プロフェッショナル・ゼミ

「『やりがい』がないといけない病」を克服して《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永井聖司(ライティング・ゼミプロフェッショナルコース)

「仕事のやりがいは、なんですか?」
3月。同じようなリクルートスーツに身を包み、同じような髪型をした就活生たちが大量に街に解き放たれる季節。その中のとある日に開かれた当社の会社説明会には、ありがたいことに数十人の参加者がいた。その中で、とある女子大生からお馴染みの質問をされた瞬間、僕の頭には反射的に、とある画像が浮かんできた。
『おめでとう!』
『初受注、やったね!!』
『やるじゃん!!!』
それは、僕が営業時代に初めて受注したことを報告した際に、何人もの先輩から頂いた、お祝いメールの画面だった。
それはほんのわずかな時間ではあったけれど、思い出に浸ってしまっている自分に気づいた僕は、『イカンイカン今の仕事は営業ではないんだった』と思い直して、質問をした女子大生を見返す。
黒のリクルートスーツに、おでこが見えるように横分けされた前髪、後ろ髪は1つにまとめられているザ・就活生といった感じの女の子だった。
対するこちらは入社6年目。同様の質問を何十回と受けてきたはずなのに、「あー……」と、意味のない言葉を漏らしてしまう自分がいる。本当のことを言ってしまいたいという思いと、それを言っては流石にマズイという思いが、交錯する。そして僕は毎回モゴモゴと、口の動きを確認するようにゆっくりと話し始めては、前に回答したことを思い出し、その内容を再生していくように話を続ける。
「やりがいは、学生さんに合格を伝えた時に喜んでくれた声を聞けることとかそれから……」
実際に学生さんの喜びの声を聞くことはあっても、そのことに慣れてしまった今となっては、それを『やりがい』だと答えるのは間違っているかもしれない。そんな考えが、頭をよぎる。全くの嘘でもないけれど本当でもない、学生が良い方向に取ってくれるだろうということも加味した、グレーゾーンの答えだ。
彼女のような、本当に汚れのない、輝く瞳を向けられ、元気に頷かれると言葉が酷く痛むのだけれど、仕方がない。
本当のことなんて、言えるわけはないのだから。
『やりがいなんて、ないよ』
なんて。
こんなことを言ったら、学生さんが一気にドン引き、当社への志望度も急降下。輝く美しい瞳は、一気に濁ってしまうに違いない。

そして、モヤモヤした気持ちを抱えながら会場を後にした僕が会社に戻って目にしたのは、変わり映えしない光景だった。
会社の一番奥のスペースにズラッと並んだ電話機と、いつもと変わらぬ位置に座る後輩とパートさん。
これが、『やりがいがない』僕の職場。主に中小企業向けに新卒採用の代行業務を行っている当社の、コールセンター部門だ。全国約120社のお客様に代わって、大学生向けに電話連絡業務を行うのが主な仕事だ。実際に電話をするのはパートさんが主になるので、社員はその管理やその他電話業務以外の採用関連の代行業務を行うことになる。
見慣れた風景を確認した僕は特に何を思うでもなく、いつも通りの席につき、パソコンを開く。社内のメールをチェックして、電話作業を行うリストにミスがないかをチェックしてと、プログラミングされたように、いつも通りの順序で、やるべき業務をこなしていく。そこに感動なんてものは愚か、感情の上がり下がりすら殆ど無い。プログラミングされた機械も同然なのだから、当然だ。
そんな職場で『やりがい』なんて、あるわけないじゃないか。

「広島のコールセンターに、異動して欲しい」
4年前。場所は東京・五反田。
当時営業だった僕は、スターバックスで上司と向かい合い、そう告げられた。
コールセンター勤務の先輩が異動の希望を出しているらしい。そんな噂を聞いていた、当時営業成績も芳しくなかった僕からすれば、全く予期していなかった訳ではない。それでもやはりその話に、僕はとても戸惑った。
なぜなら、『社内で1番、コールセンターに向かない人材は自分だ』と、自分自身で思っていたからだ。

「永井くん、この文書の日付が間違ってるよ」
「今日までにお願いしていた仕事、もう出来た?」
「アポイントの時間間違ってるよ!」
小さい頃から、自分がやったことに間違いがないかチェックすることや、計画立てて物事を進めることが極端に苦手だった僕は、そのままの状態で社会人となり、先輩やお客様からのご指摘・クレームの嵐を当時巻き起こしていた。そして同時に、『こんなにもミスが起きているけど、これは自分の性分だから仕方ないでしょう?』とも思っていた。
対してコールセンターは、それらの要素が特に求められる職場だった。
120社あるお客様に対してどのように電話を掛けていくかをスケジュールに落とし込み、パートさんの仕事にミスがないかをチェックしなければいけない。更には繁忙期に耐えられるよう、パートさんの募集や採用も計画的に行わなければいけないし、入社されたパートさん達の指導や管理をしなければいけない。
コールセンターの仕事について考えれば考えるほど、自分に到底できる業務とは思えず、終いには、異動の話を持ち出してきた上司に対して、何故僕にこの話を持ってきたのだろう? という考えさえ芽生えてきた。
そして僕は上司の顔を見返して、返答した。

その日から今日まで、コールセンターに異動してからと言うもの、初受注の際にお祝いのメールを頂いた時のような高揚感を得たことは、一度たりとてない。代わりに与えられたのは、主任という肩書だけ。
数百万という提案が通って上司や先輩から褒められたこと、『新人なのに良い提案だったね!』と経営者の方から褒められたこと、採用の現場でお客様の目標採用人数を達成して感謝の言葉を頂くことなどなど、思わずガッツポーズを取りたくなるぐらい興奮し、ハラハラし、真剣に悩むことが、営業時代には確かにあった。しかし今は、それがない。
加えて、コールセンターの前任者の言葉が、僕の胸には深く突き刺さる。
「コールセンターの仕事に、一発逆転はない」
コールセンターや事務的な仕事は、『ミスがないのが当然』であって、『ミスが起こるほうがおかしい』と考えられるのが一般的である。営業ならば、ミスやクレームを出したとしても、大きな提案を決めたり他のことで成果を上げたりして、挽回するチャンスがあることがある。しかしコールセンターの仕事にはそれがない、という意味だった。
その言葉通り、僕がとあるお客様で顛末書レベルのクレームを出した際、失った信頼を取り戻すためには、1年が掛かった。しかもその方法はとても地道で、コツコツコツコツ依頼された内容をミスなく、完璧に行っていくこと以外に方法がなかった。まさしく、『一発逆転なし』の苦しみを味わった。
営業時代との違いは、それだけにとどまらない。閑散期と繁忙期の差が激しい当社のコールセンターではその分、スタッフの出入りが激しい状況にある。その中にあって重要になるのがマニュアル化による業務の平準化、社歴の違いに関係なく仕事が出来る環境を整えることだ。そのため業務に余裕ができれば私たちは、新しくマニュアルを作成したりまた、過去のマニュアルの内容を修正・更新したりと行っていはるのだけれどこれも、はたと立ち止まって考えてみると、自分自身の存在を消していくような作業だと気付かされる。
コールセンターの中にあっては、誰か『だけ』がノウハウを持っていることはNGであって、それらを共有することが良しとされる。ノウハウを独り占めしたり、ご指名でお仕事を受けることがなくなればつまり、「『永井さんが』良かった」とか、名指しで褒めてもらえていたようなことも今後コールセンターにいる限りは起こり得ないし、それどころか、『誰が仕作業しようが同じでしょう?』ということになり、個人としての存在意義が、どんどんどんどん薄れていってしまう用に感じてしまう。
こんな風に、営業時代のことと、コールセンターの中にいる自分を比べて落ち込むことが、時々ある。それは時には、学生さんから「やりがいはなんですか?」と聞かれるときであったり、また他には、上司との面談の最中だったりするのだけれど、落ち込む時は、とことん凹む。
どうやったら上司に評価してもらえるのかを考え、それは無理だろうという考えに至ってしまえば転職を考えてみたり、はたまたただただ暗い部屋の中でボーッとしてみたり。

しかし、そんな精神状態のまま、過去の業務が走馬灯のように流れる中で仕事をしていけばふと、「あれ?」と思う瞬間が、生まれることがある。
コールセンターに異動してきた時には30分かかっていた作業が、10分で終えられるようになっている。昔はミスばっかりで指摘を受けていた作業も、ほとんど指摘を受けることがなくなったな。信用してもらえているのか、営業からの指示の出し方が簡易的になってきたぞ、等など。
変わり映えのない、毎日のルーティンをこなすために前だけを見ていたせいで気づかなかったけれど、立ち止まって、振り返ってみる。
すると、後ろに長く伸びた影の中に、キラキラと光る、無数の小さな成長や成果が背後に散らばっていることに、気付かされるのだ。営業時代に得られた成果や祝福の言葉用の派手さはまるでない、一つ一つは本当にささやかで小さい、意識しないと感知出来ないほどのものだけれど、まとめてみるととても大きく、数百万の売上を上げること以上に大きな価値であるものが、そこには確かに存在している。
しかもこれらの成長や成果は、『やりがいがない』と思っていた日々の中で、得られたものだ。そのことに気づいた僕は、『やりがい』なんていらないんじゃないのか? と思うのだ。

あればあったで困りはしないけれど、ないならないで、問題ないもの。
それはつまり、ペットのようなものだと、僕は思う。端から見たら絶対的に必要なものではないのに、ペットを飼っている人からすれば、そんな考えすら許されないぐらい、ペットを飼うのが当たり前で、疑問を持つ余地すらないぐらいに、あることが当然のように思われている。それが、『やりがい』だ。だから毎年、就活シーズンになったら、『やりがいはなんですか?』という質問に答えなければならなくなってしまうのだ。みんな、「『やりがい』がなくてはいけない病」に掛かっているのだ。
その考えを捨てて、やりがいがなくても良いんじゃないのか? という考えに立ってみたら、また新たな選択肢が生まれるんじゃないだろうか。
やりがいがなくても、仕事は出来る。
逆に「『やりがい』がなくてはいけない病」に掛かったままでいると、自分の可能性を狭める可能性だって十分に有り得るのだ。そのことに気付けば、やったことがないことや、全くの不得意ジャンルに挑戦することへの勇気にも、繋がるはずだ。

「よく考えたらやりたい仕事じゃないので、辞退します」
とある企業の選考のご案内をしようと思ったら、学生さんが、こんな風に答えた。
『やりたい仕事』であるかどうかに、どれほどの価値があるというのですか?
とっさにそう言ってしまいたくなったけれど、僕はグッとこらえて、慣れた手つき、で次の電話番号をコールした。
『やりがいはない』と割り切りつつ、自分の成長に繋がるはずだと信じつつ。

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