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私には3歳の師匠がいる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ特講)

 
 
目の前で、一心不乱に遊ぶ女の子を見て羨ましくなるなんて、そんな日が来るとは思いもしなかった。
 
今日は一日中、3歳の友人の子どもと遊んでいた。
 
かくれんぼをして、お医者さんごっこをして、トラック遊びをする。
どの遊びも同じことの繰り返しだ。
同じように動物のぬいぐるみに薬をあげる。薬をあげたら動物は回復する。回復したと思ったら、また他のぬいぐるみが具合の悪さを訴える。
足が痛い、頭が痛い。またお薬をあげる。
その繰り返し。
なのに、彼女は何度も目を輝かせて、お薬を処方する。
嬉しそうにぬいぐるみに処方する。
 
遊ぶのに夢中で、夜も寝たくないという。
とてつもなく眠そうに目をこすりながら、それでもまだ起きているという。
まだ、遊びたい。
もっと遊びたい。
 
この情熱を私はいつ失ってしまったんだろう。
あの集中力があれば、もっと書くのもどんどん上達するに違いない。
あの熱心さで勉強すれば新しい言語もすぐにマスター出来そうだ。
羨ましい。
 
よく自己啓発本を読んでいると、出てくるフレーズを思い出す。
3歳児のように、熱中しなさい。
そうだな、何かに対して好きだと思う気持ちってとても素敵だし、大事だし、そんな気持ちで夢中になって取り組むことが出来たなら、きっと何事も成し遂げられるだろうな。
そんなフレーズに出会う度に思っていた。
まぁ、私も3歳児だったし、集中力は結構ある方だし、熱中するときはするし、うん、私は大丈夫だ。
何となく、そう思っていた。
 
でも、実際の3歳児にお会いしてみると、すごすぎて度肝を抜かされた。
 
私、全然大丈夫じゃないや。
こんな風に真っすぐ、一途に遊べないや。
これまで、熱中と呼んでいた状態は全然熱中じゃなかったな。
なんか悔しい。
 
この情熱を私も3歳の頃は持っていたはずなのに。
大人になると、色々なことを考えるようになるから、そう簡単に目の前のことに一生懸命になれないとはよく言われる。
だからもしかしたら、熱中する力が減っているのは、ちゃんと大人になれている証拠なのかもしれない。
だけど、持っていたはずのものを失うなんて、何だが悲しいじゃないか。
それも気が付かないうちに。
 
どうしたら、こんな状態の自分を取り戻せるんだろう。
これは、もう師匠に学ぶしかない。
人間、傍にいる人の影響を多大に受けるものだから、一緒にいたら、もしかしたらこの情熱が、私にも移ってくれるかもしれない。
パワーをくれ。
よし、私も全てを忘れて遊んでみようと、修行に臨んでみた。
集中して、師匠と遊ぶことにしたのだ。
 
お医者さんごっこは懐かしい。
私も昔、聴診器をぬいぐるみに当てたものだ。
そして、一人でぶつぶつ診察をした。
私が持っていたのは、確かカバン型のお医者さんセットで、何故かサングラスをかけて、ぬいぐるみの心臓の音を聞いていた。
でも、たぶんあの頃は心臓の音を聞くために聴診器があるとまでは理解できていなかったから、あの機械を当てたら、元気がどうか判断できるのだと思っていた。
そんなことを考えていることに気が付いて、ふと我に返る。
しまった、昔を懐かしく思い出している場合ではなかった。
私は、熱中する方法を学ぼうと、師匠と修行に臨んでいるのに。
私が、過去に思いを馳せていた間に、具合が悪くなって師匠の治療を受けた動物のぬいぐるみは、5匹になっていた。
 
師匠は、真剣にうさちゃんに塗り薬を塗っている。
流石だ。ぶれることがない。
 
私も、うさちゃんがただただ良くなることを願うお医者さんの助手になるよう努めた。
 
でも、やっぱり師匠のようには集中出来ない。
 
たぶん、彼女はきっとあんまり先の事とか昔の事とか考えないんだろうな。
一緒に遊びながら思う。
 
そっか、私は「今」に全然集中せずに生活しているんだな、と気づく。
 
何かをしていても、ああそういえば明日は、あの書類を出さなきゃだった、とか。
あ、あの人にこの連絡入れるの忘れてたな、とか。あのイベントへの参加表明しなきゃとか、化粧品のセールはいつまでだったっけ、セール期間に買わないともったいないから、確認しとかなきゃとか、気が付くとそんなことばかり考えている。
こないだ食べた、あのピザ美味しかったな、あの飲み会は楽しかったな。
そういえば、あの人、こないだあんなこと言ってたけど、機嫌悪かったのかな。
あ、今度の旅行のホテルをまだ取ってなかった。こないだの宿泊先はいまいちだったから違うとこにしよう。
こないだ作ったコロッケは、不評だったから、中身の具を変えようかな。
 
気が付くと、全然今とは関係のないことが頭を通り過ぎていっているのだ。
それで、人から「私の話、ちゃんと聞いてた?」と、苦笑いされる。
 
目の前の事に集中せず、至極どうでも良いことを、延々と考え続けているだけの毎日なのだ。
もしかしたら、最近の疲労感の正体はこれかもしれない。
本当にどうでも良いようなことが頭の中に大量に流れていて、それを考え続けることにてんやわんやしている。
 
中々難しいけれど、下手な事を考えるのは、辞めて今を大事にしよう。
まずは、出来るだけ関係のない事を考え始めたら、自分で自分にストップをかけよう。そこからだ。
 
そこまで考えてから、ふと見ると、師匠は、すでにトラックに人形を乗せて運ぶ遊びに熱中しているところだった。
しまった、また違うことを考えていた。
 
今度師匠にお会いする時は、もっと今に集中して、もっとしっかり遊べるようになっときますから、どうぞ宜しくね。
 
私、そろそろ帰るね、と伝えると、途端に泣き出した師匠にそう心の中で伝えた。
 
 
***

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2018-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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