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メディアグランプリ

おばちゃん中学生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村雪絵(チーム天狼院)

「うわーめっちゃデブやん無理ー」
「えー、あの子と同じチームじゃ勝てないじゃん。やだな」

これは実際、私が小学生のときに言われたセリフである。
運動音痴で太っていて顔が地味な私は周囲にそう思われていた。なんなら自分でも自分自身に対してそう思っていた。

しかし特段何かを変えてみようなんて思わず、そのまま中学に進学した。
だから中学生になっても、私は冴えないままだった。

しかし自分と周りが大人になっていって、おしゃべりできる友達は少しずつ増えていった。
みんな少しずつ社会性が身について、差別的なことは言わなくなる。

だけど本音のところでは、みんな私としゃべりたくないんだろうな。
義務感とか、道徳心とか、そんなので話してくれているんだろうな。
小学校のときより生きやすいけど、 なんかしんどいな。
私はずっとこんな風に気を遣われながら生きていくのかな。
だけど仕方がないな。
とりあえず話しかけられたらニコニコして、
当たり障りのないことを言っていればいい。そうしよう。

そんな風に思っていた。

……のだが。

「ねえ、良かったら一緒にやらない?」

忘れもしない。
中学一年生になりたての、五月二十日のことだった。
朝、教室の掃除をしていると、とびきり可愛い女の子に声をかけられたのである。
私はめちゃくちゃ驚いた。
そんな冴えてる子に話しかけられたことなんてなかったからだ。

「あのさ、良かったら演劇部に入らない?」

耳を疑った。
どんな小さい声の悪口も聞き取れる地獄耳の私なのに、思わず聞き返す。

「私が演劇部?」
「うん。なんとなく向いてそうな気がするから」

私は彼女のその一言で、演劇部に入ることに決めた。

しかし演劇部にいるのは可愛い女の子ばかりだった。
死にたくなった。
なんで向いてるなんて思ったんだよ! と叫びたくもなったが、
もう入ったのだから仕方がない。

それから毎日、
イケてるグループの皆さまと校庭を走ったり、筋トレしたり、脚本を読んだり、
くだらない話をする生活に変わった。
集団の中に属せたのは、これが初めてのことだった。
休みの日にもみんなでゲームセンターやカラオケに行った。
そんな普通のことが、信じられないくらい嬉しかった。
みんなに追いつきたくて、お母さんに可愛い服を買ってもらったりもした。

えっと、あれ? 私、イケてるんじゃ……。

だんだんとそんな風に思えてきた。

……しかしそれは残念ながら勘違いだった。

「はい、役決めしまーす、やりたい役をとりあえずみんな教えて」

顧問の先生がホワイトボードに配役を書いていく。
役決め。
そうだ、ここは演劇部。
その日、夏休みに行われる大会の、配役決めが行われた。

私はわくわくしていた。
みんなもそわそわしている。
そうだ、いよいよ、大好きなみんなと舞台をつくるんだ。

初めての舞台。胸が高鳴る。
どうしよう。
主人公はちょっとしんどいけど、主人公の親友だったらいけるかもしれない。
私は、勇気を出して、手を上げた。

「はい、中村さん」
「えっと、あの、私はこの主人公の親友の女の子が……」

しかし、そこで私を演劇部に入れてくれた女の子がすかさず、

「中村さんは隣のおばちゃんの役、合ってそうだね」

そう言った。
とてもショックだった。

「あ、たしかにー」
「似合うかも」
「貫禄あるし」
「いいね、中村さんはどう思う?」

みんなも同調する。
私はしばらく何も言えなかった。でも、

「うん、私もそう思ってた。おばちゃんの役やりたいです!」

私は泣きそうになるのをこらえながら、そう言った。

私、中学生なのにおばちゃんって。

そうか、そうだ。

こういう役を演る人がいないから演劇部に誘われたんだ。
私がイケてたわけじゃなくて、この需要だったんだ。

悲しかった。恥ずかしかった。
みんなと同じようにおしゃれで、かわいくて、イケてるんじゃなかったんだ。
それはそうだ。当たり前だ。

でも、不思議と、やめたいとは思わなかった。

ふつふつと、自分の中で初めての感情が湧き上がってきたのだ。

私、絶対に負けたくない。

それからというものの、ありとあらゆるおばちゃんを観察した。
声のトーン、仕草、姿勢、表情。
データをノートにまとめて「平均的なおばちゃん」を探った。

おばちゃんの登場は1シーンのみで、
主人公の家にお菓子を持ってくるだけだ。

でも、どのようにでもやりようはあるんじゃないか。

どんなお菓子を持ってくるのか。
そのお菓子は風呂敷に包んでくるのか、紙袋なのか、はたまた箱のままなのか。
隣に住んでいるけれど、上着は来てくるのか。
合わせ稽古で試しながら、また家で考えて、また試して、の繰り返し。

「中村さん、なんでそんなに練習するの?」

みんなは半ば呆れてそう言った。
私にもわからなかった。
ただ、やればやるほど役が自分のものになっていく感覚が面白かった。
普通に生きていれば言わないようなセリフが、少しずつ馴染んでくる。

「そうなのよ。旦那がさぁ、そんな殊勝なこと言うもんだからさぁ……」

こんなセリフ、中学生は絶対に言わないだろう。
でも、この時の私には自然なセリフだった。

そしてここまで稽古したら、本番も全く怖くなかった。

私は、出番が1ページしかない、ストーリーにも全然からまないおばちゃんの役を
全身全霊で演じた。

主役とか、可愛いとか、イケてるとか、ブスとか、出番多いとか、少ないとか、舞台の上では関係ない。

その役を創って、その役を生きる。

これ、めちゃくちゃ面白いじゃないか。

「あのおばちゃん役の人すごかったね。よそから役者さん呼んできたの? ってPTAの皆さんから聞かれたよ、中村さん」

顧問の先生からこんな言葉も聞けた。
うれしかったが、同時にほっとした。
よかった、私ちゃんとおばちゃんだったんだ。

この日から、私はずっと演劇をやっている。
ずっと、揺るがない自分の場所に、居る。

***

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2018-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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