メディアグランプリ

二十歳の君とラストダンスを


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:大久保忠尚(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
「遅いよ」
彼女は少し困ったような顔で笑った。
 
雨が降ってきた。
池袋から少し歩いた薄暗い公園で、僕は今さっき告白をした。隣には墓地があり、決して雰囲気が良いとは言えない公園で。
 
 
20代に入って初めての告白だった。
相手は、大学に入学して初めてのアルバイト先で出会った一つ年上の女の子だった。
 
僕は一浪、彼女は医学部を目指して二浪していたため学年は同じだったが、バイト先で働き始めたのは僕の方が少しだけ早かった。
 
「年上なのに後輩」という初めての関係性。
高校までは経験したことの無い関係に不思議な魅力を感じ、僕は少しずつ彼女に惹きつけられていった。一方彼女にとっては、年下のくせに先輩という関係が気に入らなかったのか、気付けば先輩後輩の関係は自然と消えており、僕らは同級生として仲良くなっていった。
 
アルバイト中も、飲み会でも、僕たちは特に仲が良かったと思う。ただ二人で遊んだことは無かった。遊びに行く時もバイトのメンバー数人で集まっていた。
 
もっと彼女との距離を縮めたい。
僕は二人で遊びに行きたいと告げ、彼女もそれに全く抵抗はない様子で簡単に約束は決まった。そして約束が決まると、僕はその日に告白をしようと決めた。
 
七月に入ってすぐの平日。昼過ぎに池袋駅で待ち合わせをした。
夜のバイト中にしか会うことがなかった彼女と、昼間に二人だけで会っている。いつもとは違う彼女が目の前にいる。僕の心臓はいつもよりも間違いなく早く動いていた。
 
ある映画のシーンに出てきたケーキ屋に行く約束だった。男一人で行くのも気がひけるから、という言い訳を使い、彼女も疑うことなく誘いに乗ってくれた。
初めての二人きりの時間に、僕は何を話せばいいか分からない。これから乗る電車や経路を確認するふりをして僕が少しずつこの時間に慣れようとしていると彼女は言った。
 
「君にしか言えないことがあるんだ」
 
僕に「しか」言えない。
それだけ、自分は彼女にとって特別な存在なのだと思い、少し嬉しくなった。
しかし、その嬉しさはすぐに消えた。
 
「先週から付き合うことになった。ちょっと無理矢理だったけど」
 
何を言っているかよく分からなかった。どうやらバイト先の社員と付き合うことになったらしい。彼女がその社員に言い寄られていたことは知っていたが、それを彼女はあまり好ましく思っていないようで、その都度僕は愚痴られていた。だから大丈夫だと、そう思っていた。
 
「あんまり気乗りしないけど、とりあえず付き合ってすぐに別れれば諦めるかなって。だから他の人には言うつもり無い。でも君にだけは言っておこうかなって思った」
 
この時、僕がどんな顔をしていたかは自分では分からない。ただ頭が真っ白というのか、目の前が滲んで見えるのは涙が浮かんでいるからなのか、世界がぼやけた状態だった。その後のことはあまり覚えていないが、僕達は目的のケーキ屋に行き、ケーキを食べ、気付けば池袋駅へと戻っていた。
 
このままここで別れれば、今まで通りバイト先でも、飲み会でも仲の良い関係のまま過ごせるかもしれない。彼女と僕は特別な秘密を共有している。それだけで十分かもしれなかった。
 
しかし、僕は伝えることしか考えていなかった。
彼女にもう少しだけ付き合って欲しいと言い、駅から歩き出し、ある公園を目指した。
 
僕が浪人の時に通っていた予備校は池袋にあり、すぐそばには古い公園があった。隣には墓地があり、木々に囲まれ薄暗く決して綺麗とは言えない公園だった。しかし、昼間は子供が遊び、浪人時代は一人でよくこの公園で弁当を食べていた。
 
二人で話せる場所としてすぐに思い浮かんだのがなぜかこの公園だった。彼女としてはなぜこんな場所に連れてこられたか、きっと意味がわからなかっただろう。
しかし、その時の僕にはこの選択肢しか見つけられなかった。
 
彼女をベンチに座らせ、今日の出来事を少しだけ話してみる。
 
ケーキ屋が駅から遠かったこと。
たくさん歩いて汗をかいたこと。
ケーキの見た目が美しく、美味しかったこと。
偶然見つけた七夕の短冊がハート形だったこと。
本当は楽しいはずの出来事が、全て寂しいものになっていた。
 
そして僕は言った。
 
「本当は、今日告白しようと思ってた」
 
彼女は驚いた顔をしたあと、少し間を開けて僕に伝えた。
 
「遅いよ」
 
少し困ったような笑顔で、いつもの泣きそうな声でそう伝えると、僕の肩を軽く叩いた。
 
ありがとう、と彼女が言った気がする。
僕が何も言えないままいると、雨が降り始めた。
彼女は僕の手をとり、行こうか、と駅へと歩き始めた。
二人で手を繋いで歩いたのは、この時が最後だった。
 
結局、その後も僕らは今まで通りの関係を築いていたが、僕はバイトを辞め、その後彼女もバイトを辞めてから、連絡は少なくなっていった。
 
お互いに就職をすると、連絡もほとんどしなくなった。
彼女は女性には珍しい職業に就き、そのルックスもあって度々メディアに取り上げられていたようだ。そんな彼女の様子を僕は間接的に知りながら、いつまでも彼女の存在が僕の中でずっと次のページへ動かせない栞のようになっていた。
 
それが二十代の初めのことだ。
 
僕は今月、三十歳になった。
 
気付けば、あの薄暗かった公園も改装され今は明るく開けた公園になった。
そして、その公園の近くで僕は月に二回、ある講座を受講し始めた。
自分の人生を、三十代をより良い物語にするために。
 
 
年を重ねることは自らの物語を綴っていくことだ。
その中で、苦しいことも悲しいことも必ずあり、それに捉われてしまうこともあるだろう。しかし、ずっと動かすことの出来なかった栞もいつかは明るい色味を帯びて、次のページへ自分を導いてくれるはずだ。
 
池袋で始まった僕の二十代というページは終わり、新たな三十代というページがいま池袋から始まった。
 
少しでも早く、この講座で成長できればと思う。
今度は彼女に「遅いよ」と言われないように。
 
 
***

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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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