メディアグランプリ

2位をねらえ!


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記事:ノリ(ライティング・ゼミ特講)

 
 
「わ、なんだろうこれ?」
講義の移動だったろうか。それとも、学食へとサボりにいったんだろうか。
ある日、大学内を歩いていると、掲示板にあるこんなお知らせが目についた。
 
「アートコンペ 作品募集中!」
 
テーマに沿ったアート作品を応募するという、私の通う芸術大学では、決して珍しいお知らせではなかった。しかし、私はその張り紙に釘付けになった。
 
「グランプリ 1点 賞金5万円 副賞:協力企業のショーウィンドウでの展示権」
「優秀賞 2点 賞金1万円 副賞:ひとめぼれ10kg」
「特別賞 3点 賞金5000円 副賞:記念品」
「ほか、各賞あり」
 
「展示権かあ、やってみよっかな!」
隣で張り紙をのぞいていた玲ちゃんがそう言った。
「わあ、いいなあ」
一緒にいた水樹ものってきている。
グランプリをとれば、応募作品以外でも、一定期間企業のショーウィンドウを開放してくれるのだという。
玲も、水樹も食いついたように、普段から作品を作ってはどこかで発表している芸大生にとって、展示の権利というのは、グランプリにふさわしい副賞なのだった。
「そこじゃないから!」
けれど、私が心惹かれたのはそこではなかった。
 
さっそく主催する教授の部屋に行くと、私はこう宣言してみせた。
「先生、私、絶対、優秀賞狙いでいきます! 米、もらってみせます!」
「おもしろいね〜」
「それ以外だったら賞、いりません!」
「まあまあ。とりあえずここに学部と名前書いて」
申し込みを済ませ、必要な材料をもらって帰った。
 
私は決して貧乏学生ではなかった。
最低限だが、親から仕送りはもらっていたし、アルバイトもしていて、家賃や光熱費、食費以外にも、自由になるお金も少しは残るはずなのに、私には「計画」というものがなく、なぜか毎月、カツカツの生活を送っていた。
 
そんな私の生活の生命線は、なんといっても「米」だった。
もともとパンよりも米派の私は、一人暮らしをしていて、料理はすることはなくとも、米は必ず炊いていた。
 
納豆に梅干し、漬物にみそ汁。そういった米に合う食材が好きだったこともある。しかし、おかずがいくらなくても、米さえあれば私は生きられた。米は私の命そのものだった。
 
その命を、自分の作品で手に入れること。そこに私はものすごく大きな魅力を感じて、どうしてもどうしてもやり遂げたかった。
 
「なに作ろうかな、迷うね」
「うん、私もアイデアはあるんだけど、まだ形にできてない」
学食で一緒にコンペに申し込んだ水樹と悩んでいた。
 
「2位を狙う!」
とは、言ったものの、狙って2位を獲ることは、とても難しいものだった。
抜群のアイデアで抜きん出てしまったら、グランプリになってしまう。とはいえ、そこそこにとどまれば、特別賞。そのほかの各賞に選ばれても、私はちっともうれしくない。そのコンペは、大学でも初めて開催されるもので、前年の作品を参考にすることもできなかった。
 
米がもらえないのなら、応募までの数週間をすべて無駄にすることになる。
 
冷静に考えれば、グランプリをとって、賞金の5万円で米を存分に買えばいい。特別賞でも、5000円あれば米は買える。
 
けれどそうじゃない。賞品としての米しか、私には見えていなかった。
自分の作品で米を獲得すること、自分の作品で、文字通り飯を食うこと。私はそこにこだわった。
 
そしてさんざん悩んだ私は、少しだけ斬新なアイデアで、少しだけ壮大な作品を仕上げた。締め切り前日は徹夜だった。
 
コンペの作品が一堂に展示され、賞が発表される日となった。
大学の裏にある、展示会場になっているホールへ向かった。
 
自分の作品に近づくと、名前と作品名の書いてあるキャプションに銀色のシールが貼ってあった。
 
「優秀賞」
 
「やったー!」
ホール全体に響き渡る声で私は叫んだ。
隣にいたグランプリを取った二人組の男子が、不思議そうな顔をして私を見ていた。
 
「先生! やりました! お米、お米ください!!」
「やあ、やっぱり君だったね」
教授からから手渡された副賞、ひとめぼれ10kgは、私の胸に、ずっしりと重かった。
 
「重みを感じて帰りなよ」
「えー! 乗せてくれないの?」
いつもだったら、車をもっている玲ちゃんに乗せてもらうところだけれど、私の一部始終を見ていた玲ちゃんは、あえて自転車で帰れという。
 
仕方ないので自転車の前かごに無理やり米をつっこみ、大学から一人暮らしのアパートまでを帰った。
米の重さでハンドルが取られてふらふらしながら、車にぶつかりそうになりながら、やっと家に帰った。アパートに着くと、部屋のある3階まで担いで階段をのぼった。息が切れた。何の修行か。でも、玲ちゃんの言う通りだった。
大変さが、うれしかった。
しかし、苦労して手に入れたお米は、3ヶ月を待たずして、すべて私の体となった。
 
作品はというと、協力企業が参考作品にすると、展示が終わってすぐに撤去されてしまった。そして、後々気がついたが、米に気をとられ、私は作品の写真を撮るのをすっかり忘れていたのだ。
トロフィーだとか、盾だとかもない、小さなコンペだった。賞金の1万円は、次の冬を越すための石油ストーブに消えた。
 
私は今、10kgどころか、一俵の米を自分のお金で買うことはできる。
あの時の「ひとめぼれ」以上に、おいしい銘柄の米だって、いくらでも知っている。
 
けれど、狙って勝ち取った10kgの米の重さは、ずっと自分の真ん中に存在している。
それから20年以上たっても、「ものをつくる」現場から離れられないのは、そのせいであるかもしれない。
 
 
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2018-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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