メディアグランプリ

社長が”承認”している限り、組織は変われない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田裕嗣(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
その日、3期連続の赤字が確定した。
 
「いったい次は、何をすればいいんだ……」
 
12年前、社長の高田が創業したこの会社は、インターネット関連で大小あわせて4つの事業を展開している。
 
創業から右肩上がりだった成長は、3年前から陰りを見せ始めた。
それ以降、高田は思いつく限りの手を打ってきた。
 
自らの指揮のもと、2つの新規事業を成功させた。
組織作りにも着手し、少なくない人数の退職者を出しながらも、社内の雰囲気は改善された。
他にも、既存事業のテコ入れ、新たな事業提携、採用や育成の強化など、色んな施策を次々と打ってきた。
 
しかし、結果として、3年連続の赤字である。
 
「このままではまずい」
高田は、経営者としての自分の力量にも限界を感じ始めていた。
 
そんな中、高田はある会食の席で、西村という人物に出会う。
彼の会社は、小さいながらも収益性が高く、独自の経営スタイルで知られており、メディアにも頻繁に取り上げられていた。
 
「色んな手は打ってきたんですが、どれも思うような結果は出なくって」
お酒が入った高田は、気付いたら会社の相談をしていた。
 
「それで、次はどうしようと思ってるんですか?」
西村の持つ話しやすい雰囲気も、高田が饒舌になることを後押ししていた。
 
「正直、困り果ててます。……西村さんだったら、どうしますか?」
 
「そうですねぇ……。私の経験は、あんまり参考にならない気もしますが」
歯切れが悪そうに、西村は語り始めた。
 
「いえ、ぜひ聞かせてください」
 
「もし私が高田さんの立場だったら、最初に止めることは、はっきりしてますね」
西村は、今度はきっぱりと言い切った。
 
「始めることではなく、止めること?」
 
「はい。まずは”承認”を止めます。社長である高田さんだけでなく、会社の中のあらゆる”承認”の手続きを撤廃します」
 
「え? そんなことしたら、仕事が進まなくなるんじゃないですか?」
高田は、西村の言いたいことが理解できなかった。
 
「初めは良く分からないですよね。でも、誰かが”承認”するということは、”承認がないと動いてはダメな人”を作ることになりますよね」
 
「それはそうですね」
 
「高田さんは、そんな風に”誰かに言われないと動けない人”が沢山いる組織を作りたいんですか?」
西村は、高田の目を真っ直ぐに見据えながら、質問してきた。
 
高田は、何も答えられなかった。
 
「”承認”の手続きを止めても、初めは驚くほど手応えがありません。社員も最初は戸惑いますからね。辛抱づよく見守ることが肝心です」
 
「それじゃあ、社長の仕事は何になるんですか?」
 
「大切なのは、変化の兆しを後押しすることですね。指示がなくても動く社員が出てきたら、そのことを褒めて下さい。あとは邪魔をせず、見守るだけです」
 
「褒めることと、見守ること……」
高田が独り言のようにそう呟いたところで、話題は他のことに移っていった。
 
その日の会食が終わってからも、「指示がないと動けない人ばかりの会社にしたいのか?」という問いかけが、高田の心の中に引っ掛かった。
この3年間、会社を良くしようと必死でもがく中で、高田が感じていた「孤独感」をずばりと言い当てられたからだ。
 
3年間、高田は文字通り「孤軍奮闘」だった。
彼はそれを、社員のせいにしていた。
 
しかし、”承認”というルールを作り、結果的に「”承認”がないと動けない人」を作ったのは、高田自身であった。
西村との会話で、そのことを初めて自覚した。
「社長の高田を中心に動く」という組織の体質こそが、変化すべきポイントだった。
 
そこからの高田の行動は早かった。
翌月の全社会議で、
「今ある稟議や承認の手続きは全て廃止」
「他の人の仕事に迷惑がかからない限り、全員、何でも自由に決めて良い」
「自分は何を聞かれても”任せる”しか言わない」
と矢継ぎ早に発表。
それまで使っていた稟議のシステムまで全停止させる徹底ぶりだった。
 
しかし、西村の「予言」どおり、その発表には驚くほど手応えがなかった。
文句を言ってきた数人の例外を除けば、「また社長が何か言い始めたな……」と思う社員ばかりで、今まで通りに仕事は進んでいった。
 
発表から3ヶ月。
きっかけになったのは、2年目の社員が起こした「事件」だった。
彼女は、ある新規の問い合わせを受ける。
お客さんが随分急いでいることを聞いた彼女は、正式な発注をもらう前から、自らの判断で、プロジェクトに着手した。
 
この前のめりな顧客志向が裏目に出た。
プロジェクトを進めたにも関わらず、あまりの短納期を懸念したお客さんは、正式な発注を見送った。
会社には50万円近い損害だけが残った。
 
「その姿勢でこれからも頑張ってね」
高田は彼女の自発的な行動を褒めた。
そして、あとは成り行きを見守ることにした。
 
以前であれば、高田は「正式発注前のプロジェクト着手には上司の”承認”を得る」というルールを率先して作った。
それでは、「考えないで上司に相談する若手」がまた出来上がってしまう。
そもそも”承認”の手続きは自ら撤廃してしまった。
 
その後、何が起きたか。
「事件」を起こした若手社員は、自ら「発注前に引き受けて良いこと」のチェックリストを作り始めた。
それを作るために、他の社員にも積極的に意見を聞いて回ったらしい。
「このリストは良く出来ている!」と社内でも評判になり、気が付けば社内で広く使われ始めた。
おかげで、同じミスはそれ以降1件も発生していない。
 
この間、高田は「何もしなかった」。
自分がルールに基づいた”承認”を求めるよりも遥かに早く、遥かに良い変化が起きた。
「最初に”承認”を止めます」と西村が言っていた意図が、初めて理解できた。
 
もちろん、この1件があったからといって、いきなり業績が劇的に回復に向かうわけではない。
しかし、この3年間の「孤軍奮闘」とは違い、組織全体が変わっていく手応えを、高田は初めて感じることができた。

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2018-03-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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