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プロフェッショナル・ゼミ

女王だった、ことがある《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ノリ(プロフェッショナル・ゼミ)

「うーん、やっぱり、看護婦さんだったかなあ」
「私は幼稚園の先生!」
「ああ! 手堅い! 保母さんも人気あったねえ」
「私はケーキ屋さんって書いたことあるなあ」
「私はねえ、お嫁さん!」
「わー! 幼稚園の同じクラスにいた。それって職業かなって思ってた!」
「だってさ、ドレス着れるじゃない?」
「ああ、そこか!」
「じゃあ、それって、あれじゃない? お姫さま!」
「それ! それ!」
「わー! それだ! 結局そこだ!」

子どものとき、何になりたかった?

美穂の、そんな一言から始まった会話は、満場一致で「お姫さま」、という結論に達した。

テレビアニメの影響もあるのだろうか。きれいなドレスを着たり、お化粧をしたり。たくさんの男の人に結婚を望まれたり、姫であることを隠して人間界に降りてきていたり、魔法を使って人を助けたり。
私たちは、違いはあるものの、「お姫さま」に憧れていた、ということがわかった。

「うわー! 懐かしい!!」
私にも身に覚えがある。
先日、物置の整理をしていたときのことだ。子どもの時のおもちゃ箱から出てきたのは、ピンクのドレスを着たお姫さまの人形だ。毎日お人形さんごっこで活躍していたときから数十年。かなりくたびれた様子だったが、いつも遊んでいた人形だ。
さらに発掘されたらくがき帳には、身長の半分が顔で、顔の半分がキラキラした目という、現実離れしたお姫さまの絵がたくさん描かれていた。

「でもさ、子どもの時のなりたいものになった人なんて、なかなかいないよね」
美穂が言う。
「まあ、子どもの時の夢、だからね」
看護婦さんに憧れていた美穂は、メーカーの事務として働いている。幼稚園の先生に憧れていた純子は、企業の経理だ。
「私なんか、結局ドレス、着なかったんだよね」
お嫁さんに憧れていた真穂は、結婚して実際にお嫁さんになったのだけれど、結婚式はすることなく、ドレスを着ることはなかった。
ケーキ屋さんに憧れていた私は、グラフィックデザイナーになった。

「でも私、ちょっと、夢がかなったことがあるかもしれない」
私は思い出していた。
「えー! ケーキ屋さん? バイトとか?」
「ううん、姫の方」
「えー! なんで? どういうこと?」
私の発言にみんなが驚く。
「誰かのお姫さま、とか言うのなしだからね!」
「ははは、それはない。でも私の場合、姫ではなく、女王だった」
「えー!! なにそれ? どういうこと?」

私が女王になったのは、小学三年生の時だった。

「おあがりください!」
「いただきます!!」
日直のあいさつに続いて、クラスの全員が声を合わせると、食器のかちゃかちゃする音とおしゃべりで、一気に教室が賑やかになる。
私は三年二組の教室で、みんなと給食を囲んでいた。

瓶の牛乳のふたの紙のキャップをあけて、一口飲む。
今日も牛乳が濃い。
机を合わせているグループのみんなが、口の上に白いひげをつけながらご飯を食べていた。

「給食はよくかんで食べましょう」
「牛乳もかんで飲みましょう」

牛乳をかむってなんだよ? 気持ち悪い。
給食室の廊下に貼ってある張り紙を見て、子どもながらにいつも思っていた。
私は給食が嫌いではなかったが、決して好きではなかった。あまり味わいたくなかったからだろう。私はほとんど噛まずに給食を食べていた。
毎日あっという間に給食を平らげると、そそくさと食器を片付けた。そしていつの日か、クラスの誰かが言った。

「出た! 給食早食いの女王!」

私は男子を差し置いて、クラスで一番、給食を食べるのが早かったのだ。

「やっぱすげえ!」
それから毎日、賞賛を浴びながら、私はクラスで一番に食器を片付けた。
「女王」というあだ名がついたことで、私は自分が女王であることを自覚した。そして、クラスの中でも、女王への無言の期待のようなものが膨らんでいった。
日に日にたくさんの挑戦者が出てきては、私の前に、散っていった。
私はもともと身につけていた「噛まない」食べ方をさらに進化させ、毎日記録を伸ばしていた。
勉強もぱっとせず、運動神経も鈍い私だったが、給食の時間だけは、その名前の通り、「女王」でいることができたのだ。

しかし、その日は突然やってきた。

「今日は麺の日か……」
給食の献立表を見て、私はがっかりしていた。
給食には週に一度は麺の日がある。当時の給食の麺は、「ソフト麺」といい、別添えでついてくるビニールに入った麺を、汁に入れたり、からめたりして食べる、というものだった。
そして今日は、味のないみそ汁のようなものに麺を入れて食べる「みそラーメン」の日だった。このラーメンが、私はとても苦手だった。

ビニールに入ったソフト麺は、一度に全部入れると、お椀から汁があふれてしまう。半分ずつ麺を分けて入れ、汁の中でほぐして食べる。しかし、乾いた麺は、なかなかほぐれない。私は今日も、麺に手こずっていた。

「あ、二瓶くんだ!」
そんな時だった。体育の得意で体の大きい二瓶くんが、席を立ち、食器を片付け始めたではないか。
「女王が負けた!」
ざわざわした教室のあちこちからそんな声が上がった。

「ガタン!」
一人抜かれると、精神的なダメージが大きいのだ。すっかり手が止まってしまった私を置いて、次に席を立ったのは雅人くんだった。
私は二人にも抜かれることになってしまった。
頭が真っ白になった。
それから私は何番目に、その日の給食を終えたのか、覚えていない。

みそラーメン。
その日、私は女王の冠を下ろすことになった。

次の日、いつものように給食の時間はやってきて、いつものように食べ始めた。
けれど、私はリベンジしたりはしなかった。女王は潔いのだ。
二瓶くんはその日も、クラスで一番に食べ終えて、食器を片付けると、校庭へと消えていった。

もう、何も感じなかった。
むしろ、こういう日がくるのを、ずっと前から望んでいたのかもしれない。
私は「女王」だった日々にはできなかった、グループの子たちとの会話を楽しみながら給食を食べることができた。

それでも私が一番に食べ終える日があったことはあった。
しかし、クラスのみんなも、もう以前のように、さわぎたてることはなくなった。
いつしか、私が女王だったことは、忘れられていって、四年生になるころには、もう誰もあの名前で私を呼ぶ人はいなくなった。

「給食早食いの女王」

「ねえねえ、この後、ラーメン食べに行かない?」
盛り上がった飲み会の帰りに、美穂が言った。
「この間、食べたとこ美味しかったよ! これから行ってみる?」
「いいねえ!」
純子の誘いに真穂はノリノリだ。

飲み会の帰りに、仕事が遅くなった時に、終電がなくなった時に、普通に聞かれる会話だと思う。ただ体がラーメンを欲する。それ以外に深い意味なんてない会話だと思う。みんなどこかしら好きなラーメン店があるものなんだろうし、好きな人は、オープンするお店にかたっぱしから行くという。

けれど、私は、実はラーメンが嫌いだ、なんて言ったら、たくさんの人を敵に回してしまうのだろうか。

「食べるの早い! 行儀悪い!」
今でもたまに、女王だった時の片鱗が見えてしまうことがある。
9歳で女王だった日々。からかってくれたのは、男の子たちだけで、クラスメイトの女の子は、引いていただろう。
「あ、早かった、ごめんね」
女友だちに謝りながら、短かった女王の日々を思い出す。

「うーん、私は今日はラーメンはいいかなー」
「えー、行こうよ! せっかくみんなで会ったんだから」
私はみんなの誘いを適当に受け流した。
今日は、じゃない。実は、今日も、だ。

私が負けた味。
私が女王でなくなった日の味。

ラーメンは、おいしいけれど、いつもしょっぱいんだ。

***

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