メディアグランプリ

こんな人達には、1000冊のSF小説を読ませたい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西部直樹(ライティング・ゼミ特講)

 
 
少し早めに仕事を終えた。
わたしはかなり疲れていた。約5時間話し続けていたのだ。講師をつとめるセミナーのある日はこんなものだ。
十年前は、このあとさらにひと仕事出来るくらいの気力と体力があったはずなのに、やれやれ歳かな。
電車は夕方のラッシュ前だ。チラホラ立つ人がいるくらいの混みようだった。
できれば座りたい。
優先席を見ると若者が、元気そうな若者が我が物顔に座っているではないか。
白髪のくたびれたおじさんを見て、心ある若者なら席をゆずるに違いないと思った。
優先席の前に立ち、いかにも疲れ、フラフラの体を装う
この疲れ果てた初老の男性を見ても,座っている若者は、携帯をいじり続けるだけである。ちらりと私の方を見ると、スッと目を逸らし、俯くのである。
なんてことだ。日本の公徳心はどこに行ったのだ。長幼の序はどうなったんだ。
結局、わたしが降りる駅まで座ることはできなかった。
 
また、電車の中でのことだ。
乗り込んだ電車は比較的空いていた。立っている人は少ない。
目的地までは少し遠い。できれば座りたいなあ、と思っていた。
車内を見渡すと、一つの席が空いている。私のところからは少し離れている。
入ってきた人は、空席を見つけるが、座ることができない。
スーツの男性が空席の前に、席に近い位置で立っているから。
隙間がなくて、座り込めないのだ。
40歳くらいだろうか、紺のスーツを着て涼しい顔で立っている。
わたしは鍛えているので、座らないのです。と全身で語っているようだ。
座らないのはいい、しかし、邪魔はしないで欲しい。
そのマッチョを気取るビジネスマン氏よ、どこかへ行ってくれと祈り続けているうちに目的地に着いてしまった。
 
ある講座で、わたしが講師を務めたときのことだ。
会場はちょっと狭く、二人掛けのテーブルが2列あった。テーブルの一方を壁につけている。二つのテーブルの真ん中が通路だ。このような会場の場合、通路から奥の方の席から座っていかないと行けない。通路側から座ってしまうと、奥の人が入りづらいからだ。
会場の前の方で、受講者達が入ってくるのをみていた。
講師から遠い席につく人、通路側の席につく人が多い。
後から来た人は、ウロウロとして、通路から奥の席にやっとつくという感じだった。
「前の方から、通路より奥の席からお座り下さい」とアナウンスをしても、通路側から座っていく。
わたしはやれやれと思いながら、講座をはじめるのだった。
 
席を譲らない、空席の前に立つ、奥から詰めないで座る、そのようなことをする人達には、是非、SF小説を1000冊くらい読んで欲しいと思う。
 
なぜSF小説なのか、それはSFが想像力のいる読み物だからだ。文字から100万光年先の宇宙を想い描き、見たこともない異星人のことを思いやり、まだ触れたこともない道具に扱い、学校では習わない法則や概念を読み解いていくのだ。
これほど、想像する力が必要なことはない。
例えば、SFの御三家といわれるロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」などは、見知らぬ星での異星人達との戦いを描いている。のちのモビルスーツとかの原型になった物語だ。
あるはアイザック・アシモフの「銀河帝国の興亡」はどうだろう。銀河系に広がる宇宙帝国の数万年にわたる興亡史である。壮大な物語なのだ。
アーサー・c・クラークの描く「幼年期の終わり」は、人類が神と再会する物語。神と再会というのはどういうことか、そもそも神とか対極の悪魔とは何か、それは……。という物語である。
 
日本の御三家、星新一氏の「おーい、でてこーい」はどうだろうか。わずか数ページのショート・ショートだけれど、最後のひと言に背筋が凍り付く。
あるいは小松左京氏の「果てしなき流れの果てに」はどうだろう。永遠に砂が落ち続ける砂時計には何十億年に及ぶ壮大な戦いが……、という話だ。読むだけで頭が膨張するような気がする。
筒井康隆氏の初期の短篇「東海道戦争」は、日本が東西に分断され戦争を続けるというお話だ。
 
これらSFは、想像力の極北に連れて行ってくれる。
人の想像力が鍛えられるといってもいい。
ただ、一冊や二冊では、鍛えられない。
腹筋も一日や二日やっただけでは、お腹は割れないのと同様に、数をこなすことが重要だ。
本を読んで想像力を鍛えるのなら、SFに限らなくてはいいのでは、という意見もあるだろう。
本を読むこと、とくに小説を読むには想像力が必要だ。
ミステリでも文学でもいいのだけれど、想像力をしっかりと鍛えるには、負荷が大きい方がいいのだ。
 
想像力を鍛えるとどうなるのかというと、
優先席にのうのうと座り続けなくなる。
空席の前に不用に立たなくなる。
席は、あとから来る人のことを考えて、奥から詰める。
そのようになるのである。
 
SFは「もしも~~」と考えて、想像力を広げて書かれた物語だ。
もしも、という思考が身につけば、他者を思いやることもできるだろうと思うのだ。
 
「もしも、この優先席に座り続けたら、疲れた初老の男性はどうなるのだろう。さらに疲れ果ててしまうかもしれない。では、若いわたしが席を立とう」
と考えられるだろう。
 
「もしも、わたしがこのように空席の前に立ち続けていたら、この空席に座ろうとする人の邪魔になるだろう。ならば、他に移ろう。どうぞ、ここ座れますよ」と声をかることもできるだろう。
 
「もしも、通路側から座ったら、あとから来る人は大変だ。奥から座ることにしよう」と席を移るだろう。
 
想像力が弱いと、他者を思いやることもできないのだ。
だから、想像力を鍛えるSF小説を読まなくてはいけないのだ。
 
と、今日も疲れたわたしは、空席を求め電車の中を彷徨うのである。
SF読んで、想像力を十分に鍛えた人がいることを願いながら。
 
 
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2018-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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