プロフェッショナル・ゼミ

25年前の見世物小屋と映画『グレイテスト・ショーマン』《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:青木文子(プロフェッショナル・ゼミ)

「見世物小屋ってみたことあるか?」
大学のゼミの先生が唐突にそう聴いてきた。

見世物小屋というとあなたは何を思い浮かべるだろうか? 私の頭の中には、時代がかったおどろおどろしいイメージが浮かぶ。実際に見たことはない。でも時代小説や映画からのイメージだけでそんな気持ちになったのだった。

「見世物小屋ですか? 本物の見世物小屋なんて見たことないですよ」
そう答えると、先生は言った。
「よし、じゃあ、観に行こう」
「えっ? まだ見世物小屋なんてあるんですか?」
「おう、あるぞ。日本で最後の一軒の見世物小屋だ。秩父の夜祭にくるから観に行くか」

あれば大学3年の冬。12月の3日。昔は全国にあったという見世物小屋の最後の1軒の見世物小屋。それが毎年秩父の夜祭に興行にくるという。その年の12月3日は確か平日だった。大学のゼミの会話から、その秩父の夜祭へ希望者で見世物小屋を観に行くことになったのだった。見世物小屋ってなんだろう? そんな?マークを抱えながら、いつもの好奇心だけで数週間後、私は秩父に向かう電車に揺られていた。

先生と待ち合わせたのは秩父神社の境内の現地。ゼミの仲間たちはあとから来るらしい。神社の境内にはついたのが昼ごろだった。秩父の夜祭は夜が本番だが、境内はもう祭りの雰囲気でいっぱいだった。軒をならべて幾つもの露天が何十にも並んでいる。その間を歩く人たちの足取りは非日常を楽しむようにどことなくウキウキとしているように見える。たいやき屋、たこ焼き屋、林檎飴屋。どこでもよく見る露天の店が並ぶ向こうにひときわ大きな布の小屋が2つ立っていた。それを指さして先生が言った。

「あれがお化け屋敷と見世物小屋だ」

ツギハギの布でできた小屋だった。おそるおそる近づくと、その布の小屋には歴史がかった手書きの看板が掲げられていた。お化け屋敷には一つ目小僧やろくろ首の絵。見世物小屋の看板には、蛇女の絵、牛女の絵、小人プロレスの絵がおどろおどろしく描かれている。どうやら、このお化け屋敷と見世物小屋は同じ興行主がやっているようだった。

見世物小屋の入り口には一人のおばちゃんが座っていた。そのおばちゃんは人が通ると声を張り上げて、こう口上を述べるのだ。
「さあ、世にも不思議な見世物小屋、親の因果が子に報い、持って生まれた牛女、さあさあさあ入って入って、間もなく始まるよ、お代はみてのお帰りだよ~」

その口上を聴いて、一瞬自分はどこにいるのだろうと思った。一瞬、江戸時代の街角にタイムスリップしたようなそんな気持ちがする。それは、自分が生きる上で持っているものさしや感覚やそういうものをいきなりあやふやにされるような感覚だった。
見ていると、見世物小屋に入っていこうとする人はすくない。昼の日差しの中で遠巻きにながめているばかりだ。どう見てもその口上は人を寄せるどころか、人を遠ざけているみたいだ。遠巻きに見ている人に混じって、私もまっすぐテントに入ることができず、ちょっと近づいたり、また遠ざかったりしていた。自分がためらっているのか、それとも怖がっているのかそれもわからない。別にただの見世物小屋だし、きっと作り物だし、と心につぶやいてみても、なんだか得体のしれなさの中へ踏み込むいような気持ちになる。あの布のテント入り口は、中に入ってしまったら、もう戻ってこられないような異界の扉かもしれない。

突然肩を叩かれた。振り返ってみるとゼミの先生だ。
「おい、これを見に来たんだから。行くぞ」
先生はスタスタとその見世物小屋の中に入っていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
慌てて私もあとを追ってそのテントの中に入った。

テントの中は薄暗かった。行く列かの椅子が並んでいた。もう演目は始まっていたその途中のようだった。眼の前には舞台があった。その舞台はおそらく木の箱をならべてあるのだろうか。舞台を歩く人の音がやけに響いていた。
舞台袖に進行役だろうか、一人のおばちゃんがいた。このおばちゃんの声かけにつられて舞台は進んでいく。

「はい~次は蛇女だよ~」
そこで私が何を見たのか。生で蛇を食べる女性、小人症の人たちのプロレス、関節が障害で逆についている女性、そういう人たちの舞台。笑いをとるような舞台でも、笑って良いのか、怖がって良いのかもわからない。自分の顔の筋肉がぎくしゃくとしてくるのがよく分かる。

テントから出てると、まだ日は高く、あたりは明るかった。先程となにも変わらない祭りの露天が並んだ風景。でもテントに入る前と、出てきた今とでなにか歩いている地平をひっくり返されたような、そんな感覚だった。今までもっていたものさしを手放さざるを得ないと言えばいいだろうか。テントに入ることを躊躇していた私の無意識はきっとそのことを知っていたのではないかと思った。
地平をひっくり返されたような気持ちになったのは、障害を見世物にしていることでも、血がしたたる蛇のおどろおどろしさでもなかった。その見世物小屋の舞台に立った人たちの、自分たちが見世物であることになんの躊躇もない立ち方。あっけらかんとした明るさをみたことだった。

見世物小屋を出た後のことだ。夜、宿泊先の民宿で、見世物小屋をみてどんな気持ちになったかをゼミの先生に話した。こんな気持になったことはない、あの人たちのエネルギーの源はなんなのだろう、と。
先生はしばらく黙って聴いていたが、ふとこういった。
「生きる深さ、の違いじゃないのかな」
生きる深さってなんだろうか。私の生きる深さはどのくらいなのだろうか。その深さは人の生き方をどう変えるのだろうか。

この見世物小屋の人達の生き方を知りたい。もっと話を聴きたい。私は先生に卒論で見世物小屋をフィールドワークで調査したい、と話した。
「それはダメだ」
それまで見世物小屋の話をしていた雰囲気と打って変わって、先生は厳しい表情になった。
「もし、お前が研究者になって生涯かけて見世物小屋を研究したい、携わりたい、というなら考えても良い。でも卒論程度でほんの1年半ばかりで関わってはいけない」
「それはどうしてだかわかるだろう?」
私はそれまでの高揚していた気持ちが水をかけられたようにシュンとなった。先生が何を言おうとしていたのかがわかったからだった。見世物小屋の人たちに相対するには、私が覚悟も生きる深さも全く足りないということを先生は言おうとしていた。
そんな25年前の見世物小屋の出来事を思い出したのはある映画だった。映画『グレイテスト・ショーマン』。その映画を観に行くことにしたのは、つい数週間前、仕事である大失敗をしたことがきっかけだった。その失敗はリカバリーできたものの、そんな日の午後はなにも手に付かない。あれをやろう、これをやろうと思ってもぼんやりPCを眺めながらただ時間が過ぎていくばかりだ。私は早々に仕事を切り上げて映画を見に行くことにしのだった。
映画『グレイテスト・ショーマン』は実在の興行師P・T・バーナムの半生を描いた映画だ。夕方からの上映会だったので、人もまばら。いつものように席の一番うしろの中央に席をとる。そして映画が始まった。
主人公のバーナムは最初、世界の珍しい動物の剥製や変わったものを集めて「バーナム博物館」をオープンさせる。そこから、彼は生きている人、それも変わった特徴のある人たち、つまり障害者であるような人たちを集めてショー=「サーカス」を始める。『グレイテスト・ショーマン』のサーカスのメンバーは歌声は素晴らしいが、男性のようにひげの濃い女性、ナポレオンに憧れている小人症の男性、背の驚くほど高い男性、全身に入れ墨を入れた男性。

映画をみながら私は鮮やかに25年前の見世物小屋のことを思い出していた。映画館で私はもう一度見世物小屋に出会ったのだった。映画『グレイテスト・ショーマン』の主題歌は『This is Me』という。他人と違う、だからこそ「これが私」と歌う歌。秩父の夜祭の見世物小屋も、『グレイテスト・ショーマン』のサーカスも、社会から虐げられた人たちが、自分たちで見つけた居場所なのだ。そしてそこで自分の障害を晒しながら、でもそのことに胸を張って生きている。

私の生きる深さはどう変わっただろうか。あのとき、見世物小屋の人たちと自分を引き比べて自分の深さを恥じたけれど、私なりにそこからの人生は決して平坦ではなかった。今振り返れば、あのときも生き方の深さを比べる必要なんてなかったのだと思う。人にはそれぞれの境遇があり、それぞれの人生がある。自分の生き方が浅いからと引け目を感じる必要なんてなかったのだ。なぜなら、どんな深さの生き方であっても、他人と違う、だからこそ「これが私」だからだ。逆に言えばそんな比べる気持ちが私をあの見世物小屋のテントに入ることを躊躇させていたのだと思う。今、あの見世物小屋のテントが目の前にあったら、私は真っ直ぐに入っていくと思う。
あのテントはやはり異界への扉だった。なぜなら入る前と入る後では世界が違ってしまったから。そして映画『グレイテスト・ショーマン』も誰かにとってそんな異界の扉になるのかも、しれない。

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