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お父さんへ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:北古賀昌子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
お父さん、なんで死んだん? 
周りはみんな、91才やけん大往生やったねって言うとよ。でもね、あと4日で退院って日に倒れて、退院予定日の前日に逝ってしもうて、なんか知らんけどあっという間過ぎて、もう何て言うたらいいとか分らんようになってしもた。
 
お父さんが、自分が死んだ時のために手順書残しとったの見つけて、兄ちゃんがそこに書いてある通りに密葬にしたいって言うたとよ。でも葬儀社の人から密葬は一年間ダラダラお参りに人が来るから、普通に葬儀をした方が遺族は疲れなくて済むからって言われて、兄ちゃん、悩んだ末に普通に執り行うことにしたんよ。お父さんの意に添わんかったかも知れんけど、兄ちゃんを責めんどってね。
兄ちゃんはずっと東京で何年も帰って来れんかったし、お父さんは高齢で仲間達はみんな死んじゃってて、きっと葬儀に来る人は少ないやろうて言いよったんよ。でもびっくりしたけど、斎場に入りきれんほど人が来てくれたんよ。
お父さん、正義の人やったって、人のためにどんなことにも立ち向かったって言ってもらったんよ。
小さい子も来てくれて、お母さんが「可愛がってくれたから」って泣いてくれたんよ。
和尚さんまでお経をあげながら泣いたんよ。
有り難かったよ、嬉しかったよ、誇らしかったよ!
 
昨日の初七日は、そっちで見ててどうだった? 田舎やから、ここのしきたりを近所の人に聞いて、ばたばた用意して何とか終わらせたよ。田舎の初七日はご近所さんをもてなす行事なんやね。みんなが嵐のように去った後、姉ちゃんと兄ちゃんと三人でしばらく放心状態になったよ。兄弟三人でずっとお礼ばっかり言いよって、お坊さんのお経の間以外は、お父さんのこと忘れるくらい立ち働いた。お父さんも、ずっと見ててくれたんよね。
 
仕切りやのおばさんとかもいて、勝手にお花捨てられたり、勝手に色々仏壇の飾りいじられて、あれはこうしなさい、これはこうしなさいって言って来たけど、私、途中で気付いて「おばちゃん、宗派どこ?」って聞いたら真言宗やて。うち、真宗やから違うよ! て教えてやったよ。それに姉ちゃんがグッジョブしてくれたもんね(笑)
ただね、おばちゃんがお父さんの遺骨少し横にずらして、隣にお饅頭をドドーンと供えて「お父さん好きやったけんね」って言った時にゃ笑ったよ。お父さんよりもお饅頭を拝むんやな〜って、兄弟で笑ったよ。ちょっと笑いくれたから、それで良しかなって。
 
まだまだすることいっぱいで、まだ実感がわかんよ。でも少しずつあの最期に向かう壮絶やった数日間をね、人に聞かれて話すことが増えてね、そしたら、何でお父さんは死んだんやろう……て思うようになったとよ。
退院するの楽しみにしとったよね。帰りたい、帰りたいばっかり言いよったよね。夜中の4時に病院から呼び出されたあの日は、あと4日で退院やったのに、駆けつけたら姉ちゃんが手足擦りよって「熱が42度もあるとよ」って泣きそうに言うた。呼吸器付けられて、呼吸の音が嵐みたいで、ベッドから落ちてたらしくて体中が傷だらけになって、口の中も血だらけで、何で? 何でこんなんなったと??? って、姉ちゃんとずっと体擦りよった。
 
高熱で何度も何度も痙攣が来て、体が自由にならんのに力振り絞って「もういいから、お前は帰れ」って息を吐きながら言うたのは、障害持った子どもを放ったらかして、ここには居なくていいって言いたかったんよね。お父さんらしかよ。
お父さん、何でも我慢強かったもんね。本当は熱はずっとあったんやろ? でも、退院したかったから、言わんかったんやろ? だって、その前もそうやったもんね。元気って嘘付いて病院から帰って来て、結局翌日高熱で再入院やったやん。やけど、前のはここまで酷くなかった。何で今回はこんなん酷い状態なのに黙っとったん。ここ、病院やって忘れとったん?
 
でもね、解るよ。お母さんやろ? 足の手術の時も、病院の先生が止めるのも聞かんと退院して来たもんね。お母さん一人にしとけん! って帰って来たもんね。お母さんが心配やったんよね。
もしかしたら、お母さんはもうすぐお父さんのこと忘れてしまうかも知れん。私達のことだって同じなんよ。それでも、お父さんはお母さんの所に帰ろうとしたんよね。お母さんのこと、一番知っとるから、自分が側におらないかんて思ったんやろ? 
最期の時にお母さんをショートスティから連れて来て、お母さんの泣きよる顔を側に寄って見せた時、お父さん、安堵した顔したもんね。
 
最後の最期まで意識あって、みんなが集まったからきっと、自分の最期は理解もしとったはずやね。
いっぱい解熱剤入れてもろて、熱が下がった時、しんみり送りたくなかったから、私がお父さんの耳の側でいっぱいバカ話ししたね。猫のサチが、お父さんの布団を手でモミモミならして待っとるよとか、冷蔵庫の上から下りられんようになるとか、ほとんどサチの話。でも、その時呼吸器付けてて話せんかったけど、笑いながらうんうんってうなずいてくれたよね。
本当は呼吸器外してやりたかった。でも、呼吸が止まるからどうしても出来んかった。
本当にごめんね。
 
その後、ゆっくり心臓が止まってしもた。でも、あの痙攣が続いた2日間を一緒に寝ずに過ごしたから「もういい」って思った。
もう高熱も出んし、痙攣も起きんし、苦しくないから……もうそれでよか……って思った。
 
ひとつだけね、お願いがあるっちゃん。
一回だけ化けて出て来てよ。姉ちゃんがね、もっと早く退院させてやればよかった、迎えに行ってやればよかったって自分を責めよるんよ。やけん、姉ちゃんに「大丈夫」って言うてやってよ。
お母さんはね、ちゃんと私達が側におるから大丈夫。安心してね。
ただ、お母さんがそっちに行く時はね、道が分らんようになっとるかも知れんから、迎えに来てやってね。
 
またずっとずっと先のいつの日か、またバカ話し聞いてね。
遺言通り泣かないで頑張るよ。
 
ありがとう……。
お父さん。
 
***

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2018-03-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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