない。やるしかないのだ。

私はデリバリーヘルスの面接を受けることにした。
その事務所は、家から自転車で20分程度の普通のマンションだった。

ピンポーン。

インターホンを鳴らす。

「どうぞー、ドア開いてるんでー」

中から男の声がした。
うわー。ついに私は、この世界に足を踏み入れるのか……。
ドアノブを回す手に力が入る。

「あ、どうもー。よろしくおねがいしまーす」

ドアの向こうにいたのは、ごく普通の男だった。

「とりあえずお掛けいただいて、アンケート書いてもらっていいですかね?」

彼はそう言って、私をソファーに案内した。
あれ? まるで普通の会社みたいだ。
なんだ、いきなり脱げとか言われるかと思ったのに。
案外普通じゃん。
私は少し拍子抜けした。

しかしアンケートってなんだろう。

「答えられるところまででいいんで、なるべくうめてもらっていいですかね?」

彼は愛想よくそう言った。

「あ、はーい」

つられて私も愛想よく返事をする。
そしてアンケート用紙に目をやると

希望する源氏名、
スリーサイズ、
年齢、

など風俗っぽいことが書かれていた。
うーん、これはどこまで真実を書くべきなのか。

さらに進んでいくと、

経験者か未経験か、
好きなお客様のタイプ、
どういうプレイが好きか、
どこまでOKか、

と、どんどん具体的になっていく。
どうしよう。いや、どうしようなんて言っている時間はない。
私はどんどんアンケートをうめていく。

ここで働くことになったら、1日3万円ももらえるんだ。
10日で30万。20日働いたら60万にもなる。
今までできなかったことができる。買えなかったものが買える。
だったらもう、ずっとここで働きたいかも。
ずっと演劇のために我慢してきたことだって、できるかもしれない。

「で、いつから来られますか?」

まだ書き終わってもないのに男が話しかけてきた。

「い、いやあ、えっと、明日からでも」

私はもごもごと答える。

「わかりました。じゃあもう写真撮っちゃいましょう」
「は? 写真ですか? というか合格ですか? 私」
「はい。え? どこまで大丈夫ですか? なるべく顔出したほうがお客さん付きやすいと思うんですけど」
「いや! ちょっと待って下さい!」

覚悟していたはずなのだが、私は戸惑った。
何を戸惑うことがある。
1日3万円も稼げる仕事なんて、なかなかない。
しかも雇ってくれると言っている。
この男の気が変わらないうちに写真を撮ったほうがいいに決まっている。
でも、でも……。
私は正体不明の感情に押しつぶされそうだった。

「ちょっとー、無理に今日決めなくてもいいんじゃない?」

すると、奥から柔らかい声がした。
ぱっと振り返ると、黒髪の小柄な女性が立っていた。

ブランドもののワンピースを着ているのだが、首周りがヨレている。
柔らかい笑顔がとても可愛いのだが、どことなく雑な垢抜けない感じの人だった。

どことなく似たものを感じた。
姿形が似ているわけではないのだが、なんだろう。
通じ合うものを感じてしまった。
年齢は20代後半から30代くらいだろうか。

「なんか珍しいタイプの人が面接に来たね。普通の人久しぶりに見た」

彼女はそう言うと、ソファーの横のパソコンでソリティアをし始めた。

「前、なにやってたの?」
「じ、事務職です」

演劇をやっているなんて、言えなかった。

「そっかー、私もデリヘルやる前は事務だったよ。正社員」
「え? じゃあなんでここに?」
「えー、なんでだったかな。忘れちゃった。あなたはなんでここに?」

思わず、ぎくりとする。

「えっと、お金が」
「そっかー。なんでお金なくなっちゃったの?」
「それはあの、ちょっとやりたいことがあって」
「私もあったなー、でも忘れちゃった」

そう言って彼女はまたソリティアを始めた。頬杖をついて、つまらなそうに。

恐ろしくなった。

いや、デリヘルで働いていても、しっかりやりたいことをやっている人はいるだろう。
でも、私はこの目の前の女性のようになってしまいそうだ。
直感的にそう思った。
彼女が悪いというわけではない。
でも、10年後とかに

「私もあったなー、でも忘れちゃった」

なんて言うのは絶対に嫌だ。

ここで働くことができれば、しばらく経済的には安泰だ。
しかし、夢も何もかも忘れてしまうのではないか……。

「あの」

私は、男に声をかけた。

「やっぱりやめます、帰ります」
「え? お金は大丈夫なんですか?」

もちろんお金はほしいけれど、
私の場合はここにいると今よりももっと大変なことになる。

「大丈夫ではないですが、他の方法を探します」

私は逃げるように、その事務所をあとにした。
そしてその後1年間、劇団を休止し、2年ぶりにバイトもして生活を少しずつ立て直した。

あの女性に出会わなければ、恐らく私はデリヘルで働いていただろう。
あの人は、あの時点での、未来の私だった。

***

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2018-03-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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