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メディアグランプリ

失敗の会議、成功の会議


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ほさか 梨恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
一体、いつからこうなってしまったのだろう。
隣に座る課長は、顔面蒼白。
私は頭を抱えて、机に突っ伏した。
 
その集まりは、開始1分でライブ会場となった。
いや、ライブ会場ならまだ観客も盛り上がっているだろう。
ライブ会場というには、ここはあまりにも静かすぎる。
そうだ。ここは通夜の会場だ。「会議」という名の故人を悲しむ場。
喪主は私たち事務局で、参加者は弔問者。
故人と親しい部長は、お悔やみの言葉と想いを熱く語っているのだ。
かれこれ1時間も。
 
午後3時に始まったはずの会議が終わったのは夕方6時。
正確に言うとまだ終わってはいない。
終了直後から、問い合わせの電話がひっきりなしに鳴っているのだ。
「あの会議は何なんだ!」
「もっと早く終わらせろ!」
「何の会議だったんだっけ?」
「俺のところは、何をすればいいんだ?」
電話対応を一通り終えた後、軽く晩御飯を食べて、私はパソコンに向き直った。
これから議事録の作成だ。文字起こしのためにICレコーダーを起動する。
「けど、この内容を起こしたところで、何か意味はあるのかな……」
呟いてみたものの、仕方ない。イヤホンを耳に挿し、本日2回目となる部長の挨拶を聞いた。
 
会議に出て、よく分からない話を一方的に聞き、自席に戻ったら絶え間なく鳴る電話。
リアルで聞いてもよく分からない話を、もう一度聞きなおして文章にまとめて、最終バスが出る時間まで働く。
こんな毎日、もう嫌だ。
心底、私は思った。
 
思い返せば、会議当日の朝9時、部長に「今日は3時から会議ですよ」と言った時から、雲行きが怪しかった。
「そんなの聞いていないぞ!」
会議の開催メールは入れていたが、部長は見ていないと言い張るのだ。
10時には次のトラブルが発生した。会議の資料が全部出揃っていないのだ。慌てて担当者に電話で問い合わせるも「今、上司の確認中ですから!」の一点張り。
いらいらしながら、待つこと2時間。お昼のチャイムが鳴るのと同時に、ようやとすべての資料が出揃った。
お昼ご飯返上で印刷を開始するも、5分もするとエラー音がけたたましく鳴り始めた。ホッチキス機能が壊れたのだ。ホッチキス機能を解除して、人力でクリップ留めにする。
出来上がった資料を、課長と部長に持って行ったところ、資料に誤字を発見した。しかし、その時点で会議開始30分前。もう修正は不可能だった。
会議開始前の時点から、疲労の塊となっていたところにあの部長の話だ。メモを取る気力すら起きない。
誤字を見つけた役員からは叱責の嵐。議論そっちのけで誤字チェックが始まった。
参加者のほとんどは口を開くこともなく、下を向いたまま。
全員が、何を話していたかも、何が決まったのかも把握できていなかった。
 
「こりゃ、失敗するはずだよな」
私は自虐的な笑みを浮かべた。
さて、どうしようか。次の会議は10日後だ。
まずは、部長だ。当日に言ってもムダだから、会議の5日前からアナウンスすることにしようと決めた。
「部長、5日後に役員向けの進捗会議ですよ」「部長、役員向けの進捗会議まであと4日ですよ」「3日前ですよ」「明後日、会議ですよ」「明日の15時は会議ですからね!」
しびれを切らした部長には「しつこい!」と言われたが気にせず続けることにした。
 
会議で使う資料も、期限まで出さない部署は面倒を見ないことにした。失礼な奴だと言われそうだが、期限を守らない方が失礼だと割り切ることにした。
 
次の会議は絶対1時間で終わらせる。
 
私たちも会議のやり方を見直すことにした。
ここは各部署の進捗状況を確認して、問題点があればその対策を決める場だ。会議の最初に、報告するのは問題点だけと決め、出席する役員には会議の終了時間と「対策を決める場」だという目的を書いたメールを配信した。もちろん、秘書にもそのように伝えてくれと依頼済みだ。
発言にも持ち時間を決めた。時間になったら「チーン」とベルを鳴らす。終わらなかったら終わるまでベルを鳴らし続けてみることにした。
部署のホワイトボードを引っ張ってきて、発言をメモしていくことにした。議事録を作る時間が短くなりそうだ。
課長には、会議終了の時に皆から質問がないか聞き、役割分担を確認してから、解散するよう念を押し、会議に臨んだ。
 
驚くことにいつも3時間越えの会議は宣言どおり、1時間で終了した。
ベルを鳴らされた人は多少不満顔をしていたが、参加者からは好評だった。
ホワイトボードに発言が書かれているから、罵詈雑言が一言もなかった。
皆、何をすれば良いか把握しているから、問い合わせの電話も今のところ鳴っていない。苦情の電話もだ。
議事録はあと10分もすれば完成する。間違いなく最短記録だ。
まだまだ改善できるところはあるけれど、久しぶりに定時で帰れる。
今日はきっとおいしいビールが飲めそうだ。

***

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2018-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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