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プロフェッショナル・ゼミ

彼が、「遅咲き」になった理由《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:高浜 裕太郎(プロフェッショナル・ゼミ)
※このお話はフィクションです。

「遅咲き」と言った言葉を、あなたは聞いたことがあるだろう。
「彼」が小学生の頃、30歳のサッカー選手がいた。サッカー選手で30代というと、相当なベテランの域に入る。けれども、そのサッカー選手は、今までに1度も、その国の代表に選ばれたことが無かった。
そして、30歳になってから、初めてその国の国旗を背負って、国際大会への出場を果たした。人々は彼をこう評価した。「遅咲き」と。「苦労人」と。

「彼」こと、ダニエルは、そのサッカー選手をテレビで見ていた。もちろん、サッカー選手が、世間でなんと言われているかも知っていた。
ダニエルは、「遅咲き」や「苦労人」といった言葉が、褒め言葉だと、当時は思わなかったし、出来るなら自分はそうはなりたくないと思った。
ダニエルは、将来の夢が決まっていたわけではない。サッカー選手になりたかったわけでもない。けれども、どのような職業についたとしても、「遅咲き」や「苦労人」と呼ばれたくはないと、小学生ながら彼は考えたのだ。
サッカー選手だって、10代の頃から、その国の国旗を背負う、「天才」と称される人もいる。その人達に比べると、「遅咲き」というのは、いささか花がないように見えた。天才というのは、スマートに成功したというイメージ。遅咲きというのは、汚い泥の中を這いずり回って、ようやく成功を手にした人というイメージが、ダニエルの中にはあったのだ。
それに、「遅咲き」は良いことなんて1つも無いと、ダニエルは考えていた。サッカー選手の場合、30歳で国の代表に呼ばれたとしても、活躍できるのなんて、あと数年だ。だから、「遅咲き」というのは損だと、ダニエルは考えていた。

「絶対俺はこうはならないぞ……」
小学生だったダニエルは、テレビを見ながらこう思っていた。自分は絶対に、早くから活躍してやるんだと、心に決めていた。

そして月日は流れて。15年の歳月が経過した。
あの時、ダニエルがテレビで見ていたサッカー選手は、40歳まで現役を続け、引退した。人々は彼を「鉄人」や「生ける伝説」と呼んだ。
そして、あの時テレビを見ていたダニエルは、今は会社員になった。
「お前、3年もこの仕事やってて、まだこんなミスしてんのか!」
「ちょっと、ダニエル? あなたこの仕事何年目?」
また今日も、自分への怒号が、どこからともなく飛んできた。ダニエルはそれをじっと受け止めるしかなかった。
ダニエルは、この会社に入社して、3年になる。けれども、ちっとも仕事は出来ないままだった。仕事の出来栄えとしては、新入社員に毛が生えたくらいだった。それは、自分だけはなく、周りも認めていることだった。
どうして、入社して3年も経っていながら、こんなにしょうもないミスをするのだろうか。いつになったら、1人前になれるのだろうか。ダニエルは、毎日そんなことを考えていた。けれども、そうやって考えている間にも、怒号は飛んできた。だんだんと、それにも嫌気が差してきた。

「ひょっとしたら、この仕事は向いていないんじゃないか」
ダニエルは、こう考えることがあった。3年も経てば、仕事の向き不向きが分かると、世間では言われている。その公式に当てはめるならば、今の自分は「この仕事に向いていない」ということになる。ダニエルはそう考えていた。
もしかすると、この仕事が向いていないだけで、他の分野では、もう少しマシな働きが出来るのではないだろうか。ダニエルはそう考えた。

「また! おいこれやったの誰だ。ダニエルか?」
上司や先輩から、新入社員の頃と変わらないくらい怒られ続けている。もう嫌だと考えることが何度もあった。

彼はいつもクタクタになって家に帰る。クタクタになっているのは、仕事の疲れもそうだが、怒られすぎて疲れているのだ。そして、ボロ雑巾のようになった体を、ベッドに預ける。そんな毎日を繰り返していた。

ある日、いつものようにボロ雑巾になった体をベッドに預けると、彼はテレビを付けた。普段テレビなんて見る間もなく寝てしまうから、テレビを見ること自体が久しぶりだった。

たまたま付けたチャンネルで、何かのドキュメンタリー番組があっていた。どうやら、特定の人に密着取材して、それを報道するという番組のようだ。ダニエルは、その番組のことはよく知らなかったけれども、その日はたまたま、ダニエルの知っている人が出てきた。
その人は、小さい頃に見た、「遅咲き」と呼ばれたサッカー選手だった。

そのサッカー選手が40歳になった頃の映像が、そこには映っていた。現役を引退する直前の彼は、トレーニングに励んでいた。サッカーに関して素人のダニエルが見ても、きつそうな練習を、そのサッカー選手はやっていた。
「いつも、こんなにハードワークなのかい?」
密着取材している記者が、サッカー選手にこう尋ねた。すると彼は、汗を拭いながら、こう答えた。
「あぁ、そうさ。20代の頃よりも練習している気がするよ」
ハハッと笑みを浮かべながら、彼はまた走る為にグラウンドへ行った。

ダニエルは、そのサッカー選手を見て、疑問を感じざるを得なかった。
「あの人はなぜ、そこまで頑張ることが出来るのだろうか」
そのサッカー選手が、活躍し始めたのは30歳を間近に控えてからだ。それまでの10年余りは、言うならば「修業期間」だったはずだ。周りでは、25歳くらいで才能を表し始める人もいただろうし、彼は25歳になってもなお、汚い泥の上を這いずり回っていたのだ。
「どうして彼は、頑張ることが出来たのだろうか」
その番組は、そのダニエルの疑問に対する答えを、教えてはくれなかった。

次の日も、ダニエルは仕事に行った。
ダニエルは、決して不真面目に仕事をしていたわけではない。勤務態度は、至って真面目であった。その点は、自分だけではなく、他人も認めていたとおもう。だから、真面目に仕事をやっているのに、出来が悪いダニエルを、皆不思議がっていた。
だからこそ、ダニエルは「どうして自分は仕事が出来ないか」ということが、分からなかった。不真面目に仕事をやっていたのなら、自分が不出来なことは納得がいく。けれども、なぜ真面目にやっているのに、不出来なのか、全く理解が出来なかった。

ダニエルは、仕事をしている合間に、ふと昨日のテレビ番組が、頭をよぎった。遅咲きのサッカー選手に密着した番組を思い出していた。
「あのサッカー選手は、今の自分のように、仕事が嫌になったりしなかったのだろうか。嫌になっていたとしたら、どうしてそこを踏ん張ることが出来たのだろうか」
そんなことを考えていたら、「おい! ダニエル、ボーっとするな!」なんて怒号が聞こえてきた。

そしてその日も、ダニエルは、クタクタになって家に潜り込んだ。そして、自然とテレビを付けた。たぶん、昨日のように、テレビが自分に何かしらのアドバイスをくれるのではないかと思ったのだ。
テレビを付けると、また見覚えのある顔が、画面上に出てきた。昨日見たサッカー選手だった。
どうやら、その番組はシリーズものになっているらしく、何回かに分けて放送されているようだった。
テレビは、そのサッカー選手の引退会見の模様を映し出していた。たくさんの記者に囲まれて、その選手は会見に臨んでいた。おそらく、無名の選手だったら、ここまでの報道陣は集まらなかっただろう。ダニエルから見て、カメラのフラッシュの中に映る、その選手は、少し笑っているように見えた。
その選手が引退する時、世間は少なからずざわついた。会見の模様も、大々的に報道されたであろう。けれども、ダニエルはその会見を、初めて見たような気がした。

「現役時代、1番辛かったことは?」
ある記者が、選手に向かってこう質問した。すると選手は、少し笑みを浮かべながらこう言った。
「20代の頃だね。あの時は本当に辛かった。今まで仲の良かった奴らが、次々と有名になっていく。対して、俺は何をやっているんだと、毎日劣等感に苛まれて、もうサッカーなんてやめてしまおうかとも考えたんだ」
そして、この次の言葉が、ダニエルに刺さった。
「けれども、俺はやめなかった。なぜかって? 俺は自分を信じたからさ。絶対に俺はスターになれるって、信じていたからさ」

その言葉は、まるで突風のように、ダニエルに向かって吹き、耳から脳に入り、頭の中でグワングワンと響いていた。
「自分を、信じる……?」
ダニエルにとって、その言葉は驚くべき言葉だった。ダニエルは、自分を信じたことがない。自分のことを「出来る奴」だと、1度も思った事はなかった。
そんなダニエルにとって、その選手の言葉は衝撃的だった。自分を信じるとは、どういうことだろうか。
「俺は遅咲きとも苦労人とも言われた。でもそれでもよかった。こんな年まで現役を続けられたのだから、満足だよ」
そういって、その質問は終わった。

ダニエルは小さい頃、「遅咲き」よりも「天才」に憧れていた。何でもスマートにこなす、天才になりたかった。けれども、ある年齢になると、自分には何の才能もなかったということに気付いてしまった。それから、自分を信じるということを止めてしまったのだ。

けれども今、あのサッカー選手が、「自分を信じる」ということを教えてくれた。けれども、本当に「自分は、本当は出来る奴だ」と思い込むことで、成功へと近づけるのだろうか。そのことは、半信半疑だった。
ダニエルは、その次の日から、自分のことを「出来ない奴」と蔑むことを止めた。そして、出来る限り、自分がなりたい像をイメージしてみた。
仕事が出来ないよりも、出来るようになった方が良いに決まっている。怒られるより、褒められた方が良いに決まっている。
だから良い結末を迎えるようにする為に、ダニエルは努力し始めた。

さらに3年の月日が経った。
「おいダニエル、新しい名刺が届いたぞ」
上司から渡された名刺には、役職が書かれていた。「主任」と書かれている。
「ありがとうございます」
ダニエルは、上司に向かって、深々とお辞儀をした。
「いやぁ、お前が人にものを教える立場になるなんて、思わなかったよ。前はあんなに怒られてばっかりだったのにな!」
名刺を渡してくれた上司は、ガハハと笑いながら、ダニエルに向かってこう言った。

ダニエルは、あのサッカー選手の会見を見てから、考え方を改めた。そして3年後、役職が就くまでになったのだ。

「あの時、自分を信じるということを、あの選手が教えてくれなければ、自分は今でも、泥の中を這いずり回っていたかもしれない」
ダニエルは、そう思っている。ダニエルは「天才」ではなかったけれども、「遅咲き」にはなることが出来た。それは、彼が自分自身を信じたからである。
世の中、天才と呼ばれる人は少ない。自分に才能が無いと思い込んでしまう人の方が、天才よりも圧倒的に多いだろう。
けれども、「自分は、本当は出来る奴」と思い込むことで、人は100%以上の力を発揮することが、出来るのではないだろうか。
「自分は出来ない奴だから」と言って、腐るのではなく、まず自分を信じてあげることが大切である。
ダニエルは、あの選手が教えてくれたことを胸に、今日も仕事に励む。

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