メディアグランプリ

カフェオレみたいな人生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほさか 梨恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「よしっ! コーヒーのセット完了!」
 
私の朝は、コーヒーメーカーでコーヒーを淹れて始まる。
使っているコーヒーメーカーは独身時代から使っているありふれたものだ。
フィルターをセットし、コーヒーの粉を入れる。
こだわる人は入れる粉の量もしっかり計って入れるらしいが、私はそこまで几帳面ではない。
メジャースプーンでざっと4杯、水は5杯の目盛りまで。
使うコーヒーの粉は、色々試してみたけれど、最近は苦みと酸味のバランスが取れたごく普通のブレンドに落ち着いていた。
スイッチを入れて、コーヒーがぽたぽたと落ちる音を聞きながら、朝食の準備をする。
 
小さいころの私にとって、コーヒーは大人の飲み物だった。
朝は牛乳一気飲みが私の定番だった。
あんな苦い物のどこが美味しいのか私には分からなかった。
それでも父が美味しそうに飲んでいるのを見ていると、父は私の持っている牛乳に少しだけコーヒーと砂糖を入れてくれたことを思いだした。
コーヒーの苦みを砂糖が少しだけ和らげてくれた。
 
学生のころは、近くのコンビニでコーヒー牛乳を買う毎日だった。
すぐに買えて、甘くて、そして安い。
机の横にはいつも紙パックのコーヒー牛乳が控えていた。
500ミリリットルの紙パックに入ったコーヒー牛乳は、私の相棒のような存在だった。
 
会社に入ると、さすがにコーヒー牛乳はカッコ悪い。
そう感じて、インスタントコーヒーに切り替えた。
最初のうちは、スプーンで一杯ずつ入れていたが、仕事が忙しくなるにつれて、インスタントコーヒーの瓶から直接マグカップに入れるようになった。
毎回、量が変わるのもお構いなし。
朝に2杯、昼に2杯、夕方に1杯飲んで、残業する毎日。
いつの間にか、牛乳や砂糖がなくても飲めるようになっていた。
美味しいのかどうかもよく分からないけれど、とりあえず飲んでいる
それは眠気を覚ますためのただただ苦い飲み物に過ぎなかった。
 
旅行の時は、私の住んでいる地域にはまだなかったコーヒーショップに行くのが楽しかった。
呪文のようなメニューで注文すると、田舎者の私は都会の人に変身したような気がした。
シロップを変えたり、粉砂糖を振りかけたり、元のコーヒーの味なんか分からなくなっていた。
 
会社ではもう若手と呼ばれなくなった頃、窓際にいる上司から宿題をもらった。
「この手続きに関する法令の条文を調べてみろ」
私はインターネットで調べて、その結果を上司に伝えた。
上司は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「確かに調べ方については何も言わなかったけど……」
上司は給湯室に私を連れていった。
「ネットはすぐに答えがでて便利だ」
マグカップにドリッパーを載せながら、上司は話を続けた。
「けれど、それじゃお前の頭は何も考えていないんだよ」
コーヒーフィルタの中には、その上司が自分で買ってきたコーヒーが入っていた。
コーヒーに少しだけお湯を注ぐ。
ふっくらとコーヒーの粉が盛り上がってきた。
「お湯を全部入れないんですか?」
「蒸らして、コーヒーの旨味を出してんだよ」
「めんどくさいですね」
「お前なぁ……」
上司は、ポットからお湯を細く注いだ。
ぽたぽたとコーヒーがドリッパーから落ちてくる。
マグカップには、なみなみとコーヒーが注がれていた。
 
「ほれ、飲んでみろ」
 
ふんわりと香ばしい香りが鼻に入った。
一口飲んでみると、苦いけれどもかすかな酸味、そして甘味を感じた。
「これって、お砂糖入ってないですよね?」
「もちろん。うまいだろ?」
「美味しい……」
 
コーヒーは苦いだけだと思っていた私は、その日、コーヒーの美味しさを知った。
上司のコーヒーの粉は、スーパーでも売っているものらしい。
どこにでもあるものだ。
けれども、今まで飲んだコーヒーとはまったく別なもののように感じた。
 
「お前には、じっくり考える時間が必要だ」
上司はそう言い残して、給湯室を去った。
 
ぷしゅー
コーヒーメーカーから、蒸気が抜ける音がした。
いつしか台所はコーヒーの香りでいっぱいになっていた。
大きめのマグカップに少しの砂糖とマグカップ半分まで牛乳を入れて、コーヒーを注ぐ。
そして、温かくなったマグカップを両手でもって、一口飲む。
寝起きの体に温かさが広がっていく。
 
まだポットにコーヒーは残っているが、これは仕事の時に飲む分。
今日はじっくり考える仕事があるから、ブラックコーヒーで飲む予定だ。
午後はきっと甘味が欲しくなるから、カフェオレにキャラメルを入れようかな。
 
そうこうしているうちに、時計を見るともうすぐ8時。
2階で寝ている家族を起こしにいこう。
私は階段を上っていった。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/zemi/47691

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-03-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事